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猫が美少女で実は俺?  作者: もこ
紙飛行機は空高く
23/53

開始

のんびりいこうよ。趣味だから。



待ちに待った祭り当日。

アルカナタウンは朝から晴天で、強い日差しが更に強く照りつけている。それをやわらげる噴水のせせらぎと細かい水飛沫しぶきは、街行く人々をなごませる。それ以上に告げたいのはこの風だ。絶好の紙飛行機日和。まさかこんな言葉を使うときが来るとは思っても見なかったけど。


通りには屋台が並び始めて、それぞれの店が自慢の商品を並べている。かき氷やりんご飴、お面に綿あめ。挙げ句の果てに金魚すくいまで見かけた。全てこの世界の固有名詞があり、そもそもの名前は違うだろう。

だってあんなデカイ金魚見たことないし!!

……。

けれど俺は、日本の祭りと大差無い光景に懐かしさを覚えた。


「紙飛行機を一斉に飛ばし始めるのは、午後21時。その前に花火が始まるのは、午後20時半。それまでにダモダより署名を多く集めれば僕達の勝ちです。」


俺がそう呟くと真剣な顔つきで皆が頷く。


「目的は金を稼ぐ事よりも署名を集める事よりもずっと大切な事です。それはーー」


「この宿のプライドを取り戻す。ですね。」


俺の言葉を遮るようにゴローが重い口を開く。

屋台の上、昨日徹夜で折った紙飛行機が風に揺られてパタパタと音を鳴らす。紐でくくってあるので飛んでいく心配は無い。

……。

頭でルールの確認をする。

それは今日の朝、ダモダが俺達に告げて来たのだ。



・ジャッジは公平に12神格軍が担い、花火が上がるまでに集めた署名を手渡す。

・敵に手出しをするのは禁止。

・同一人物の署名は最後に書かれた方を優先するなお、偽装署名は数に含めない。

・有権者はこの街にいる全ての人。

・負けた方は勝った方へ宿を譲渡する。


……などなど。他にも色々とあったが確かこんな感じだった。

【12神格軍】とは、日本で言うところの警察だ。神格者は一様、これに該当する。つまり俺の職業は警察なんですよ。


「それじゃ一丁やっちゃいますか!」


ノアが手を差し出して俺を見つめてくる。俺はノアの手に自分の手を重ねてカノンを見る。

彼女は頷いて手を重ねる。ミオ、女将さんと続き、そしてゴロー。


「絶対、絶対にダモダに勝ちましょう!行くぞっ!!」


「「「「おぉーー!!」」」」



※ ※ ※



「特製ジュース如何ですかー!!」


「お、何それ美味そうじゃん。

女将さん1つくれよ。」


「はいどーぞー!!」


「ありがとお嬢ちゃん。

それじゃ早速……ゴクゴクゴク。」


「ど、どうでしょうか?」


「う……うめぇー!!!!

何だこのジュース!!今まで飲んだ中で1番美味いよ女将さん!!俺に署名させてくれ!」


「はい!こちらにお願いします!」


「なんだなんだ?そんなにうめぇのかコレ?」


「何言ってんだおっさん!俺が奢ってやるから試しに飲んでみなよ!ほら!」


「……ゴクゴクゴクゴク…プハァー!!うんめぇー!!!

兄ちゃんの言う通り、滅茶滅茶美味しいじゃねぇかコレ!前の通りの宿なんかに署名権を使うんじゃなかったぜ!」


「あーあそこの飲みモンか?俺も飲んだけど高い割にイマイチって感じだよなぁ。」


「女将さん飯の注文良いかい?

……今まで来れなくてすまなかったな。ダモダの奴にここへは来るなって言われたんだ。けどよ。どうしてもアンタの料理、食べたくなったんだよ。俺の仲間も後から来るから今日は多めに作ってくれや。」


女将さんとミオが番をする屋台には物凄い量の人が集まっていた。目的は女将さんのジュースや料理。食した者は誰しも口を揃えて美味しいと言う。特にジュースは、何杯も飲む人やお土産用の指輪は無いのかと問う人はザラにいる。こんな良い宿ならココに変えると言って、宿泊先を変える人すら見受けられる。

何よりお客さんの大多数が署名をしてくれているのだ。


「お嬢ちゃん。

コレを1つ貰えるかなぁ?」


「ありがとうおねーさん!!大好き!!」


「はぁぁぁん。かわいーい!この街に観光へ来て良かったわぁ。ねぇ、まだ部屋に空きはある?」


客を集めるのは必ずしも女将さんだけでない。可愛い猫耳幼女もジュースに負けず劣らず人を呼び込んでいたのだ。

彼女は紙飛行機を買ってくれたり、署名をしてくれたお客様にハグをするという商法を行っていた。その愛らしさによって、紙飛行機は飛ぶように売れていった。


「お母さんとミオ……凄いです。

負けてられない!!早速行きましょう!ノアさんセナさん!」


「待ったカノン!宣伝しに行く前に、コレを着なくちゃ。」


俺は指輪を彼女達に渡して、自分も1つ指にはめた。


「いつの間に用意したのよコレ?」


「昨日の夜急いで買いに行ったんです。店は閉まってたんですけどお願いしたら開けてくれました。」


「アンタ都合良くその姿を使ってるわね……。」


俺だって持つべき武器は使うさ。

能ある鷹は爪を隠すけど、隠し通して使わないのは勿体無いからね。


「では物陰に隠れて着替えましょう。」



※ ※ ※


「カレスタンドリー宿……」


「わー!

可愛いーー!!!」


「ダモダ様が経営する……」


「最高ぅ!妹!!妹にしたいっ!!」


「国内最高峰のサービス…」


「ホッホッホッ。

目の保養、目の保養。

死ぬ前に見れて良かったわい。」


「……ねぇユーベ?これじゃ私達の立場が無いわね。高いギャラを貰ってるのに、客を全部取ってかれるなんて……。」


「しょうが無いよ先輩。だって相手は目も覚めるような美少女だよ?それも3人。」


「そうね……ダモダには悪いけど、私この仕事降りるわ……。」


「猫の集会!!この通りを1つ抜ければすぐの所にある宿でーす!!美味しいジュースと紙飛行機売ってまーす!

……ほらノアも早く!」


「……ね、猫しゅ、集会……。お願いします……。」


「元気無いですよノアさん!!

私を見ててください!

猫の集会ー!!!署名お願いしまぁーす!!皆さんの力が必要にゃん❤︎

ホラこんな感じに!」


「あ、集まって……欲しいにゃん……って!!無理よバカァ!!」


気温も上がりきった午後3時。

敵宿屋の前で俺とノアとカノンは客引きをしていた。何故敵地なのか、それは単純に客を奪うためだ。


「そもそも何で水着なのよ!!恥ずかしいじゃない!!」


「そうですかね?私は暑かったので丁度良いですよ!!

猫の集会お願いしまぁーす!」


「人を呼び込むにはお色気も大事ですよノア。」


「そうは言ったって……こんなにも呼ぶ必要無いじゃない!」


通りを覆うように出来た人垣を見てノアは叫び出す。確かに多すぎるなぁ。

まるでライブ会場だ。

人々は俺達3人を取り囲んで熱い視線と歓声を浴びせてくる。


「銀髪の娘こっち向いて笑ってー!」


「じゃあ俺は猫耳の娘ー!!」


「は?金髪ツインテールこそ至高だろ!」


「ここに署名をしてくれたらいくらでも笑ってあげますよ?」


「書く!書く書く!!」


男の後ろには署名待ちの大行列が出来ていて、俺は流れ来る人1人1人に微笑んでいく。

こんな感じに。ニコッ!


「くはぁー!可愛いーー!!きっと女神の生まれ変わりだよこの娘!」


同性であれ、人に求められるのは嬉しいなぁ。まるでアイドルにでもなった気分だ。


「セナ……なんか卑怯なやり口よねこれ。」


「何言ってるですか。勝負に勝つにはこれぐらい普通です。」


「そ、そういうものなの?」


「当たり前ですよ!ニコッ!」


ワァー!!!

あ、楽しいこれ。微笑んだだけで歓声が起きるなんてもうこの街、俺のもんですわ。


「凄い人!!

これならダモダなんか余裕で倒しちゃうかもですね!」


そう言ってカノンは俺に笑いかけてくる。俺が着させたとはいえ、水着姿の彼女を直視できない程美しい。


「おおっと。

そんな事言ってないで気を引き締めないとダメですよね!署名お願いしまぁーすっ!」


彼女が元気良く飛び跳ねるたび、布1枚で隠された豊満な胸がぷるぷると震える。俺、この娘の裸見たんだよなぁ……。

……ありがとう神様。


「……何カノン見て鼻の下伸ばしてんのよ。私達に水着を着せたのって本当はアンタが見たかったからじゃないの!?」


「そ、そんな訳無いじゃないですかぁ!」


「今、目線が泳いだわよセナ。」


「折角水着なんだから、目線ぐらい泳がせておこうかなって!」


「全然上手く無いわ……ソレ。」


「おにーさぁぁん!」


不意に可愛らしい声が響き渡る。

人混みを掻き分けてやって来たのは猫耳の幼女。


「あれ?どうしたのミオ?」


「ハァハァハァ……。

私達の宿の前に……金ピカの屋台が来たよ…!多分怖いおじさんのやつ!!」


「え!?」


息を切らしたミオが発した言葉。

怖いおじさんとはダモダの事で間違いだろう。


「大分署名も集まってきたので宿の前に戻りましょうか。

……ダモダの様子も気になりますし。」


※ ※ ※


夕日が街に影を落とす時刻。

【猫の集会】の前。

水着から元の服へ着替えた俺達は、集めた署名を持って宿へと戻ってきた。宿の前にはミオの言う通り金ピカの屋台が設置されており、それがダモダの物だと一目で分かる。


「ーーガガッーーえーえー。」


突然のノイズ音が耳をつんざく。観衆と俺達は音のした方へ視線をやると、醜い男がマイクらしき物を片手に手を振っていた。


「皆さんお暑い中、我々の争いに付き合って頂いてありがとうございます。私はカレスタンドリー宿の代表、ダモダと申します。」


……出やがったな。

顔が引きつってんのは俺達が予想以上に集客して自分達がピンチと思ったからだろ?


「おお神格者様のお連れの方……。

調子が良さそうで何よりです。」


ダモダはノアを見つけて一礼する。

ニヤニヤと笑う姿がやけに腹ただしい。


「あいつ…私達の前に屋台を出すなんていい度胸ね。」


「ルール上、敵の判断に問題は無いですし、それこそルールで暴力はダメですよノア。」


「わかってるわよ。」


「この戦い……正直我々の圧勝だと思っておりましたが金儲けと同じで簡単に物事は進みませんでした。このままでは負けてしまう。」


ダモダはわざとらしく肩を落とす。煽っているようにしか見えないが。


「なので……少しサービスをする事にします。

おい!運んで来い!」


ダモダが指を鳴らすと数人の従者が袋を持ってくる。

ガチャガチャと音を立てるその袋は嫌に重そうで、大男数人が力を合わせてやっと持てる程の重量があるらしい。

そして男達は袋の中身を、屋台の上に広げ出した。


「……!」


それは金で出来た紙飛行機。

最早【紙】では無いので紙飛行機とは言えないのだが。

……これを売るつもりか?

こんな高級な物をこのタイミングに売り出して何の意味になるんだ?増して署名を稼ぐ事に繋がるとは思えないが……。


「この紙飛行機。500ゴールドでお売りします。」


「……なっ!!?」


500ゴールドだと!?

この世界でも金の価値は高いので、あんな金の塊が500ゴールドだというのは破格にも程がある!!


「勿論条件付きです。

『我々の宿に署名権を預ける。』つまりこちら側に署名をしてから21時まで動かない事が条件です。如何ですか?何とも簡単なモノでしょう?」


「ふざけないで下さい!!そんなの卑怯ですよ!!」


「何が卑怯だゴローの娘、ルールを破ったわけでもあるまいに!

如何ですか【12神格軍、副隊長。】」


ダモダは後ろからのそのそと歩いて来た茶髪の彼に話し掛ける。首にぶら下がるペンダント。

あれは……12神格軍の1番隊の紋章だな。こんな下らないイザコザにまさか副隊長が来るとは……。

剣を指輪に納めずに腰に携えているのを見ると神格軍だと直ぐに分かる。彼らは敵と出会った時、喉を潰された時でも剣を取れるように、指輪に納めることを嫌うのだ。


「うんそうだねぇ。ルールは守られている。決して卑怯では無い。」


「そ、そんな!」


「そういう事だ糞猫ぉ!さぁみなさん如何ですか!!金持ちへの切符は早い者勝ちですよ!!あははははは!!」


「お、俺署名変えるよ!!一つくれ!!」


「私も!!私も下さいダモダ様!!」


「押すな!ぶん殴るぞ!!」


「それ私のよ!!寄越しなさい!!」


ワーッ!キャーッ!

人々はダモダの屋台に押し寄せる。

一気に巻き起こる雑音。

最早それは暴動に近しいものを感じる。他の奴らを蹴落として自分の利益を優先する人々。

その中には女将さんのジュースを美味しそうに飲んでいた人も多数見受けられた。


「昨日のウザってぇ神格者が居ないと思えばゴローさえも居ねぇなんてなぁ!ビビって宿から出てこれないかぁ?アハッアハハハハ!!!」


ダモダの高笑いが夜空に響き渡る。

こんな隠し玉を持っていたとは正直思ってもみなかった。


「もう夜ね……。このままじゃやばいわよセナ。」


人はなおもダモダの仮設屋台に集まっていく。どんどん増える人波。街中の人がこの場所に集結したみたいだ。


「ゴローや女将さんには悪いけどやっぱ金だよなぁ。」


「ごめんなお嬢ちゃん……。」


「もうこの宿ともおさらばなんだな。なんか悲しくなってきたぜ……。」


口々に吐かれた悲嘆と感謝。それは遠回しにお前が負けだと告げられた様だった。


「俺の勝ちだゴロー!!」


人間所詮は欲にまみれた生き物、愛や情では食っていけない……けど。


「まだ勝負は終わってない!!」


突然大声が響き渡ってーー

観衆の目は1人の男に注がれる。


ふふっ。良い登場の仕方するじゃん。

さぁ注目して見てくれ観衆みんな

冴えない男の大舞台を。歳いってんのに猫耳なんて生やした痛いオッさんが起こす逆転劇を。

やってやれ主役ゴロー、お前の変化を見せつけろ。








ノア「はいこれ!アンタ男でも女でも、いっつも同じ靴でしょ?私のお古だけど余ってるからあげるわよ。」


セドナ「ええ?良いの?」


カノン「お古なんて嘘ですけどねぇ。昨日ノアさんが一生懸命買い物していた所を目撃しましたもん。」


ノア「え!?」


セドナ「ありがとなノア!でもお前がそんなに優しいなんて珍しいなぁ。熱でもあんのか?」


ノア「ひぇ!?ちょっ!?」


セドナ「あ!逃げんなっ!」


カノン「おでことおでこをくっつけるなんて!!う、羨ましい!!!」


ノア「顔が……近いわよ……。」


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