君を探す旅
モモはす こそ至高。
あ、桃のいろはすの事です。
《アルカナ国領ハートアカデミー、12神格軍ミネルヴァ軍支社》
「それで?魔格者の動きはどうだ?」
長机の1番奥、気品のある椅子にその身を委ねた黒髭の男性は、静かにそう口を開いた。彼の名は【マルクス•サウスサート】、現神格軍副隊長の中では1番の古株でネプトゥヌス軍に所属している。彼の問いは【誰か】に向けられているだろうから【私】が答えても良いのだが、新人が調子に乗って1番手で答える必要は無いだろう。
そんな事を考えながら窓の外を眺めているのが悪かった。ガラスに反射したマルクス副隊長と目が合ってしまう。
「うげっ。」
に、睨んでる……。私から言えってことかな。
「……ごほん。私の把握している範囲では目立った動きはありません。勿論私達ディアナ軍では引き続き魔格者を追ってはいます。」
「んむ……報告よりも会議中に外を眺めるとは何事だ。最近副隊長に成り上がったばかりの小娘は礼儀も知らんのか。」
「す、すいません。」
うぅ……やっちゃった。目はつけられないようにと気を付ける筈だったのに……。
「まぁまぁマルクスさん。彼女にはこれから教えていけば良いと思うよ。それよりも今はやらなくちゃならない事が山積みでしょ?」
私を擁護する声の主はカールがかった明るい茶髪にそれよりも明るい瞳が映える青年。
彼は溜息を吐きながらもマルクスふくたいを宥めてくれる。
「パトリオール……それもそうだがな、神格者様や隊長同士が密に連絡を取りたがらない現在、我々副隊長が定期的に会議をする事で情報を共有し、得るのはとても重要だ。」
「あの……12人中3人しか来てないのであんまり意味が無いのでは……」
「小娘ぇ!」
「す、すいませんっ!!」
「あはっあはは!そこに触れたらダメだよシャルナちゃん。マルクスさんが怒っちゃう。」
「もっと早く言って下さいよ!」
「ごめんごめん。」
ケラケラとイタズラっぽく笑う彼の名は【パトリオール・メテオラ】ミネルヴァ軍に所属し、現時点で私の次に若い。ここでのポイントは私の次にというフレーズだ。
「ほらこの通り。」
手を合わせて謝罪をするが、口調と見た目によりどうも嘘っぽく見えてしまう。端麗な容姿に神格軍副隊長の肩書きを得るほど腕も立つ。この軽い性格がたまにキズなのを誰か教えてあげれば良いのに。
「何を遊んでおるのだ。」
「マルクスさん。今日はお開きにしませんか?シャルナちゃんの言う通り3人じゃ持ってる情報の振り幅が小さい、尚且つ意見も偏るでしょう。後日、日を改めるのが良いかと。」
正直この会議に参加する意義を感じていなかった私は、パトリオールさんの意見に大賛成だ。
なので私なりに頭を捻り、熟考するマルクスさんに追い打ちをかけていく。
「わ、私もそれが良いと思います!次回も必ず参加しますし、他の副隊長にも声をかけてみます!」
「むぅ……。
……2人の意見が一致したのなら本日はやむ終えず解散だ。」
「ありがとうございます♪それではっ!行くよシャルナちゃん。」
「え、ちょっ!」
悲しそうなマルクスさんを横目に無理矢理手を引かれ、厳かな会議室を後にする。パトリオールさんは私を連れてそそくさと建物内から外へ飛び出した。
「ふぅ。上手く抜けれたね。君の一言のお陰でもあるから感謝はしとくよ。」
「は、はぁ。」
私達は賑やかなハートアカデミーの街を歩き出す。流石はアルカナ国、夏の様な日差しに歩くだけで気が滅入る。
「あの……パトリオールさん。」
「ん?」
「如何してこんなにも副隊長達は集まりが悪いのですか?」
「うん。メリットが無いから。」
「メリットが?」
「マルクスさんは主催者だから当然居る、シャルナちゃんは副隊長に就任して間も無いから来て当然。他の人には来る理由もメリットも特に無いからね。黒髭のおっさんと談笑してる暇が有ればもっと色々な事に時間をかけられる。でもさ……此処まで来ないと何だか笑っちゃうね。」
「ではパトリオールさんは何故来たんですか?」
「俺はバイトのついでに寄っただけだよ。これから小金持ち相手にちょっとね。あ、俺の事はパトで良いよ。」
「え……それって副業……」
「いやいや人聞きの悪い。副隊長しか出来ない副隊長の為の仕事だよ。」
「そ、そうですか。」
本当にふわふわした人だなぁ。私が言うのもなんだけど、こんな人が副隊長で大丈夫なのだろうか?
「ってな訳で俺はもう行くけどシャルナちゃんは如何するの?」
「今日は隊長からお暇を貰っているのでおにいちゃ……兄を捜したいと思います。」
「君のお兄さんって確か……」
「はい。私の名前は【シャルナ・フルムーン】
ディアナの神格者セドナ・フルムーンは私の兄に当たります。」
「ヘぇ、そうなのか〜って!!
捜すって事はディアナの神格者は行方不明なのか!?」
「いえ、目的は分かりませんが旅に出ているらしいです。
あ、ちなみにディアナの統治する国の守護は前神格者が代わりに行っているので問題は無いですよ。」
「そうか……でも勝手に旅なんか出られたら困るなぁ。これはマルクスさんの言う通りもっと密に連絡を取るべきだね。」
パトさんは1人でウンウンと頷き何か納得したようだった。
「でもそんなに焦って捜す事でも無いだろ?前神格者が代わりに守護を行ってくれてる以上は、わざわざ副隊長クラスが足を運ばなくても他の人達に行かせればいいさ。」
「それはダメなんです。兄さんを捜すのは私個人の望みですから。」
「君の?」
「はい。私は兄が神格者として連れて行かれた後、養子で貰われた私は兄にとって血の繋がっていない妹なのです。最早存在も知らないと思います。
私は一方的に兄を尊敬し近づきたいと思ったので神格軍副隊長まで登り詰めましたけど就任した時、既に遅く兄は国を後にしていました。なので私も兄を見た事がありません。」
「そうなんだ。まぁ俺からは頑張ってとしか言えないけどさ。万が一見つけたら君に報告するよ。」
「ありがとうございます。」
「セドナさんもラッキーだね。いずれ美少女が貴方の妹ですって目の前に現れる訳でしょ?俺だったら嬉しくて倒れるかも。」
「パトさん……。」
「あれ?そんな呆れた顔をしないでおくれよ。うちの隊長を思い出すじゃないかーーっと時間がマズイな。話はこれくらいで俺はおいとまするね、じゃっ!」
「あ、逃げた。」
パトさんは人々の間をヒュルヒュルと素早く抜けて行き、そのままこの場を後にした。
「……暑いです。」
アルカナの国は隊長から聞いていた通りで気温が暑い。夜の長い我が国では考えられない程、街々が熱気立っている。
「本当にこんな国にいるのかなぁ……。」
自称兄の親友である我が隊長によればこの国へ向かったのは間違いないけど……いかんせん範囲が広過ぎる。
「隊長ももうちょっと何か無かったんですかね!なーにがアイツは突然出て行ったから……ですか!!本当に親友ならお兄ちゃんも何処へ行くかぐらい一言かけるでしょうに!」
「へいそこの可愛い彼女!何を怒っているんだい?ムカつくことなんて忘れて俺と遊ばねぇ?」
声の方へ目を向けると如何にも遊んでいそうな男性が、口元を緩ませ私を見ていた。こういった輩には珍しく1人での行動の様だ。
「あーもー面倒くさいですね!今日は本当についてない!私、暇じゃないので他をあたってください!」
「おっ?つれないなぁー。そんな娘は無理矢理でも連れて行くケド!……イテッ!何すんだテメェ!」
ニュッと伸ばされた手をはたき落とすと、彼は怒りを露わにした。
「やめてください。私の兄はディアナの神格者ですよ、私が傷つけば直ぐにでも呼びます。」
これは最近よく使う私の必殺技。肝っ玉の小さい輩は神格者の名前だけで逃げ去るのでわざわざ相手をする手間が省ける。
「あー?嘘つくなよ君。
ディアナの神格者は黒髪だ。君は薄いピンクだろ?兄妹とは思えねぇなぁ!」
ピクッ。
「私とお兄ちゃんが兄妹とは思えない?」
「ああそうだ!」
「……。」
「嘘ならもっとバレない様にするべきだな………え!?
い、痛い!!ァァァァぁぁ!!!折れる!!腕が折れるゥ!!」
「……ッ!危ない危ない!危うく折ってしまう所でした❤︎」
「く……何だこの女!?」
「私は本当に妹です。信じてもらえました?」
私がそう言うと男は怯えたように頷いた。
「因みに兄を探しているんですが……何か知りません?」
「チッ知ってても言うかよ……イッテぇぇー!!!言う!言うからぁ!」
言うなら最初から言ってくださいよ、面倒くさい。そもそもこんな低俗な男と話すこと自体悪寒が走るほど嫌なのに。
「ディアナの神格者、君の兄はビギナックのギルドで見たぜ。」
「ビギナック!?
あのルーキーが集まる所なんかに……。ねぇ、なんでですか?」
「知るかよ……ってぇぇアァァァ!!本当にッ!本当に知らねぇって!!」
「そうですか。」
「くそッ……もういいか?俺は行くからな!」
男は逃げる様に早足で歩き出す。
「どうぞ。あ……!そう言えば言い忘れてましたけど私、神格軍なので次女性に暴力を振おうとしたら逮捕しますからねーー!!」
ふぅ。なんだかんだ情報を得れた。それにしてもビギナック……か。何故お兄ちゃんはそんな所に居るのだろう?そもそも旅に出る理由は?
「ここから飛ばせば……間に合いますね。」
私は1人そう呟くと、ビギナックへ飛び立った。
シャルナ「お兄ちゃん……どんな人なんだろう?噂通りカッコいいのかな?
私のもうそ……ごほんっ。想像通りだと良いなぁ。」




