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猫が美少女で実は俺?  作者: もこ
紙飛行機は空高く
20/53

ゴローの過去



事の始まりは数年前、まだ獣人族が差別を受けている時代に遡る。

生まれ故郷を飛び出して出稼ぎに来た私が、比較的差別の軽かったこの街に辿り着いたのは必然だ。

しかし、軽いといっても差別はある。人族に比べ獣人族はかなりの薄給なのだ。そのため労働場所をいくつも掛け持ちし、生きていく金を稼いだ。毎日毎日働いて、村に住む両親へと仕送りを送った。

そんなある日、私に人生の転機が訪れる。

それは最悪の出会い。

人生を変える出会い。

人生を……狂わされる出会い。


「お前がゴローか?」


何件も掛け持ちして働く店の中で唯一心安らぐ、同族が店主を務める酒場にその男は現れた。彼の名は【ダモダ・カレスタンドリー】アルカナ国全土に展開されたカレスタンドリー宿の総取りの1人息子。

その男は何故か自分の事を知っていて、この店に毎回顔を出すようになった。最初は感じの悪い常連客だったが、次第に目的は独り身の獣人族、つまり自分にある事を悟った。


「お前、俺の家の執事になれ。拒否すればこの店を潰す。」


ある日ダモダにそう言われた時に私は何も言わずに頷いた。店に迷惑を掛けたく無かったと言えば聞こえが良いが、内心では彼が金持ちだという部分に少なからず期待していた。


※ ※ ※


しかしいざ働き出すと執事というのは名ばかりの奴隷ともいえる労働の数々。太陽よりも早く起きて、月よりも遅く眠りにつく。外出は禁止され外界とのコンタクトはほぼ無いのでこの状況を打破する事は容易では無い。地下牢の様な寝床に放り込まれもっと働けと怒鳴られる日々。自分と同じ様に何人もの獣人族がそこで寒さに耐えていた。

そんなダモダでもアルカナ祭りになるとダモダは紙飛行機を1人1人に配った。

神格者の事を「お高く止まりやがって!」「偉そうに!」などと、とやかく言いながらも神の信仰はしているらしい。

私と仲間が願うものは毎年毎年同じで『自由』だ、願いを込めた紙飛行機を空へと飛ばした。

神へ届けと。

しかしそれは叶わない願いでそれはしょうが無い事と分かっていた。自分は獣人族として生まれてこの世界は奴隷というものを認可しているからだ。

私は泣き言1つ言わずに働き続けたが、仲間は衰弱し死んでいった。

それでもその歩みを止めなかった。

唯一の救いは報酬だ。

ダモダは奴隷をゴミの様に扱うが、金払いは良かった。しかし使う場が無いので、黒指輪には相当な金額が溜まっていた。


そんなある日。

2度目の転機が訪れた。

当時の神格者が奴隷制度の撤廃に成功したのだ。それと共に獣人族への差別も禁止された。

暗い世界に日が差し込んだ。

誰よりも救われた気分だった。

いや、本当に救われたのだ。

本来在るべき人権を、獣人族という誇りを。その日神格者が取り戻してくれた。

ダモダは悔しそうに私を家から追い出した。『お前は逃さない。』そう捨て台詞を吐いて。


ダモダの家を出た私は自分の舵取りに悩んだ。

今の自分にあるもの……。

それは何年にも渡って貯めた金と人に奉仕する技術だ。それを考えたら答えは出ていた。

そうだ……宿を営もう。

宿の名前は【猫の集会】

獣人族が安心して集まれる憩いの場になればと思い付けた名だ。しくもあのダモダと同職になるがそれもやむ終えない。だって自分のしたい事がソレなのだから。

私は既に自由なのだから!

それからというもの私の人生は今までの不幸を取り返すように幸福の道を歩んで行く事となる。

営んだ宿は大成功を収めアルカナタウン1の宿屋なり、客として泊まりに来た妻とも出会った。

そして愛し合って2人の娘に恵まれた。そうして娘が生まれた事からだろうか。

奴がちょっかいをかけ始めたのは。

最初はちょっとの悪口だったが徐々にエスカレートしていき、当て付けの様に周辺に最新の宿を建設していった。

やはり客はそちらへ流れて行く。それでもこの宿が好きだよと言ってくれた人々はダモダによって街から追い出された。

そして年々売れ残る紙飛行機が増えていき、今に至る。


※ ※ ※


「おかしいと思ったわ。確かに立地は悪いけど、こんなに良い宿で客間も多いのになんで客が私達だけなのか疑問だったもの。

……それにこんなに美味しい料理も出るしね。」


ノアはそう言って女将さんに目配せする。彼女は涙を堪える様にありがとうございますと呟いた。


「セドナさん。これは私の問題です。こんなくだらない事に貴方の手を煩わせる訳にはいかない。どうか今の話は気にしないで下さい。」


「気にするな……なーんてそんなの無理に決まってるわ。それに勝負を勝手に受けたのはウチの馬鹿だからね。まぁ負けても大丈夫よ。

あの男をぶん殴って無理矢理にも宿を取り返せばいいわ。」


ノアの言う通りだ。

けど……。


「殴りたいのは俺も同じだがそれだけじゃダメだ。力だけじゃ何も変わらない。」


「……ならどうするのよセドナ。」


「明日、奴よりも客を集める。

そしてこの宿は素晴らしいんだともう1度みんなに知ってもらうんだ。」


「で、でも……紙飛行機は全部無くなっちゃったし……。」


「大丈夫だミオ。

俺とお前なら一晩であれを超える量を作れる。

そこにノアと女将さんを合わせればもっと多く作れるぞ。」


「……うん。」


「ま、待って下さいセドナさん!

私はこれ以上波風立てたくない。

このままで充分なんです。この宿も元を辿ればダモダから受け取っていた金が元手で建てられたもの、私は……宿を取られてもしょうがないと思っています。」


……ダメだ。

肝心なゴローが完全に弱気になってる。長年培われ染み付いた苦手意識は簡単には払えないのか。


「何を怖がってるゴロー。」


「怖がってなど……。」


「いやお前は怖がってる。」


「怖がってなどおりません!

ただ……あの金の亡者に勝つなど我が宿では到底無理なのです!署名というのも民衆に金を払って自軍の方に書かせるに決まってます!」


普段の優しい口調は無く、猫耳を畳んだ男性は声を荒らげた。


「ホラ怖がってるだろう?

何に怖がってるか分からないなら教えてやろう。それは【変化】だ。」


ゴローは目を見開いて俺の言葉に耳を傾ける。そうだよく聞け。ここでお前の根性叩き直してやる。


「ダモダに服従しなければ後で酷い罰を受けるとまだ身体が覚えているんだ。だからお前は……お前自身は一歩を踏み出せない。ダモダを見返す一撃を繰り出せない。そうだろ?反抗しなければ罰は受けなくて済むんだから、頷いておけばダモダは喜ぶのだから。」


「そ、そんなことッ!」


「だから怖がっているんだよ、自分が尻尾を振るだけの弱者から誰にも媚びない強者になるという【変化】を怖がってる。」


「……!!」


黙り込むゴロー。

心配そうに見つめるカノン。

女将さんはゴローの手を強く握った。


「……変化…ですか……。

けれどそれは誰もが怖がるものでしょう!?貴方だって神格者という大きな力に擦り寄ってきた人間を多く見てきた筈だ!私だけが臆病のように言わないで頂きたいッ!!」


声を荒らげる彼の顔つきは真剣そのもので、本当の『ゴロー』を俺に始めて見せてくれた瞬間だった。


「ノア……ジュース持ってきてくれ。」


「え!!?だってそれはーー」


「大丈夫だから。」


俺の発した言葉にノアは感づき溜息を零す。


「……分かったわ。どうせ止めても無駄なんでしょう?」


ノアはスタスタと宿を出て行き、屋台に置きっ放しにした女将さん特製ジュースを取ってきてくれた。

すかさず俺はコップに口をつけジュースを胃に流し込んでいく。液体が身体に染み渡り変身を促すのが感覚で分かる。


「見てろよゴロー。」


光が身体を包む。

俺以外の皆が眩しさに目を瞑った時、セドナの服を指輪に戻しセナの服をなぞる。この動作にもだいぶ慣れてきた。徐々に光が衰退し、冴えた黒髪は艶やかな銀髪へとーーセドナからセナの姿へと変身を遂げた。


「「「……!!!」」」


皆の視線が集まるのは予想出来ていたが人の驚いた顔って何だか笑えるな。


「え?え?セドナさんの妹さん!?」


「あら!?」


「おにーさんがおねーさんになった!!」


「皆さん初めまして。私はディアナの神格者【セドナ】です。

見て頂いた通り、男の姿から女の姿に変わりましたが、目の前に立っている私もまた【セドナ】なのです。」


俺は驚く4人を尻目にそそくさと続ける。敬語が口癖になっているセナの姿だが今回は敢えて元の口調で話す。


「魔格者との戦いで呪いを受けた俺は、ある日、女性と猫の姿に変わるようになってしまった。説明は不要だよな、今見てもらった通りだ。」


俺はゴローに話す。

1番聞いて欲しい……彼だけに話す。


「最初は驚き、悲嘆した。憤りすら感じ、何より怖かった。けれど俺は直ぐに動いたぜ?

だって【変化に立ち向かって動かなきゃ何も変わらないから。】」


「変化に立ち向かう……。」


「この旅は呪いを解く事を目的にしたものなんだ。ゴロー。俺は逆境すら受け入れて先に進んだ、お前はどうする?」


「……。」


「なぁお前は言ったよな?【営んだ宿は大成功を収め、アルカナタウン1の宿屋なったと。】つまり1度ダモダよりも上に立ったという事だ。そんなお前がなぜ逃げる?」


俺の問いに目を閉じる。

自分自信に問いかけているのだろう。


「もうそろそろ自分を信じてやっても良いんじゃねぇの?」


「……。」


「俺は弱くないって!変われるって!見返してやる絶好のチャンスだろ!」


静まり返り数秒後ーー

目を開いたゴローの表情を見ただけで俺は答えを聞かなくても分かった。


「見返して……やりたい。」








変化を求めて自分では何もしなかった俺が、【変化を恐れるな】なんてよく言えるな。もしこの世界に転生せず、前の世界で過ごしていたら俺はまだ止まったままだろう。

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