虎と猫
「《剣技》『ファイアスラッシュ!』」
「グォォォォ……。」
紅蓮の炎に身を包み、ダンジョンボスは呆気なく光となって宙に消えた。
「……。」
俺があれほどまでに苦戦したボスは、指輪とゴールドとなってノアのモノイレロに仕舞われる。
本当に相性の暴力だな、最後なんて敵の方が逃げ回ってたじゃねーか、可哀想に……。
何となくステータスを確認するとレベルが2つも上がっていた。
パーティになると経験値は等分される。ノアが二日酔いで動けなくても、俺がモンスターと戦っていれば経験値は2人に入る。
逆に俺が呆然と見ていて戦いに参加しなくてもノアが破壊の限りを尽くせば経験値が入ってくるのだ。
持ちつ持たれつの関係、それがパーティー。
「はい。死にかけた美少女さん。脱出するわよ。」
「い、嫌味ですか……。」
ノアが手渡してくれた白指輪をなぞり俺たちは淡い光に包まれる。その光が弾け飛ぶとそこは確かにダンジョンの入り口だった。
時刻は既に夕方を超え、虫の音が聞こえてくる夜。
朝の曇り空が嘘だったみたいに、散りばめられた星々が俺たちを出迎えてくれた。
「踏破完了です。
なんとも呆気ない幕切れですね。」
「そうね、歯応えが無い連中だったわ。」
それは炎属性のノアだけだ……。
俺はもう行きたくない様なダンジョンだったよ。
「やっと落ち着けたからさっきの質問に答えるわ。まぁその前にアンタから言うことがあるって言うなら聞くけど?」
「……。」
「聞くわよ?子猫ちゃん。」
礼を言え、つまりそういう事だろう。
俺も常識人だ、助けて貰っといて礼も無しなんて考えていなかった。けれどノアの奢った態度とドヤ顔を見たらその気が削がれた。
「ほら早く言いなさいよー。」
「な、何をですか?」
「助けて貰っといて一言も無いなんて人としてどうかしら?」
「……。」
「お礼ぐらいしといたほうが良いんじゃないかしら?この私に!」
「嫌…です。」
「なんでよ!?」
「ノアは最近僕を舐めすぎだからです!確かにこの姿になると口調も変わるし性格もなんだか穏やかになりますけど元を辿ればセドナなんですよ?
セドナ・フルムーン、誰もが憧れる神格者です、やろうと思えばこんなダンジョン瞬殺です!!」
よし言った!言ってやった!!
「……ふふっ。」
「?」
「あははは!!セナ、そんなに顔を真っ赤にして怒らなくても!!アンタ可愛いわね!」
コロコロと笑う彼女、指差すは俺の顔。
人を馬鹿にして大爆笑とは何事だ!?本当に性格悪りぃな!!
「あーもうそんなの良いですから早く質問に答えて下さいよ!」
上から降ってくるモンスターはどうしたのか。
どうしてボス部屋に入れたのか。
この2点が気になってしょうがなかったのだ。
「しょうがないわね、もうちょっと弄ってたかったけれど。」
そう言ってニコッと微笑むノア、金色の髪は月光に照らされ更に輝いて見える。
「上から降ってくるモンスターは私のシンボルスキルで動きを止めて道を進んだから全然降って来なかったわ。次にボス部屋に入れた理由。
結論から言えば同じパーティーだったからよ。
仲間が先にボス部屋に入っていて、扉が閉まっていても同じパーティーなら扉を開けて入る事が出来るのよ。
勿論その時にパーティーメンバー以外の人が入る事は出来ないし、そのダンジョン内で新たに仲間になった人も入れないわ。」
「本当ノアと相性の良いダンジョンでしたねー。実力で無く。」
「何よその棘のある言い方……でもまぁ実力が無いってのは認めるわ。」
ノアがふふっ。っと笑う。
なんだかんだ彼女は俺の為に此処まで来てくれた、俺を助ける為に。
1人で旅した方が動き易いと思っていたけれどそんな事無い。やはり頼れる人は多い方が良い。
この先の旅で俺の事を理解してくれる人に出会えたなら、パーティーに勧誘しよう。
他力本願の様に思えるが俺の解呪の旅に付き合ってもらおう。
それが俺の姿を元に戻す近道になると今日感じたから。
「《リング》『MPポーション』」
ノアが指輪をなぞって詠唱をする。
すると俺の肩に乗りかかっていた倦怠感は、紫の光と共に何処かへ消える。
生えていた猫耳と尻尾は消えて、底をついていたMPが少しでも回復したことが分かった。
「そういえばノアは2日酔いでしたよね?こんなにも早く回復するなんてどんな魔法を使ったんですか?」
「魔法じゃなくて食事よ。
女将さん特製のジュースを飲んだら一気に回復しちゃった。
何でも物凄く作るのが難しいジュースらしいわよ。」
「それは凄いですね。
ぜひ飲んでみたいものです。」
「そういうと思ってほら!」
ノアは金の指輪を俺に見せてくる。
ジュースを指輪に込めたのか。
「アンタの為に指輪に込めたのよ。貴重なジュースを何回も失敗して成功したのは2つ。
コレとモノイレロに1つ仕舞ってあるわ。」
何かを指輪に変えるにはそれなりの技術と手間を要する。
まず、空の指輪と変えたい物を用意する。
そしてそれぞれの限界魔力量を探る。これ以上魔力を送ると壊れてしまうボーダーラインだ。それを知った後に、空の指輪と物にそれぞれ自分の魔力を送り込む。
ここで送る魔力は限界魔力量のギリギリを責めなければならない。それが一番難しく、物や指輪を壊してしまうポイントだ。それをクリアしてしまえば後は簡単、ひとりでに指輪の中へと入っているのだ。
「それにしても金色になるなんて相当凄いジュースなんですね。」
「ええ。一口飲むと世界が変わるわ!」
ノアは金指輪をなぞって特製ジュースを取り出し、俺に差し出してくる。コップになみなみ注がれた黄金の液体。
もう分かる。
これは飲まなくても美味しさが伝わるよ。
俺は躊躇うこと無く喉を鳴らしてジュースを飲み干す。
口に広がる甘酸っぱくも優しい味。
今まで口にしたことのない味に俺の身体が勝手にぴょんぴょんとジャンプし出した。
「……美味しい!!
美味しいですねっっ!!」
「アンタ可愛い反応するわね…っっ。
…まぁ気に入ってくれて良かったわ。女将さんも…ふふっ。
喜ぶん…んんっじゃないかしら…。」
「はい!本当に世界が変わりました!夜でも鮮明に見えますし、今すぐ走り回りたいです!どんな高い所から落ちてもちゃんと着地出来そうですし!!」
「そ、そうね。猫じゃらしとか追いかけたり、爪研ぎとかはどう?
……ぶはっ!
あははははっっ!!」
ノアの大笑いの理由はすぐに理解出来た。
落ちているセナの服、もふもふした手、勿論肉球もある。
あーはいはい、今度は猫ね。
さっきまで良い仲間だと思ったけど取り消し!人の不幸を笑いやがって!
「喋る猫ってのも面白いわね!
商人に売ってお金にしようかしら…あはっあはははは!」
いつまで笑ってんだよ!
本当に俺の事好きなの?こいつ!!
「あ、パンツ見えた。」
「きゃあっ!」
ノアは急いでスカートの裾を押さえる。
「うそ。」
「この変態猫!」
「……。
思ったけどノアって性格変わったよな!俺の事が大好きでいやぁーん!とか言ってた純粋な娘はどこに行った!?」
「は、はぁ!?
そ、そんな事記憶に無いんですけど!!勝手なこと言わないでよねっ!」
彼女は顔を真っ赤にしてプイッとそっぽを向く。
思い出して恥ずかしいんだろ?
「あれは一時的な気の迷いよ!
アンタの事なんて好きじゃないんだから!」
テンプレの様なツンデレ。
……なんか俺も恥ずかしくなってきたよノア。
「はいはいそうですか。
なら今日はカノンと同じ部屋で寝ることにするかな。そして折り紙を手取り足取り教えよっと。」
「ご、ご勝手にどうぞ?
私には関係無いし!」
ノアは金髪を指でクルクルと弄りながら口を尖らせる。
俺はそんな彼女の周りをクルクルと回りながら話すことを止めない。
「そうだミオも呼ぼうかなぁ。
だって2人は俺の事を慕ってくれてるし名前だって間違えない。」
セドナブルドッグ事件。
俺は忘れてないぞノア。
「あれはしょうがないでしょ…。
まだちゃんと出会ってなかったんだから……。」
「ゴローと女将さんも呼ぼうか!
そしてみんなで折り紙を折ろう、きっと賑やかで楽しいだろうなぁ。」
「……なさいよ。」
「ん?」
「私も混ぜなさいよバカァ!」
「ぐへぇ!」
茹でダコの様に顔を真っ赤にしたノアは俺を抱き上げて怒り出す。
なんで涙目なんだよ……まるで子供だな……。
「な、泣くなよ……。」
「うるさい……。」
高飛車な美少女は必死に涙を堪えようとしている。可愛いなぁ。
そんな真っ直ぐな所も彼女の良い所だと俺は十分理解している。
「しょうがないなぁノアは。
じゃあ今夜はみんなで…」
「…ぐすん…ありがと……。」
ノアはこれでもかぁぁ!!という力で俺を抱きしめ始める。
迫り来る両腕。
ギリギリと強くなる圧力。
こ、これ…デジャブなんだけど……。
「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!」
死ぬっっ!
マジでこれは死ぬからぁ!!!!
もうそろそろ加減を覚えてくれお嬢さん(ノア)!!!
ノア「女はセナ、男はセドナ。じゃあ猫は?」
セドナ「猫でいいですよ。」
ノア「それじゃあつまらないでしょ?」
カノン「にゃーちゃんはどうですか?」
セドナ「やめてくれ。」
ノア「こう言うのは小さい子の方が良い案を出すのよ?ミオ、何かあるかしら?」
ミオ「ゴンザレス。」
「「「!?」」」
ミオ「ゴンザレスかゴルゴ、ゴードンでも可。」
セドナ「……。」




