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猫が美少女で実は俺?  作者: もこ
紙飛行機は空高く
24/53

加速



街灯が燈り始めて街を優しく照らす午後19時頃。


「まだ勝負は終わってないですよ。」


時が止まった街の静寂。そして皆の視線が、ゴローに集まる。宿から出てきた彼は、ゆっくりと屋台の前までその身を運ぶ。


「おいゴロー。お前の負けだと何故分からない?それになんだその口の利き方は?」


悪態着くダモダを無視して、ゴローは1枚の折り紙を取り出した。そしておもむろに紙を折り始める。


「今更折り紙なんて意味ねぇんだよ!!足りねえ頭でも分かんだろォ!」


「……。」


必要以上にイライラするダモダを横目に、ゴローの手は止まらない。スラスラと動く彼の手技に、観衆は驚きの声を挙げる。

俺の教えた通り、綺麗に折れているなゴロー。折り紙が苦手なこの世界の人が、こんなにも速く折れるなんて凄いぞ。


「出来ました。」


「……!!」


屋台の上にトンッと置かれたそれは見飽きた紙飛行機では無かった。

ーーそれは【折り鶴】

折るには紙飛行機の何倍もの過程を要するソレをゴローは難なくやってのけた。昨日の夜に俺が教えたのだが良くここまでスピードを上げたものだ。しかも細部まで丁寧に折られており、教えた俺より美しい。


「……凄い、こんな折り紙始めて見た……。」


「鳥……か?とても優美だ。」


所々から聞こえてくる感嘆の声。そしてゴローは口を開く。


「このアルカナ祭りは知恵の女神を讃える祭りです。毎年毎年、紙飛行機に欲のまみれた願望を書き留め、空へと飛ばす。何とも醜い祭りです。」


暫しの沈黙。

誰もが口を開かずゴローを強く見つめている。

そんな沈黙を物ともせずにダモダが声を荒らげる。


「醜い祭りだと?

お前はやはり馬鹿だなゴロー!

アルカナ祭りで紙飛行機を飛ばすのは女神様に願いを届けて叶えて貰う為だ。この祭の何処が醜いと言うのだぁ?」


「願いを叶えて貰う……。その姿勢がです。」


「あ?」


「本来のアルカナ祭りとは何かを教え致しましょう。それは女神様に報告をする祭りです。

自分の決意を書き留めた折り紙を空へ飛ばし、女神様に『こうなるから見守っていてくれ』と報告する。決して願いを叶えて貰うソレでは無い。」


ゴローは続ける。


「何時からでしょうか……我々が無責任に……神頼みになったのは?見栄と欲にまみれた下らない生物になったのは。」


人々は自分の手に持つ金の紙飛行機を見つめる。掴み合いの喧嘩をしていた人は、その手を離す。


「私は昔ダモダの奴隷でした。

そして毎年この祭が来ると紙飛行機に自由を求めた。醜く求め続けた。自分はこれといった努力もしないで。……けれどそれは違う。ただ自分勝手に願うだけじゃダメだ。動き出さなくては何も変わらないし変えれない。だから私は決意を書いた。」


ゴローは折った鶴を手に取り魔力を込め始める。すると命を吹き込まれた折り紙が羽を広げて空へと飛んで行く。その終着点はダモダの手元。彼は乱暴に鶴を手に取り紙を広げる。


「な、なんだこれは!!!」


「『自由になる。』私がずっと望んでいた事。この勝負に勝って、貴方から本当の意味で自由になると今日決意した、その報告だ。」


「ご、ゴロォォォォ!!!!」


「皆はどっちだ!!!

欲にまみれてただ変化を待つのみの臆病者か!?それとも決意を抱き、自ら動き出す勇気の持ち主か!!」


※ ※ ※



「……俺、こんなもん要らねぇよ。」


獣人族の男性が、金の紙飛行機をその場に投げ捨てる。


「俺はダモダに怯えて生きるのはもう御免だ!

そしてゴローさんの言葉に俺は感動した。アンタの力になりたい……1度裏切った身だが……もう1度署名させてくれないか?」


「勿論ですとも。」


ゴローは署名用紙と、事前に折っておいた折り鶴を手渡し微笑む。


「決意を書くのは折り紙であって紙飛行機と限定されていません。良ければどうぞ。」


「……へへっ。ありがとな。」


「ふざけるな!!!おいお前ら!!あいつを殺せ!!」


「はいダモダ様!」


動き出した大男を止めるように、白銀の剣が道を塞ぐ。


「ダメだよルールを破っちゃ。僕が君達を殺すことになっちゃう。」


「……ぐっ…。……神格軍め!!」


最初の男性の行動が引き金となり、ガシャガシャと金の紙飛行機が地面に投げ捨てられる。


「私も……こんなもの要らない。」


「僕もだ。昔からお世話になった宿を潰してまでこんなもの要らない。」


「この歳でやっと気付いたわい。

本当に大事なものは金なんかじゃないとのう。どれ、こんな老いぼれでもお主の助けになるかのぅ?」


口々にゴローを讃える声。

それは次第に強くなっていき歓声へ変わっていく。


「俺はダモダに屈するような臆病者じゃねーぞ!!見てろ!アンタの助けになってやるよゴロー!!」


「頼もしいです!」


「私もよ!女将さんの助けになるわ!」


「あ、ありがとうございます!」


「ダモダに言われて宿に泊まれなかったけど、明日からお世話になって良いかいゴロー?」


「勿論です!」


気が付くとダモダの屋台には、数名の欲深き者しか見受けられない。

逆にゴローの屋台へは、流れるように人が集まってくる。つっかえたものが取れたように、心が晴れたように、人々の顔には笑みが溢れていた。増え続ける署名数。もう負ける事は無いだろう。


「ありがとうございます皆さん……。」


「泣いてる暇があったら俺らにも鳥を売ってくれよ!!あんなスゲーの折れる奴なんてアンタぐらいだ!」


「「「あははは!!」」」


「おいお前らァ!!

今ならまだ許してやる……こっちに署名し直せ…。

良いのか?お前の店を潰す事や街から追い出す事なんてこっちは簡単に出来るんだぞ?」


ダモダはそうやって人々を脅していたのか。そして執拗にゴローの宿への客を減らし潰しにかかった。それはこの街の住民だけで無く観光客や冒険者にも手を回していたのだろう。


「もうアンタなんて怖くない。潰れるのはアンタの宿だ。」


「……ぐっ……。」


勝負あり。良くやってくれた皆。これで宿を取られる事も無く、ゴローが嫌がらせを受ける事も無い。


「あ、見て!」


ノアが指差す方を見ると遠くに一筋の光が登っていくのが見える。その光はやがて爆音と共に夜空に美しい花を開かせた。


「花火だ……。」


久しぶりに見た。祭りといい花火といい、この街は日本を思い出す要素が多い。


「タイムリミットだね。

両者とも署名用紙を僕に。」


副隊長がダモダとゴローの両者に声をかける。2人は用紙を簡単に纏めて彼に手渡した。


「それでは集計します。って言っても持っている用紙の量で答えは既に出ているけどね。あぁ、別に数えるのが面倒くさいわけじゃ無いよ?」


「……クソがァ!!

俺の宿が!俺の富が!俺がお前に負けるなんて無いはず!!」


怒り狂ったダモダは至る所に落ちている金の紙飛行機を蹴り飛ばす。そしてその場にうずくまってしまう。


「ダモダ……。私は貴方を許せる。

奴隷だった日々は私にとって苦痛でしかなかったけどそれでも。もう1度ここからやり直せると信じてる。」


ゴローはそう言ってダモダに手を差し出す。

しかしダモダはその手をはたいて立ち上がる。


「……まだ負けてねェ!!

こんな勝負無効だァ!!」


「負け惜しみは、よして下さいダモダさん。僕が仕切る以上、ルールは絶対です。」


「くそくそくそくそぉぉ!!くそガァァァ!!!」


俺が負け?奴隷に劣っただと?

そうな独り言を呟いて地面を叩き悔しさを滲ませる。


「……。

こうなったら全部ぶち壊してリセットしてやる。この街ごとだ。」


ダモダがおもむろに金指輪をなぞると、彼の足元から紫の霧が発生し始める。

それは次第に収縮していきーー


「……コレはーーまずい!!今すぐこの場から逃げろ!!」


副隊長は鬼気迫る表情で叫ぶが、観衆は不思議そうにダモダを見つめているだけだ。

……何故誰も動かない!?

ダモダに集まる凶悪な魔力に気づいて無いのか!?


「……へへっ……殺す。

《リング!!》『最闇の門!!』」


詠唱の声に反応し、霧の濃度は徐々に増していく。紫から黒に染まったその霧は、次第に1つに集まり、より高密度に収縮していく。


「……俺にコレを使わせンなよ。

あの忌々しい獣人族みたいになるだろうがァ!!」


ダモダは魔力切れを起こしている様だ。彼の頭からは何か動物の耳が生えている、それが何の動物かは俺の予想でしか言えないが、多分ハイエナだ。


「逃げろぉぉぉ!!!」


「みんなこっちだ!俺について来てくれ!!」


「急げ!急ぐんだ!」


一層濃くなる霧を見て、危険を察知した冒険者達が立ち止まる人々を急かし逃げるのを促す。

しかしその時ーー


ダァァァァァンッッッ!!


不意に霧から出てきた巨大な影。鞭のように振られたソレは近くにいた人々を吹き飛ばしてまた霧に消えていく。


「ーー!!」


何が起こったんだ?人は分からない事が有るとまず答えを探そうとする。数秒後皆は気づく。【逃げなければ死ぬ】と。そして大通りはパニックに包まれた。


「キャァァッ!!!」


「なんだよ今の……。人が吹き飛ばなかったか……?」


「誰かポーションをまわせぇ!!この人重傷だぞォ!!」


「皆さん落ち着いて!!俺達について来て下さい!!」


漸く冒険者の声が皆に届いた時には、既に何名もの犠牲者を出していた。


「何よアレ……。」


「何か良くない物を呼び出した……そんな感じですね。」


紫の霧の中には禍々しい何かが蠢いている。モンスターなのは間違い無いだろう。しかしこんなにも人が集まる場所で交戦するのは危険が多すぎる。


「……ゴロー!!お前は何故逃げない!?こいつが怖くねぇのかァ!?」


「私は最後までこの宿を守る!」


霧に1番近い位置、それにはゴローの姿が見受けられる。何してんだアイツ!!早く逃げ無きゃ死ぬぞ!


「カノン……ミオと女将を連れて逃げて下さい。ノアは人々を安全な所まで誘導を!」


「アンタは如何するのよ?今はセドナの姿じゃないのよ?」


「僕はゴローを助けに行きます!安心して下さい!後から追いつきます!」


ノアはそれを聞いて安心した様に頷く。そして指示通り2人は動き出した。俺も迫り来る人波に逆らって進む。その目標はゴローとダモダの居る場所だ。









一歩進むだけでどうだろう?景色が変わって見えないかい?

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