旅の始まりと猫の土下座
評価、ブックマーク、レビュー等宜しくお願いします。
出来れば感想を頂けると作者が喜びます!
私は自分の人生に嫌気が指していた。
鳥籠の中の生活。
意味の無い裕福。
もう飽き飽きよ。
そして何も考えずに家を飛び出た。
そんな私にも初めて信頼できる【仲間】が出来た。
けど何でこんな結末なの?
迫り来る鋒は私の喉元へと正確に近づいてくる。
これは罰なのかな?
傲慢な私への。
自由を求めすぎた、未来に希望を抱いた私への。
………。
ならばしょうがない。
甘んじて運命を受け入れます。
でも彼女だけは。
初めて出来た友達だけは助けて下さい神様ぁ!!
※ ※ ※
目を閉じ【死】を覚悟した私は疑問を感じる。
一向にその【死】が訪れないのだ。
な…んで?
不意に眩い光を感じ、目を開く。
それはセナから発せられた月光の様な優しい光。
その光は彼女を包み込み、
二度と見ることは無いと思っていた憧れの人へと姿を変えた。
「大丈夫か?」
嘘…でしょ…!?
目の前には闇夜の様な黒髪をした男性。
全てを見透かした様な瞳は、こちらを心配する様に覗きこんでいた。
この人はディアナの神格者。
私の探していた人!!
聞きたい事は色々ある。
けれど今は!
「て…敵は!?」
「ん?あぁ。」
私に向けて放たれた突きは、彼が素手で刀身を掴み、目の前で止まっていた。
魔格者は精一杯踏ん張っているが、掴まれた剣を抜くことは出来ない。
「だ!誰だお前ぇ!!」
「うわっ!!
唾飛ぶから叫ぶなよ!」
セドナさんはあからさまに嫌そうな顔をして魔格者を睨む。
「落ち着けって。
俺はディアナの神格者だ。
残念だったな魔格者さんよ。
お前はここまでだ。」
バキィッ!
「な、なにぃィ!!?」
セドナさんがそう言い終わると刀身に亀裂が走り真っ二つに折れてしまう。
……あり得ないッ!
剣を素手で折るなんて初めて見た!
「クソォォ!!」
魔格者は渾身の力を込めて右ストレートを繰り出す。
それを必要最低限の動きで軽く躱し、男に回し蹴りを入れる。
「ぐぁぁぁァァア!」
腹を撃ち抜いた美しい蹴りは、男の鎧を粉砕しながら壁までその身を運んだ。
ドガァン
という衝撃の後に舞い上がる土煙。
その量が今の蹴りの威力を物語っている。
「はぁァガッッッ。」
やばいと感じたのだろう。
魔格者は瞬間移動でさらに距離を置き、リングを取り出す。
「《リン…がぁぁ!」
「おせぇよ。」
腕を掴まれて痛みに顔を歪ませる魔格者。
もちろん掴んで居るのは先程まで目の前にいたセドナさんだ。
「オ、お前ぇ…。
瞬間移動を使ガぇルのガァ!?」
「お前のそれと一緒にするな。
ただ単に【速すぎる】だけだ。」
すごい!
凄すぎる。
これが神格者の実力なの!?
「もうお前の負けだ。
命は此処に置いていけ。」
「……ッッッ!!」
「……まだダァァァ!!!」
魔格者は腕を掴まれながらも金指輪をなぞると、身体が黒い霧に包まれる。
立ち込める霧からは様々な叫び声が聞こえ、まるで人々の憎悪の声が閉じ込められている様だ。
「《リング》『魔契約の掟ぇぇ!!』」
「……!!
呪い系の指輪か?」
セドナさんは危険を察知し、霧から距離を取る。
「ガダグァァァイぃィい!!」
ボコッ。
ボコッボコッボコッッッ!
「ギャハハハハハッッッ!!」
黒い霧に包まれた男の身体が変化し始めて、人として原型を留める事を止める。
ライオン鬣とヤギの頭に蛇の尾。
他にも様々な動物が混ざっているだろうか?
つまるところ見た目は、最上級のモンスター【キメラ】だ。
「テメェのハラワタ食いちギッてブッ殺してヤる!!」
なんにせよ【人】では無くなった。
心も身体も。
そして空気で分かる。
あの怪物は相当強く、危険だ。
「このスガタにナったら後戻りハ無い!!
神格者をココデコロス!!」
「言語すらままならないのか。
やはり呪いは強力だが副作用が半端ではないな。」
「ヌァァァグァァァ!!!」
「あっ危ないわっ!!」
キメラは凶悪な爪を立ててセドナさんに襲いかかる。
一方彼は驚くほど落ち着き払っている。
「魔格者は皆、呪いの指輪を持ってるのか?
まぁそんな事はどうでも良いけど。」
セドナさんの剣がバチバチっと音を立てて雷を帯びる。
それもただの雷ではない。
まるで新月の様な純白の白い雷。
超高密なものであるのは誰でも見て取れる。
「成り立ての冒険者を狩って天狗を気取ってんじゃねぇ。
もうそろそろ天罰だ。」
そう言って走り出す後ろ姿。
襲い来るキメラがスローモーションに見えるほど彼の移動速度は速い。
「ガァァァー!!!!
シネェェェーーー!!!」
キメラの攻撃をダンスの様に躱してその身を宙に舞わせる。
バチバチッという音は一段と増していく。
「《剣技》『ホワイト・エクレール』」
「…ナッ!!ナンダソーーー」
凄い雷量と光量!!
目を開ける事が出来ないっ!
単純に放ったその一振りは、
ダンジョンごと壊すのでは無いかと心配させる程の威力だ。
魔格者が変身したキメラを一瞬で
跡形もなく消しとばしたーー
※ ※ ※
「いやぁー!
久しぶりにこの身体での戦闘だったぁー!!
やっぱスカッとするなぁ!!」
セナの姿だとMPを気にして強い剣技を出せないからなぁ。
セドナだとぶっ放せる。
まぁ今の技は弱い方ですけどね!
「……。」
「んじゃあダンジョンから出ましょう!
ほらノア、指輪出して!」
「……。」
ジト目で見つめてくる金髪ツインテ美少女。
頭には虎耳、お尻からは尻尾がひょこひょこしていて可愛い。
「?」
「貴方はセナ?」
「やだなぁ!
当たり前じゃないですか!」
そう言い終えて俺は心臓が止まりそうになる。
あ。
今男の姿じゃん!!
ピンチだったとはいえ、
目の前で変身したじゃん!
「……。」
更にジト目で俺を見つめる彼女。
完全に疑われている。
っとまだ大丈夫!
上手くやればバレない!
セナとセドナを聞き間違って
返事しちゃいましたー!
え?俺?
ちょっと通りすがったので助けたんです。
いやー良かった!
タイミングバッチリでしたねぇ。
とか言っとけば良いや!!
「セナなのね?」
……なんて言ってる暇かーー!!!
やべーよ!!!
バレたよっ!
バレましたよ師匠ーー!!!
「……あはは。」
「説明、してくれるかしら?」
「…はい。」
俺は手短に呪いの事やどうしてこの旅をしているかなどを話し始めた。
※ ※ ※
「なるほどね。」
一通り説明するとノアはうんうん頷いてくれた。
話を聞いて理解した様だ。
「貴方が時々居なくなったりしてたのは、そのせいなのね?」
「そうだね。」
一瞬の沈黙。
ノアは俺を見ると頬を赤らめる。
「……そ、それより、服を着なさいよ…。」
「あ。」
セナからセドナになったので服のサイズが合っていない。
下半身は伸び縮みする服なので良いのだが、上半身に着ていた服ははち切れてしまい裸の状態であった。
俺は急いでローブを出して上半身を隠す。
「今までに気付かれた事は無かったの?」
「無いですね。」
「ふーん、やるわね。
でも私は少し可笑しいと思ってたわよ?」
ん?
完璧に隠していたと思っていたがボロが出ていたのか。
「だってオークからは狙われないし、
やけに剣さばきが上手いし、
一緒にお風呂入るのを拒絶するし。」
あぁ確かに。
全部気を遣ってない所だ。
「特にお風呂は変よね!
あんな可愛い娘がお風呂嫌いなわけ無いもの!
……お風呂?」
ノアは得意げにそう言い終わった後、見る見る顔が赤くなっていく。
「お、お風呂っー!!!!」
ノアはぷるぷると震えながら怒りに燃える。
そして俺を指差して怒涛の文句を放つ。
「さ、最低ーー!!
ど変態ーー!!!!
この女装趣味ぃー!!!」
「ち、ちゃんと目を瞑ってたって!
……。
ちょ、ちょっとは見たけど。」
嘘は良くないので本当の事を言う。
ちょっと見たと言うのは、
乳首を嗜んだ程度です、はい。
「み、見たの!?」
ノアは自分の胸を腕で隠しながら涙目で俺を睨んでくる。
「死んで償いなさいよぉ!!」
「ま、まぁそんなに怒らないで!
結局魔格者は倒せたし、ノアは俺に会うことも目的だったでしょ?
あんなに嬉しそうにベッド転がってたじゃん!!」
そーだ!そーだ!
脳内で肯定するセナと猫。
これで3対1だぞノアよ!
ウルウルした瞳をパチクリさせてノアの頭にクエスチョンマークが浮き出てくる。
「…何であの猫しか知らない私の秘密を知ってんのよ?」
!!!
し、死んだァァァァァ!!
不意に寒気が身体をなぞる。
光に包まれて俺の身体は縮み出す。
1番酷いタイミングで最悪の変身を遂げた俺に残された道はこれだけだ。
Q 皆さんは見た事がありますか?
猫の土下座を。
A 無いので今から披露して見せましょう。
※ ※ ※
夜も昼も変わらず賑やかなギルド内にて。
「本当について来るの?」
「当たり前じゃない。
いざという時に貴方は役に立つし、これ以上私の様な犠牲者を出す訳にいかないでしょう?」
今俺達はダンジョンから脱出してギルドで報酬を貰っている。
因みに現在は男。
気分は上々で体調も優れている。
ただ頬には殴られた形跡が…んんっ。
転んでしまった時に打ったので、
頬は赤く腫れている。
「でもこの旅はかなり危険を伴う事になる。
女の子を危険に晒せない。」
「なら尚更ついて行くわ。
私を守ってよ。」
「……。」
俺の2つの正体がバレた後、ノアは旅について行きたいと言って聞かなくなった。
俺は正直1人の方が動きやすいのでどうにかしてノアには諦めて欲しい。
説得を重ねるも頑固な彼女の意思は、
山の様に動く気配が無い。
「連れてってくれないと大声で
正体をバラすわよ。」
「それはダメ!!」
「んーんー!
っぷはぁ。
口を塞がなくても直ぐには言わないわ!
それに……か、顔が近いわよ……。」
ノアは恥じらうようにモジモジ動く。
一様俺の事はまだ好きらしい。
「それでどうするのよ?」
「……。」
もー……。
弱みを握られた以上連れて行くしか無いじゃん!
「俺の正体をバラさないね?」
「当たり前よ。」
「長く苦しい旅になるけど?」
「楽しみだわ。」
「お風呂の件と猫の件……。
許してくれる?」
「それは許さないわ。」
ノアはニコニコ笑ってそう言う。
あーその笑顔は卑怯だ。
「分かった!
ついて来いよ!」
「やったー!!」
はぁー……。
これから面倒くさくなりそうだけどこれも一興。
どうせ俺は生まれ直した命だ。
「じゃあミネルヴァの神格者に会いに行くか。
確か《アルカナタウン》だよな?」
「その街なら馬車が1番速いわ。
クエストのクリア報酬もある事だし、
早速向かいましょうよ!」
「今から!?
もう夜も遅いし明日でも…。」
「バカねぇ、
今の内に出ておけば明日の朝には着いてるわよ。」
ノアは俺の手を取ってギルドを飛び出す。
夜でも賑やかな出店には人がごった返しており、
目の前はまさにお祭り騒ぎだ。
人波を掻き分けて前へ。
何故だが俺は清々しい気分になっていた。
胸は高鳴り心は踊る。
仲間に秘密を打ち明けたからだろうか?
魔格者を一方的に倒したからだろうか?
いや違う。
…何だろうな。
何だか分からないけど……。
きっと……。
これから始まる旅が楽しみでしょうがないからだろうか?
ノア「し、下は見てないわよね…?」
セドナ「え?」
ノア「な、何でもない!!」
セドナ「えぇー?」
ノア「取り敢えず私のを見たんだからアンタのも見せなさいよっ!」
セドナ「いや!
それは意味わかんないって!」
ノア「うるさーい!!」




