氷のダンジョン
遅くなってすいません。
リアルが忙しかった……というのは言い訳ですね。
今日は朝から曇り空。
雨が降りそうで降らないそんな天気。
換気の為に窓を開けても重く沈んだ空気は逃げて行かない、だって発生源が室内に居るからな。
「頭痛い…。」
「うぅ…私もです。」
朝から俺の部屋はこんな感じ。
2日酔いの美少女2人が気持ち悪そうに頭を抱えている。
「取り敢えず布団から出ろよ。」
「だ、ダメです…。
私もノアさんも裸なので……。」
「なんでだよ……。」
俺が部屋を出てから何があったんだ?
でもまぁ吐いてないだけマシだな。
履いてないのは意味分かんないけど。
「今日はダンジョンに向かうつもりだったんだけど無理そうだな。」
「大丈夫…。いける…わ…。」
「安心して休んでろよ。この姿ならすぐに踏破出来るから先に行ってギミックやモンスターを確認しとく。」
ノアはコクリと頷いて再び布団に潜り込む、不服そうな顔をしていたのは見なかった事にしよう。
「あれ?おにーさんどこか出かけるの?」
「ようミオ。これからダンジョンに行くつもりなんだ。」
「うわぁ!!かっこいいー!!」
「そういう事で悪いがこの2人の面倒を見ておいてくれないか?」
「分かったー!!」
花のような笑顔を振りまいてミオはぴょんぴょん飛び跳ねる。
無邪気で可愛いなぁ。
彼女は行動や言動こそ幼いが、思考はしっかりとしていてやるべき事を理解している。
だから安心して2人を任せられる……押し付けた訳じゃないよ?
「じゃあ頼むな。」
ミオの頭にポンポン手を乗せて撫でてやり部屋を後にする。
長い廊下を渡り階段を降りていく。
「おや?セドナさん。
どちらへ?」
見つけた人影は見た事ある男性、この宿の主人。
改めて見るとおっさんの猫耳ってなんか新鮮だな。ゴローだから違和感を感じ無いが、他のおじさんがつけていたら吹き出してしまうかもしれない。
「あぁゴローか。
ちょっとダンジョンへ行きたいんだがこの辺に良いところはあるか?」
「少々お待ちを!」
ゴローがモノイレロから取り出したのはここら一帯の地図。
手書きのメモが至る所に記載されているが読みにくさなど感じ無い。
むしろ助かるほどだ。
「そうですね…南の門から街を出て歩くと山が見えてきます。
その頂上付近に1つある筈です。
レベルは20程度で踏破出来る簡単なダンジョンですので危険は少ないかと。」
「レベル20程度か。うん。丁度いい。そこに向かうとするよ。」
「はい。お気を付けて。」
「ゴローはどこへ行くんだ?」
「私は客の呼び込みがてらギルドへ行きます。」
「ギルド?何故ギルドへ行くんだ?」
ゴローは冒険者では無い。
ギルドへ行く用事があるとしたら依頼する側だ。
「少しお金を引き出そうと……。恥ずかしながら経営が苦しいのです、今は貯金を切り崩して何とか持ちこたえてかいるんです。」
「何か力になれる事はあるか?」
ゴローは滅相も無いと首を振る。
「私や宿の事など気に留めなくても宜しいですよ神格者様。
そんな事よりも早くダンジョンへお向かい下さい、山を登るのは以外と時間がかかりますよ。」
普段は優しい彼の口調が、今回だけは明らかに違って聞こえる。
『私の事は心配しなくても大丈夫ですよ。』では無く、『私の都合に口を挟まないでください。』と。
「……なら急ぐとしよう。」
関わって欲しくないのならこちらは動かないだけ、目の前の目的を優先しよう。
※ ※ ※
これ……ねぇ。
ゴローの言う通り南の門を出て、切り立った山を登りきった場所。
高度は高くないが、はぁーっと吐く息が白くなるほど気温は低い。
なんでだろうか?と謎解きに勤しんでいると目の前に岩肌にポッカリ空いた空洞が見える。
どうやらあの洞窟から大量の冷気が放出されているらしい。
多分ダンジョンの入り口だな、微力の魔力を感じるし……では行きますか。
洞窟へ足を踏み入れるとザクッという音がこだまする。
足元から天井にかけて洞窟内は氷に覆われており、澄んだ薄水色の壁は鏡のように俺の姿を写していた。
……氷系のダンジョンって事ね。
ノアを連れてこれば良かったかな?
「ガァァァァッ!!」
ーー!?
「ーーッ」
頭上からモンスターの鳴き声が聞こえたから避けみたが正解だった……。
落ちてきたのは氷のダンゴムシ。
硬い甲殻に覆われた身体は丸まっていて、砲丸の様に飛んで来た。
直撃したら少なからずダメージは免れないよな、危なかった。
にしても初めて見たモンスターだな、ちょっと見てやるか。
ステータスを立ち上げスコープ越しに、目の前でジタバタしているダンゴムシを覗く。
【アイスコロコロ】
ダンジョンエネミー
レベル18
ダンジョンエネミー、アイスコロコロ。
気持ち悪い見た目の割に名前は可愛い。
「《メインリング》『シャトルーズ・ムーン』」
「ギチギチッッ!」
指輪をなぞり宙に愛剣がその身を現す。細部まで黒く染まった剣の柄を握り、軽く一振りすると敵は簡単に姿を消した。
白指輪 《氷結》
200ゴールド
…しょぼい。
こんな奴ばっかなら剣技すら出さなくて良いんじゃないか?
「グァァァ!」
ドガァァン!!
おおっ…また落ちて来やがった、おらっ!
ザンッ!
俺はまたも一振りで敵を蹴散らす。
どこから湧いて来るんだこいつら?
天井を見上げて観察していると、綺麗な氷柱が形を変え始めアイスコロコロへと変貌する。
そして俺の上まで這って移動し、律儀に丸くなってから落ちて来る。
氷柱がモンスターになるのかモンスターが氷柱なのか……。
どちらにせよ上を警戒するのに変わりは無いな……ってもしかしてこの氷柱全部あいつ?
天井には数百もの氷柱がひしめき合っておりその全てがアイスコロコロへと変わっていく。
ギチギチと不快な音を立てて我先にと俺の頭上を目指して這いずり回る。
き、気持ち悪りぃー!!
身体に寒気が走る……。
もう剣技で跡形もなく吹っ飛ばしてやるからな!
俺はダボダボの服をたくし上げてセドナとっておきの剣技を発動しようとするが上手くいかない。
「あれ?なんで……。」
俺が発した疑問の声は男のものではなく、可愛らしい女のものだった。
壁を見ると氷が鏡の役割をし、ダボダボの服を着た銀髪の美少女が映し出されている。
彼女はキョトンとした顔から一転、全てを察した様に首を振った。
あー……。
さっきの寒気はこれが理由ね。
着ていた服をすぐさま脱ぎ捨て、ノアが買ってくれたセナ用の服を取り出す。一瞬裸になるけどこのダンジョンは俺とコロコロくんしか居ないからモラルなんて考えなくて良い、手間取りながらも大慌てで服を着る。
「うわっ!《剣技!》『ディスチャージ!』」
頭上から容赦なく落ちて来る敵を、剣技を発動させ迎え撃つ。
『ディスチャージ』はシャトルーズ・ムーンに溜めた雷を空中に放電する剣技なので、今回の様に敵が複数体いる時に役に立つ。
バチバチッっと散る雷の線が、落ちてくる敵を撃ち抜いて指輪とゴールドに変えていく。
しかし入れ替わりの様にすぐに次の敵が落ちてくるので、攻撃の手を緩めれない。
「『ディスチャージ!!』」
うぅ。連続して使うとMPが無くなっていく……。
セドナなら何連発も連続で撃つのは余裕なのに……。
キリの良い所で剣技を止めて、普通に戦う事にするしか無いかな……。
「「ギチチッ!」」
「ギチチチッー!」
「『ディスチャージぃ!!』」
止まないダンゴムシの雨。
止めれない剣技、無くなっていくMP。
だ、ダメだ!
ここは駆け抜けて先を急ごう!
剣技を撃ち止めて俺は一目散に奥へと走る。
ダァンダァン!っと敵が落ちてくるの音が聞こえるがそんなものに構ってる暇は無い。
特に曲がる箇所の無い1本道を駆け抜けては頭上の氷柱が起動していく。
「はぁはぁ……。」
着いた!!
走る事5分程度、両目がダンジョンボスの扉を捕捉する。
天井からの使者は未だに途絶えることなく送られてくるので立ち止まる選択は無い。
俺はなり振り構わずボス部屋の扉を開いて侵入する。
「……ふぅ。」
キィィィっと重い扉が閉じ、松明の火が順に明るさを取り戻していく。
一面氷に覆われたボス部屋は松明の火が反射してキラキラと輝いている。特に天井から伸びる大きな氷柱はその光を目一杯反射させてミラーボールの様に輝いていた。
しかし数秒後、氷柱に貰った感動は氷柱に奪われる。
パキパキパキパキ。
「グォォォァァァァッッッ!」
聞き覚えのある咆哮と揺れる氷柱。
「さ、最悪……。」
美しい氷柱はみるみる形を変えて忌々しい巨大ダンゴムシへと変化した。
思わずステータスを立ち上げてスコープを覗き込んでしまう。
【メガアイスコロコロ】
ダンジョンボス
レベル38
スキル『氷系統消費MP減少』
メガアイスコロコロ。
名前可愛いのに見た目が…以下略。
んな事よりレベル38とか強いって!
か、勝てるかなぁ?
「グォォッ!」
ドガァァァンッ!!!
メガアイスコロコロは天井からその身を放り投げる。
その衝撃が余りにも凄く俺は尻餅をついてしまうがすぐに起き上がって体勢を整える。
まるで地震だな、今の様な攻撃は気を付けたいものだ。
「グォォ!」
「なっ!?」
不意にボスの口から氷のブレスが吐き出される。
咄嗟に剣でガードするがまるで意味が無い。
鋭利に尖った氷の粒が刃物の様に俺の身体に傷を作っていく。
「……ふぁ!!」
やっとの思いでブレスの範囲から飛び出す。
余り離れるのは得策では無いようだな、ちょっと進むか。
俺は地面を蹴ってすぐさまボスとの距離を詰める。
「《剣技》《ツインステップ!!》」
ガキィンガキィン!!
「ーー!!」
俺の放った剣技は動きの鈍いボスを捉えたがその硬い甲殻に傷をつけることは出来ない。
ブレスを注意しながらひとまず距離を置く。
セナの姿だというのもあるがシャトルーズ・ムーンが通らない。
となるとあの甲殻は相当硬い。
狙うなら腹側だな。
しかしどうやって裏返せば良いんだ!?
「ギチチッッッ!」
ボスがその場で丸くなり、ギュルギュルと回転を始める。
地面の氷が溶け始め、水蒸気が煙のようにゆらゆらと立ち込める。
転がって俺を轢き殺すつもりか?
「攻撃方法は雑魚と同じ、問題は硬い甲殻と巨体ですね。」
頭で考えた事を声に出して耳で聞く、単純そうに見えて状況を整理するのに大切な事だと思う。
丸くなった氷の塊は回転数を更に上げて俺目掛けて転がってくる。
物凄い勢いだがスピードに定評のある俺は難なくそれを避けれる。
ドガァァァンーー!!!
大きな音に目を向けるとボスが部屋の壁にぶつかってその身を翻していた。
今が絶好のチャンスだ!
弱点であろう腹側が丸見えだ!
「《剣技》『ディスチャージ!!』」
バチバチバチッ!
雷の折れ線が剣を元に敵の腹へと飛んでいき、氷で出来たボスの足が数本砕けて悲鳴のように鳴き叫ぶ。
やはり腹側が弱点の様だ。
バタバタと一通り暴れた後、体勢を整えたボスがブレスの準備をし始める。
「何回も喰らわないですよ!」
俺はモノイレロの中からを白指輪を2つ取り出してそれぞれ指にはめ込む。
「《リング!》『ファイアウォール!!』
詠唱とともに指輪をなぞると目の前の地面が赤く光り、薄い炎の壁が立ち上がる。
「もう一丁!!
《リング!》『ファイアウォール!』」
再び詠唱をして先ほどとは別の指輪をなぞる。
すると同じ様に地面が光り、最初の炎が倍増する様に壁が厚くなる。
氷のブレスが俺に向けられ放たれるが、炎の壁が氷を溶かすので届く前に無力化されている。
ウォール系は日常生活に使われる程威力が弱いが2つ使えば話は別だ。
ボスの必殺ブレスだって防げるのだ。
「ギチチッッッ!!」
ブレスが止んだーー。
炎の壁も徐々に弱まり2つの指輪は役目を終えて俺の指から砕け落ちる。
「防いで見せましたよ。ほら次はどうするんですか?」
なんでモンスターに敬語なんだろう?
セナの姿だと癖で誰にでも敬語になってしまうのか……。
「ピギャガァァァ!!」
交戦してから初めて聞くその鳴き声は助けを求めるようにダンジョンに響き渡る。
するとどこからとも無くアイスコロコロの氷柱が現れ、数秒後には天井を埋め尽くす程の事態となっていた。
「そ、それは卑怯ですよ!!
《剣技》『ディスチャージ!!』」
天井から氷の塊が何体も何体も落ちてくる。
雷がそれを迎撃するが圧倒的な量に剣技の雷量が追いつかない。
少しばかり剣技にMPを付け足して注ぐ。
「……おらぁ!」
バチバチバチィッ!!!
更にMPを注ぎ込んで雷の枝分かれを増やす。
これで漸く五分五分だ。
「グォォ……。」
ボスがブレスの準備をしている。
これはまずいな……。
このタイミングでは防ぎようが無い。
それ以前にこんな状態じゃ俺のMPが長くは持たない。
と言うかもう無い。
既に俺のシンボルである【猫】の特徴が身体的に現れているのだ。
……クソッ。
どうすれば良いんだ!?
「グォォォァァァァ!」
考えているうちに放たれた氷のブレスは、容赦無く俺に狙い定められており一寸のズレも無い。
しょうがない……。
このブレスは甘んじて受け、雑魚を殲滅した後ボスに集中しよう。
さぁ来い!!
「ーー!!」
そう決心した時に、ブレスと俺の間が光り輝いて地面から炎の渦が巻き起こる。
高貴に立ち上るその炎は、氷のブレスを掻き消しながら天井の氷柱も溶かしていく。
物凄い威力の炎だ。
荒々しくも気品のあるこの炎に俺は見覚えがあった。
「ノア!?」
剣技を止めて後ろを振り向くと、黄金の剣を握った美少女が華やかな笑みを俺に向けていた。
「間に合って良かったわ。
何時までたっても帰って来ないからまさかと思ったけど案の定セナになってたのね。」
輝く金髪が靡いて揺れる。
ノアは何時ものツインテールではなくポニーテールでその髪をまとめ上げている。
どんな髪型でも似合うのは美人の証だな。
「それにカノンみたいに猫耳と尻尾が生えてるわよ?
MPが底を尽きそうなんじゃない?」
「はい……。
敵の数が多すぎて……。
それよりなんで此処が分かったんですか?」
「ゴローに聞いてすぐに駆けつけたのよ。
もしかして猫やセナになってたらアンタは今頃ピンチだろうなって!
ダンジョンに入ってすぐにアンタの服が落ちてて私の推理が正しかった事を証明したわ。」
「上から降ってくるモンスターはどうしたんですか?
それにどうしてボス部屋に入れたんですか?」
「そんな一気に聞かれても答えれないわ。
私は1人しか居ないし。
順を追ってちゃんと話してあげるから。」
「グォォォァァァァ!」
「……そういえばボス戦の途中だったわね。こいつを倒してからゆっくり話しましょう。」
ノアはそう言ってボスへと走り出す。
「奴の甲殻は僕の剣でも歯が立ちません!狙うなら腹側です!」
「大丈夫よっ!
《剣技!》『ファイアスラッシュ!』」
「グォァァッッッ!!」
ノアは大きくジャンプしてボス目掛けて剣を振り下ろす。
炎を纏った刀身は敵の甲殻を難なく斬り裂いて大ダメージを与える。
凄い!!
シャトルーズ・ムーンの刃が通らなかった甲殻を難なく斬り伏せるなんて!
ノアはスタッと地面に着地し、後ろを振り返りつつ口を開いた。
「私、このダンジョン得意みたいだから。」
ノア「久しぶりねセナ、猫耳なんて付けちゃってイメチェンかしら?可愛いわよ…ふふふ。」
セナ「うぅ……。〈助けて貰ったから何も言い返せない!〉」




