猫と猫
カポーン。
ふぁー気持ち良い。
この宿の事だから大したものでは無いと決めつけてた風呂だけどかなり広くて快適だ。
客は俺とノアだけらしいので、既に入り終わっているノアは換算しないとする。するとどうだろう。
この風呂は俺だけのものだ。
泳いだって踊ったって誰にも注意されない。
もう俺こそがルール。
風呂の神なのだ!!
「あっはっはっ!
愉快愉快!!」
俺は湯船に浸かり大笑いをする。
最近セドナの状態が長く続いてるから凄く調子が良いんだよ。
もしかしたらこのまま解呪されてた、なーんて事もあるかもな。
「そうは思いませんか?
相棒!」
湯船に浮かんだアヒルのおもちゃに話しかける。異世界でもこのおもちゃ有るんだな。
まぁこっちのは木で出来てるけど。
ガラッガラッ!
「わぁーい!
一番乗りぃ!!」
「待ちなさいミオ!
走ると危ないわよ!」
「大丈夫大丈夫ぅ〜!」
!?
突然風呂への扉が開き、猫耳の幼女が元気一杯に飛び出してくる。
「いてっ!」
「あはは!
お姉ちゃんの方が転んでるぅ〜!」
それに続いて猫耳美少女が転びながら登場する。
勿論二人共、生まれた時の姿だ。
「……。」
湯煙に紛れ咄嗟に風呂の端に寄る。
……確か此処は一つしか風呂が無い。
しかし今は男湯の時間だよな?
何で女が入って来るんだ!?
「身体を洗ってから入るのよ?
お客様も使うんだから。」
「分かってるよー?」
「ほらこっちに来なさい。
私が尻尾を洗ってあげるから。」
「いやっ!
尻尾触られると変な気持ちになるもん!」
「それはしょうが無いでしょ?
私達獣人族は尻尾が敏感なんだから。」
和気藹々と身体を洗い合う2人。
多分この2人が女将さんの娘だ。
仲良いなぁ。
……。
んなこと言ってる場合か!
湯気のお陰で俺の姿はバレてないけれど湯船に入られたらthe end!
宿から追い出されるどころか神格軍に捕まって牢屋行きだぜ。
どうやって逃げる?
取り敢えず潜って出口側に移動するか……。
せーの。
俺は息を止めて出口へと動き出す。
よしこのまま進め!
「そいやぁー!!」
「こら!
飛び込むなぁ!」
バッシャーンッ!
……ブフォッ!!
突然背中に衝撃が走る。
幼女が奇跡的に俺の上に飛び込んできたのだ。
「あれ?
何かいる?
……気のせいかなぁ?」
俺は光より速く来た道を戻る。
……あっぶねぇ!
バレるとこだった!
つっても今ので貯蔵していた酸素が消え失せた。
一度地上へ帰還せねば!
「どうしたのミオ?」
俺の真横にすらっと長い足が見える。
あ、姉の方が湯船に入ってきたのか?
「なんかねー!
変な生物がいたの!」
「やめてよ気持ち悪い。
ただでさえ評判の悪いウチをもっと悪くするつもりなの?」
……さてどうする?
1つの湯船に猫耳姉妹と1人の男性が混浴している状況。1回目のトライは妹に阻まれ撤退、やむ終えずスタート位置で身を潜め、酸欠になりながらも美少女の裸体を眼に焼き付けている。
「今日の夜ご飯は何かなぁー?
久しぶりにお客さんが居るからきっと豪華だよお姉ちゃん!」
「え、本当??」
透き通る白い肌。
引き締まったお尻からは猫の尻尾が生えていて水中でゆらゆら揺れている。
『獣人族は尻尾が敏感なんだから……』
……これだ!
俺は敢えて姉に近づき、揺れる尻尾を思いっきり掴んだ。
「ひゃあん!!」
ぐにぐにぃ〜!
「あっ…やぁっ!!
んんっ…。」
姉は身体をくねらせてバシャバシャと水飛沫を散らす。
……どうだ。
このパニックを機に逃げ切ってやる!
「やめ…やめなさい…ミオぉ!」
「ふぇ?
なんのことー?」
「し、尻尾!!
弄るの…やめっ…んんっ!!
……ッッッはぁん!!!」
「私じゃないよ!お姉ちゃんの好きなディアナの神格者様に誓っても良いもん!」
「だって…ミオ以外…はぁっ…。
い、居ないでしょ!」
「居ないけど……!!
いるよ!!
きっとさっきの生物だ!
ミオが捕まえてやる!」
ぐにぐにぃ〜!!
こんなもんか?
よし。
3秒後湯船から脱出する!
右良し!左良し!
3…2…ブフォッ!!
俺の背中にまたもや衝撃が走る。
今回は耐えきれず俺は水中から飛び出てしまう。
「っぷはぁ!」
「捕まえたっ!!
謎の生物は黒髪イケメンさんだー!!」
滴る水を手で払って目を開ける。
俺を指差してニコニコ微笑む幼女。その横に顔を真っ赤にした猫耳美少女が息を目一杯吸っている途中だった。
頭が真っ白になった俺はこの娘が知り合いだった可能性に賭けてみた。
「よう久しぶり!よ、呼んだ?」
「きっ!
キャャァァァァァァ!!」
※ ※ ※
「ウチの娘がすいません。」
「いや…良いでずよ…。」
「おにーさん、大丈夫?」
「うん。」
パンパンに腫れた頬を押さえて、俺は椅子を引く。
夕食はのんびり一人で食べようと思っていたのだが、お詫びだと言って何故かキララエル一家と同じテーブルに着いているのだ。宿に泊まっているので無く居候でもしている気分だ。
「セドナさん……本当にすいません!
何時もこの時間にお風呂に入るから…。
まさかお客様が居るなんて…。」
俺をビンタした娘が申し訳なさそうに隣に座る。
この娘の名前は【カノン・キララエル】。
この宿の長女。歳は17なので18の俺よりも1つ年下だ。
明るい茶髪は少しパーマがかかっていて、肩までのショートカット。
髪の間からは猫耳がピコピコと動いていてとても愛らしい。
因みに手前で心配そうにこちらを見つめているのはカノンの妹【ミオ・キララエル】。まだ7歳なのだが顔立ちが姉に似ているので将来有望だ。
「あ、あの……。
どこまで見ました…か?」
万人が好む清楚な顔つきをしたカノンが、もじもじと身体をくねらせて恥じらっている。
あぁ。
男心が擽られるなぁ。
なんだか意地悪したい気持ちになるぜ。
「ぜっ全然見てねぇよ?」
「そ、そうですか!
それは良かったです!」
「騙されちゃダメよカノン。
その男は女の裸が大好きな変態なんだから。
お風呂を覗くのも2回目だし。」
「えぇ!?」
ノアの奴余計な事言いやがって……。
確かに女の人は大好きだけど俺は変態では無い、紳士だ。
「やめろよノア!
確かに2回目だし、見てないってのは嘘だけどさぁ!」
「えぇ!!
見たんですかぁー!!
忘れろっ!忘れろぉー!」
俺がわざとそう言うと彼女はポコポコと肩を叩いてくる。必死に叩くその姿に俺は少し意地悪をしてみる。
カノンにバレない様に彼女の尻尾に手を伸ばして思いっきり擦り上げる。
「……ふにゃぁんッ!!」
突然発せられる艶やかな声。
ビクッと跳ねるその身体。
うぉおおおお!!……この娘可愛すぎるっ!
「もっ、もう!!
尻尾はやめて下さいよぉ!
へ、変な気持ちになりますからぁ……。」
「悪りぃ悪りぃ。ちょっと当たっちゃっただけだから。」
そんなやりとりをしていると夕食を運んできた女将さんが嬉しそうに微笑む。
「あらあら。
いつの間に娘と仲良くなったんですか?」
「きっとお風呂で仲良くなったんだよ!
おにーさんのテクニックでお姉ちゃんがあんっ!あんっ!って気持ち良さそうに喘いでたもん!」
「えっ!?」
ノアは誰よりも早く反応し、俺を睨みつける。
ち、ちょっと顔近いです。
「へ、変な風に言わないでよミオ!」
「だって本当だよぉ?」
「セドナ!!
アンタ何したのよ!!」
痛い痛い痛い!
隣のノアが俺の頬を思いっきりつねってくる。
「ひひぇ!
ほの娘言いかふぁに悪意があふって!! (その娘の言い方に悪意があるだけだって)
ほんほうはほっとひっぽを掴んだだけだっへ!! (本当はちょっと尻尾を掴んだだけだって!!)」
「なんて言ってんのよ!!」
「ほまえがふねっへるはらだー!! (お前がつねってるからだー!!)」
「はっはっは。
いやー嬉しい限りです。
セドナさんでしたらウチの娘をお任せ出来ます。
今夜も同じ部屋で寝ますか?」
「や、やめてよお父さん!!
セドナさんに迷惑だよ!」
「かほんならほんなに迷惑じゃないへど……。 (カノンならそんなに迷惑じゃないけど。)」
「ええっ!わ、私まだ心の準備が……。」
カノンは顔を赤く染めて眼を逸らす。猫耳が物凄い勢いでパタパタ動き、尻尾がユラユラ揺れる。
「なんで私はダメなのよッ!!」
「あいてててててっ!!」
「ならミオも一緒に寝るー!!」
ガヤガヤと騒がしい食卓。
この世界の家族を思い出すなぁ。
まぁすぐに離れ離れになったから両親との記憶は乏しいけどね。
「なんだか子供が増えたみたいで、嬉しいなお前。セドナさんとノアさんには目一杯のおもてなしをしようじゃないか。」
「もちろんです。
例え私の身が朽ち果てようとも。」
「そうだな!」
この夫婦急にどうしたんだ!?
なんか手を握り合って誓いみたいなの立ててる!!
そんな盛大に気遣わなくても良いよ!?
※ ※ ※
夕食を終えて自室のベッドの上。
今日も1日疲れたなぁと思いつつ天井を見つめる。
明日は何をしようか?
10日も暇があればやれる事は多い。第1候補はダンジョンへ行く事だが、それは共に戦うパーティメンバーに聞いて決めた方が良いだろう。
つまりはノアだけど…。
第2は商店へ出向く事かな。
前回の様にイレギュラーな事が起こるかも知れない。
余分に指輪や剣を買って置いても良いよなぁ。
けど買い物をするにしてもノアと要相談だな。
不意にトントンッとドアをノックする音が部屋に響き渡る。
噂をすればノアか?
部屋ぐらいなら入れてやるけど絶対に一緒には寝ないぞ!!
俺がドアをそ〜っと開けるとそこに居たのは俺の予想する人物では無く、猫耳の美少女が枕を抱いて立っていた。
「あれ!?
まさか本当に俺の部屋で寝るの??」
「い、いえ違います!
ちょっとセドナさんとお話をしたくて来ちゃったんです。
満足したら自室へ戻るので少し相手してくれませんか?」
「んー…まぁ少し話すくらいなら良いよ。
ほら入りな?」
「ありがとうございます!」
カノンは嬉しそうに俺の部屋へと入ってくる。
寝間着なのか?
下は長い足を魅せる様に露出したホットパンツで、上は無防備とも言える白いタンクトップだ。
豊満な胸の形がそのまま浮き出ており、その先端だけは少し盛り上がりを見せていた。
の、ノーブラじゃねーかぁ!!
そんな格好で男の部屋に来たらダメだって!カノンは躊躇いもなくベッドにあぐらを組み、尻尾をユラユラ揺らしてみせる。
「セドナさんも早く座って下さい。」
「お、おう。」
平常心平常心。
俺が呪いに侵されている以上にバレてはいけない事がある。それは神格者なのに童貞だと言うことだ。
こんな時経験者は落ち着きを払って普段通り話すだろ?
しっかりと目を見てな…。
「実は私…ディアナの神格者であるセドナさんの大ファンなんです!!」
「ふーんそうなんだ。」
カノンの話が全然頭に入ってこない!
目線も彼女のパッチリ開いた目ではなく、胸元のボッチにいってしまう。
それを修正しようとして目線を上へ、しかし男の本能が目線を下へと運ぶ。
「もし機会があったら一緒にダンジョンに行ったりしてみたいです!それがダメならサインでも……あ、握手だけでも良いです……ってセドナさん?気分でも悪いですか?」
結果、カノンを心配させるほど俺の目は泳ぎに泳いでいた。
「だ、大丈夫大丈夫。話を続けて。」
「は、はい。
私はセドナさんの大ファンなんです!
その証拠に…これを見て下さい!!」
カノンはそう言うとモノイレロから本を取り出して俺に手渡す。
真っ黒な表紙の真ん中に堂々と写しだらされた月のマーク。
なんの本だ??
ペラっと1枚目をめくり雷に打たれたような衝撃を受ける。
「な…なにこれ!?」
そこにはウォーターウォールで水を浴びる15歳頃の美男子が描かれていた。
【描く】というよりも写真と言った方が合っているので、多分《写し紙》だろう。
もう1枚めくると俺の寝顔。
もう1枚めくると俺のキス顔。
めくってもめくっても出てくるのは俺。
こんなの撮れるのは1人しか居ない。
「……あの野郎ォォォ!!!」
道理で昔、白い指輪を買い込んだ時期があったのか!!
その指輪がなくなったと思うと急に豪勢な夕食を食べに連れてってくれたり、修行の途中で急に「お主のお陰じゃ。」とか言ってたのか!
「こ、この本はどこで!?」
「この本は図書館で借りたものなんです!
人気の本なので中々借りられなかったんですけど街の女性が奪い合っている最中、猫の様な嗅覚で奪い取ったんです!」
ムフーっとガッツポーズを決めるカノン。
いや、すごくねーからぁ!!!
「しかも高い料金を払って100年レンタルをしたんですよ?
つまりそれ(本)は私のものと言っても過言では無いのです!」
「カノンが俺のファンなのは痛い程分かった。
しかし……これは没収だぁ!!」
「ふぇぇーー!!?
酷いですよぉ!私の宝物なのにぃ!」
俺は自分のモノイレロの中に本をぶち込んで、すかさず閉じる。
それと同時に俺の旅に新たな課題が生まれた瞬間だった。
【この本を全部回収する。】
これはかなり重要なミッションである。なんなら解呪よりも優先度は高い。
全部は師匠の所為……帰ったら覚えとけよ!!
「ちゃ、ちゃんと100年後に返しといて下さいよぉ?」
ウルウルした目で見ても返さないぞ!
この本は肖像権侵害だからなぁ!
「んで?
こんな本を持ち出して俺を茶化しに来たのか?」
「違いますよ!
何度も言う通りセドナさんのファンなんです!
ファンがお話しをしたいというのは可笑しい事では無いですよね!」
カノンは目をキラキラ輝かせて俺を見つめてくる。
この娘……。
可愛いけど面倒臭いタイプの娘だ。そういう時は寝るに限る。
「よし、寝よう。」
「えぇー!!急に!?」
「今日は疲れたんだよ。
この部屋で寝ていいからお前も寝ろ。」
俺は彼女をベッドの端へ追いやって横になる。
ノアのせいで寝てないから眠いんだよ。
「起きて下さいよ!」
カノンにゆさゆさ揺らされるが俺は起きる気は無い。
「……私の裸見たくせに。」
!!!
「私の憧れてた神格者様は変態の覗き魔だったのかぁ……。」
っっ!!
「お風呂に居たのは私だけじゃなくて妹もです。つまり妹の裸まで見たって事ですよね。幼女が好きな神格者なんて……。」
「わかったよ!!
何から話す!?
国の事?バカ師匠の事?俺の武勇伝!?」
カノンは んー……。っと悩み、満面の笑みで俺に告げる。
「全部ですかねっ!!」
セドナ15歳「師匠を差し置いて、僕が1番風呂で良いんですか!?」
師匠「良いのじゃ。私はどうも弟子に甘い。
ゆっくりと浸かって疲れを癒して来い。」
セドナ「ありがとうございます!」
師匠「いやいや礼など良い、それ以上のものを私はお主から受け取っておる。」
セドナ「??」
師匠「……取り敢えず行ってくるのじゃ。
ファイアウォールで温めている湯と私の気持ちが沸騰する前に!」




