折り紙と猫
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「それで?今日はどうするのよ?」
「……寝る。」
「はぁ!?
折角の1日を休息に使うなんてもったいないわ!ちょっとぐらい寝なくても死なないわよ。」
「……。」
早朝、寝起き頭にノアの大声がガンガンと響く。
なんでこんなにも元気なんだよ……。
「ダンジョンへ行くわよ!他の冒険者に舐められないようにレベルを上げないと!ほらっ!」
ノアはそう言って布団から俺を引きずり出そうとする。
俺は踏ん張ってその場所を動こうとしない。
「んぬぬ!!」
「ふっ!」
「何で動かないのよっ!!」
「眠いから。」
「ふーんそう。こうなったらこっちも奥の手を使うわよ?」
「ストップ、ノア。
暴力は何も生まない、話し合いで解決しよう。」
「嫌よ。」
「その話の主人公は元ディアナの神格者、つまり俺の師匠の事なんだけどーー」
「私の話聞いて無いし……。」
「それが起こったのはある冬の日……俺がまだ15歳程の頃。
普段から怠惰な生活を送っている師匠だけど今回は特に酷かった。
口を開けば食事の要求か神格者の愚痴、厳しい寒さに立ち向かう事なく自室に閉じこもりっぱなし。
彼女が行うべき仕事は山積みで、俺の修行も打ち止め状態。
急かしても師匠はまだ大丈夫と言って全然やらなかった。」
「大丈夫じゃないわねその神格者。」
「後日、流石にヤバいと思った師匠は重い腰をあげて依頼に取り掛かろうとした。
いざ始めようとしても1日やそこらじゃ終わらない仕事量、依頼の中には一刻を争うモノもある。
泣いて頼んできたからレベルの低い案件は俺が手伝ったけど、神格者まで届く依頼はそもそも難題ばかり。手伝えるのは一握りだった。
結局師匠が自身のツケを清算する形で依頼を完遂させた。」
「結局丸く収まったじゃない?」
「いや、俺が言いたいのはこの後。」
ノアの頭の上にクエスチョンマークが浮かび上がる。
「俺は師匠が1つ依頼を終えたら目一杯褒めて讃えた。
仕事の最中で何度も何度も泣き言を吐いて止めようとする師匠のモチベーションを唯一維持出来る方法だから。
そしたらいつも以上に張り切っちゃって、あの怠けきった生活をしていたのが嘘みたいに働いた……。
『睡眠』という人間が必要とする大事な要素を無視して。」
「……。」
話が見えなかったノアが『睡眠』というワードで全てを理解した。
理解した上でジト目を向けてくる。
「わっはっはー!!私レベルになると睡眠などいらぬわ!って言ってた師匠が3日後に倒れたんだよ。
この意味分かる?
寝ないと人は死ぬ。
だから俺は睡眠に重きを置いてんだ。」
「……はぁー。
他人の過ちを見て自分を正すのは良いけれどねセドナ。
そこまで睡眠に重きを置く人間がどうして寝不足なのよ?」
「そりゃあ昨日カノンと…」
俺はそう言いかけてグッと唇を噛む。危ない危ない…危うくノアの誘導尋問に引っかかるとこだったぜ。
カノンが昨日俺の部屋に来て朝までお喋りをした。
そんな事をノアに教えたら、私はダメなのにカノンは良いのねって嫉妬する!
そして今日金髪の悪魔が俺の部屋に現れたらthe end。
俺が安眠する未来は無い。
「カノン?」
「カノンのお父さんに当たるゴローと話し込んでたんだよ。」
無理矢理すぎるけど寝不足で頭が回らねぇ。
これで納得してくれ。
「はぁ……。
意味分かんないけど分かったわ。
今日は休息にしましょう。取り敢えず私は商店の方へ行くつもりだけど何か用事はない?」
「……俺達はパーティーだからモノイレロの共有をしても良いと思う。職人に頼めば一発だから頼む…。」
俺は自分の黒指輪をノアに投げる。
ノアはそれをキャッチしてコクリと頷いた。
「……後、ちゃんとローブは被って行けよ?そんなノアみたいな可愛い娘が歩いてたら街が騒ついて俺が眠れないから。」
「!!
か、可愛いとか褒めても何も出ないわよ!」
ノアの口元は微笑んでいる。
強がってても可愛いと言われたら嬉しいんだな……。
「じゃあ夕方には帰るから。
あ!
アンタがセナや猫になっても良いように宿の人には言い訳しといたから!
安心して寝てて良いわよ!」
「ありがとなぁ。」
俺の事を気遣ってくれたのか?
ノアは口調こそキツいが根はとても優しい良い娘だな。
そんな娘とパーティーを組めるなんて有難いものだな。
「それじゃあ行ってくるわね!」
バタンッとドアの閉まる音。
ノアが出て行って部屋に静寂が戻ってくる。
寝よう。
どんな強者も睡魔には勝てない。
※ ※ ※
カチャ。
タッタッタッタ!
……ごそごそ。
「どぉーん!!」
「ぐぁぁッーーー!!」
突然の衝撃に驚き、俺はベッドから飛び起きる。
「な、なんだ!?何が起きた!?」
「おはようおにーさん!
もう夕方だからノアお姉ちゃんが起こして来てって!」
「あぁ有難うミオ。
でももうちょっと起こし方は考えような?」
「はーい!」
猫耳幼女は元気良く返事をして俺の部屋を飛び出して行った。
本当に分かったのか不安だ。
「ふぅ。」
ベッドから降りて伸びをする。
よく寝れた…のか?
一様身体の疲れは取れているし気分もスッキリしている。
2日寝なかった分は取り戻せたかもな。
「失礼するわよー。
あ、起きたのね。
どう?よく寝れたかしら?」
「あぁお陰様で。
そっちはどうだ?」
「はいっ。」
不意に投げられた黒指輪をキャッチする。手に取ればそれが自分の物だと分かる。
「ちゃんと共有出来たわよ。
これでわざわざドロップアイテムを分ける必要が無くなったわね。」
「サンキューなノア。」
「良いわよそんな事。
それよりセドナ、最近変身してないみたいだけどどうしたのよ?」
「セナも猫も今は鳴りを潜めてる。
変身するのに条件とかは無いしランダムに起こるから今は運が良い状態みたいだ。
ってか……変身するのが普通みたいに言うなよ、これが俺の本当の姿だ。」
「あら?私はセナとの時間が長いから久しぶりに会いたいわ。」
「お前なぁ……。」
とんとん!がちゃ!
「セドナさん、ノアさん。
夕食の準備が出来たそうなので降りて来て下さい!」
カノンがノックしてから返事も待たずして部屋に入ってくる。
宿屋の娘なのにノックの意味が分かってない。
「分かったすぐ行く。」
俺とノアはカノンと共に部屋を出て階段を降りていく。
その最中に良い香りがしてきて、朝からなにも食べていない俺は少し足早になる。
カノンについて行くと昨日と同じ部屋に到着、既にミオ、女将、ゴローは席に着いている。
俺の予想だがこの部屋はお客様用ではなくてキララエル一家のリビングだと思う。
既に俺とノアは家族として扱われているのか?
嬉しいけど静かに食べたい。
今日はあまり話に乗らないでおこう、そうすれば自然と静かになるだろう。
「私、セドナさんの隣でも良いですか?」
「良いよカノン。」
「ミオも隣が良いー!」
「よしおいで。」
俺はキララエル姉妹に挟まれる形で席に着く。
「何ニヤついてんのアンタ。」
ノアが不機嫌そうにそう呟く。
「俺の目の前に来なよ。
明日からの事を話すには隣より正面の方が話易いだろ?」
「!!そ、そうね!」
美少女は金髪を揺らして俺の前の席に着く。その顔は何故だか満足気だった。
※ ※ ※
夕食と風呂を終えて自室でゴロゴロタイム。
俺は眠りにつく寸前だった。
昼間寝たから夜は寝なくても良いというわけでもない、寝れる時に寝なければいつ何が起こるから分からないからだ。
ガチャガチャガチャ!
ガチャ。
「失礼します!」
「失礼しまーす!」
……ほらこういう風に。
「なんで鍵掛けたのに入って来れるんだよキララエル姉妹!」
「合鍵だよ!マスターキーってヤツ!!なんかカッコいいよね!」
おい。
この宿可笑しいだろ!
プライバシーもへったくれも無いじゃねーか!
「ーー!!
……待った、ノア隠れても分かるぞ。」
「!!」
カノンの背後からピョコンと飛び出たツインテール。
俺に見破られ渋々その身を現す。
「バレた?」
「なんでそれでバレないと思ったんだよ……。」
猫耳を生やした姉妹とツインテールを生やした美少女。
今日は絶対寝れない、勿論悪い意味でだ。
「揃いも揃って俺の部屋に入って来やがって。
何が目的だよ?」
「ふふーん!
これです!」
カノンがモノイレロから取り出したものはーー
「折り紙?」
「流石神格者様!
このアルカナタウンのみの文化をご存知とは!」
「いや、折り紙は知ってるけど文化は知らないよ?」
「あのね!
9日後にお祭りがあってそれで使うんだよ!」
9日後にお祭り?
なるほど……。
だからソレ(お祭り)が終わるまで図書館が休館なのか。
「アルカナ祭りって言うらしいわよ。知恵の女神を讃える祭りで当日街の人々は…」
昼間、街で聞き入れたのかノアが詳しく説明してくれる。
「知恵の祭りなら本を読んだりするのか?」
「紙飛行機を飛ばすの。」
「なんでだよ!」
俺の渾身のツッコミの最中、ミオが折り紙を1枚手渡してくれる。
「おにーさんにも手伝って欲しいの!」
「あ、ありがとな。」
「手伝って頂くお礼も用意しました!じゃーん!」
カノンは高級そうな箱から一本の瓶を取り出す。
豪勢な金のラベルには黒字で『夢時雨』と描かれている。
「酒…か?」
「その通りです!
しかもただのお酒では無いですよ。《バッカス》特製の高級酒なんです!」
この世界ではアルコールに規定など存在しない、色々な種族がいるので基準が作れないのだ。
よってノアやカノン、俺までも飲酒自体は出来る。
「私の一番好きなお酒を用意するとは流石ね、カノン。」
「ありがとうございますノアさん!
では早速一杯やりましょう…。」
おい。お礼じゃなかったのかよ。
なんで折り始める前に飲んでんだよお前ら。
カンパーイじゃねーよ!
「なぁカノン。
その祭りは1人1機紙飛行機を飛ばすのか?」
「基本はそうですね!」
「ならゴローと女将さんを合わせて6機折れば良いんだな?」
「それは違いますセドナさん。
宿屋はアルカナ祭りの時期になると紙飛行機を折って売るんです。
街の人はそれを買って1度バラします、そして紙に願いを書く。
その後祈りを込めて空へと飛ばすんです。
これが毎年恒例の行事。
あ!因みに売って良いのは当日のみですよ!」
「……って事は何枚分折れば良いんだ?」
「この街の人が最低1人1つは飛ばします。そう考えると…」
「いや聞きたくない。」
「あはは。大丈夫ですよ。
全員分作るわけじゃ無いです。
見ての通り宿屋は多く存在しますし、ここは街の外れですからね。」
「昔は凄かったんだよー!
折っても折って足りないぐらい!
けどあの怖い人が来てからはお客さんも減っちゃった……。」
「やめなさいミオ。
お2人には関係ないでしょ。」
「でも……。」
カノンに叱られたミオは耳を畳んで俯く。
賑やかな空気は一転、重苦しいものへと変わった。
あの怖い人、この宿には何か裏があるのか?
「私紙飛行機の折り方分かんないわ!ミオ!私に教えなさい!」
「!!
う、うん!!
まず半分に折るんだよー?
ここが物凄く難しいから時間をかけてね!!」
「半分ね。分かったわ!」
「失敗しちゃダメだよ!?
これは指輪じゃなくて本当の紙だから!」
ミオの耳がピンっと立ち上がり、笑顔が戻ってくる。
すると和気藹々とした雰囲気が部屋を包み込む。
「ノアさん…お優しいですね。」
「あぁ。ちょっと口調はキツいけどな。」
…ありがとうノア。
「それじゃあ俺もやるかな。」
紙飛行機なんて久しぶりに作るなぁ。小学生の時に授業で折ったっけ。
「出来た。」
「「「え!?」」」
俺の独り言に3人の声が重なる。
「へ?」
「み、見して下さい!」
折った紙飛行機を俺の手から奪い去り、じっくりと観察するカノン。
ミオとノアも紙飛行機に釘付けだ。
そんなに下手かなぁ?
売り物だから丁寧にやったつもりだけど。
「あ、あり得ないです!
なんでこんなに早く折ってこんなにも綺麗なんですか!!?」
「そうよ!アンタそんな才能を隠し持ってたのね!」
「凄いよおにーさん!」
「……え?たかが紙飛行機だけど。」
「紙飛行機なんて折り紙の中でも最高難易度じゃないですか!
一機折るのに10分はかかりますよ!」
「そうよ!折り紙を半分に折るなんて相当な技術を要するわ!」
紙飛行機が最高難易度?
半分に折るのが難しい?
…この世界の人って折り紙苦手なのか?
「……紙飛行機を買ってから1度バラして紙に願いを書くんだろう?
折り直すのにまた10分かけるのか?」
「それは折り目がついてるじゃないですか!一瞬で出来ますよ!」
「……なんで折り目があれば良いんだよ……いや待て!
ギルド嬢はクエスト用紙とか簡単に折ってたぞ!
これはどう説明するつもりだ!?」
「それは折り紙じゃ無いじゃない。」
「え?……。」
折り紙とクエスト用紙って何が違うんだい?
同じ紙だよね。
「カノン。ちょっと折ってみてくれ。」
「分かりました!
まず半分に折って……ん?
難しいなぁ、半分に折るって縦にですかね?それとも横に?ま、まさか斜め?」
「何言ってんのよカノン。
こっちがこうなって……あれ?
いやここがこう……ふぇ?」
「ノアさんも分かってないじゃ無いですかぁ!
そもそも1枚の紙から何かを生み出すなんて誰が考えたんでしょうねっ!!……ちと難し過ぎやしませんか?こうなったらヤケ酒だぁぁ!」
「私にも1杯頂戴っ!!」
ごくごくと酒を飲んでは折り紙へ、分からなくなってまたも酒に手を伸ばすの繰り返し。
最早飲みたいだけだろ!
「ストォップ!
もう分かったからお前らちょっとこっち来い!俺が1から教えてやる。」
「ありがとおにーさん!」
飲助2人に行ったつもりだったが、いち早く反応したのは猫耳幼女だった。
彼女はあぐらを組んでいた俺の上にちょこんと座りニコニコ微笑む。
左隣にノア、右隣にカノンが座り俺の折り紙講座は開かれる。
「ちゃんと見とけよ?」
「「「はぁーい!」」」
「まず半分に折って……って持たれ掛かるなよノア。」
「こうじゃないと見えないのよ。」
う!?
甘い吐息が耳にかかってくすぐったい!
俺は注意しようと左を向くと数センチ先にノアの恥ずかしがる顔が見える。
少し前に出ればキス出来る位置だ。
顔が真っ赤なのは酔いが回ったからだよな?
「はぁん……。
な、何こっち見てんのよ……。」
「わ、悪い。」
気を取り直して折り紙を半分に…
「セドナさん。セドナさん。
折り紙はどっち向きに半分ですか?」
カノンの問いに答えようと俺は右を向く。
するとカノンのキス顏が俺の目に映る。
「チュ❤︎」
え?
カノンは俺の頬に軽くキスをする。
トロンとした目で俺の耳元で囁く。
「どっちに半分ですか?金髪の左向きですか?それとも猫耳の生えた右向き?」
「私分かるよお姉ちゃん!
真ん中から上に折るんだよ!
おにーさんがそうやって折ってたもん!」
「そ、そうだ。
よく見てるなミオ。まぁ半分に折るのに向きなんて関係無いけどな。」
俺が頭を撫でてあげると彼女はえへへー。と嬉しそうに微笑む。
ミオナイスタイミング。
君のお陰で究極の質問に答えなくて済んだ。
「カノン!
アンタ今何したのよ!?」
「す、すいません。
私セドナさんのファンなので気分が高まってその…キ、キスしちゃいました。」
「ずるいわよ!」
「ずるくないですよー。
ファンならこれぐらい普通ですぅ。」
「私だって!」
ノアがグイッと俺の顔を引き寄せる。ヤバい。
両隣が酔い潰れて可笑しくなってる!
酒弱いのに飲むなよ!!
呑まれてるぞ!
「酔いが覚めたら後悔するぞソレ!」
「セドナぁ。
んーチュ❤︎」
頬にノアの柔らかい唇の感触がする。
あぁキスされた!
嬉しいんだけど絶対明日怒られる!
このままここに居るのは危険だ!
「んぁ!ずるいですよぉ。
私はもっと凄いこと出来ますよセドナさん?」
「ミオ!マスターキー持ってるか!」
「うん!これー!」
ミオは俺に青指輪を見してくる。
君が持ってるなら安心だ!
「ノア!
お前部屋借りるからなぁ!」
俺はミオを抱きかかえて自分の部屋を飛び出る。
白指輪で部屋を開けたり閉じたりを繰り返し、残り15だった解除回数を0にする。
すると扉は外からも内からも開けれなくなる。
ガチャガチャガチャ!
「どこ行くのよぉー。」
「セドナさぁーん。
また尻尾触ってぇー!」
「ミオ。この扉を開けるのは明日の朝だ。
それまでマスターキーは俺に貸しててくれないか?」
「良いよ!」
ミオは俺に青指輪を手渡してニコニコ微笑む。
俺はそんな彼女の頭を軽く撫でてやる。
「じゃあ俺はノアの部屋で寝るからな。何かあったら呼んでくれ。」
ミオは自分の黒指輪をぎこちなくなぞると空間が歪み穴が開く。
その中から数枚の折り紙を取り出す。
「まだ折り紙教わってないよ!
おにーさん!」
あーそうか。
折り紙講座の途中で部屋を出て来ちまったからなあ。
「じゃあミオも来るか?」
「うんー!」
騒がしい俺の部屋の前を通り過ぎて廊下を歩いていく。
ラスボスはミオだったか……。
結局今日も寝れなさそうだ。
カノン「ノアさん顔赤いですよぉー?」
ノア「アンタこそゆでダコみたいよぉ?」
カノン「本当ですかぁ?いま凄く身体が熱いんですぅ。あ、そうだ!1枚脱ごう!」
ノア「それ良いわね。私も脱ごうかしらぁ。」




