国王の打診と、戦々恐々の参戦表明
お読みいただきありがとうございます、つむ教授です!
第7話『白亜の謁見と、震える最高権威』では、世界最高峰の鑑定眼を持つ教皇セルディウス様が、アルカの【魔力無限】と『召喚術』を見てガタガタと震え出すという、衝撃の瞬間をお届けしました。
第8話の舞台は、その謁見の直後です。あまりのバグ設定に冷や汗が止まらない教皇セルディウス。
しかし、この世界を揺るがす規格外の鑑定結果は、魔導通信によってインヴェルズ王国の国王の耳へと秘密裏に届いてしまい――!?
のんびり快適な領地経営を送りたいアルカですが、ヴァルデマール国王との謁見の場で、前世の知識を活かした驚きの「先読み」が炸裂します!
「ルートハーバー男爵……、いや、クラウスよ。お前たちは、一体どんな神童をこの世に生み出してしまったのだ……」
大聖堂の謁見の間。
全身をガタガタと激しく震いさせたまま、教皇セルディウス様は絞り出すような声でそう呟いた。
最高権威としての威厳は完全にどこかへ吹き飛んでおり、その額からは滝のような冷や汗が流れ落ちている。
「き、教皇様……! アルカのステータスは、そこまで恐ろしいものだったのですか……っ!?」
完全に胃を痛めたパパのクラウスが、青ざめた顔で悲鳴を上げる。
その隣で、ママのエレナも、いつもは賑やかな兄レオンと姉ソフィアも、見たこともない教皇様のビビリっぷりに完全に硬直していた。
「恐ろしいなどという生易しいものではない……! スペシャルスキルの二冠だけでも国家英雄レベルだというのに、宿した魔力が【無限】……だと!? さらに最高位の枠で『召喚術』まで引き当てておる……! これはかつて世界を救った伝説の『無限術士』すら遥かに凌駕する、神の領域のバグ……いや、奇跡の結晶じゃ!」
教皇様はハァハァと荒い息を吐きながら、私の手をそっと両手で包み込んだ。その手はまだ、小刻みに震えている。
「アルカよ、君の力はこの世界のバランスを根底から覆しかねん。……クラウス、インヴェルズ王国へ帰国したら、その足でそのまま王都へ向かい、ヴァルデマール国王の謁見を受けるのじゃ。教皇である私からも、魔導通信で緊急報告を入れておく。よいな、決してその力を悪用してはならんぞ……!」
真剣な眼差しで諭してくる教皇様に、私は
(いや、悪用するどころか、私はのんびり快適に領地経営をしたいだけなのよ……)
と、内心でツッコミを入れつつ、五歳の幼児らしく「はぁい」と無害そうな返事をしておいた。
◇
それから3日後。
私たちは教皇セルディウス様の言葉通り、エルディシア帝国から魔導飛行船でインヴェルズ王国へと帰国し、その足のまま王都にある巨大な城へとやってきていた。
案内された玉座の間。
そこに座っていたのは、広大な国土と高い経済力を持つ、インヴェルズ王国の絶対的な支配者――ヴァルデマール・フィン・インヴェルズ国王陛下だった。
圧倒的な覇気と富を象徴する高貴な佇まいは、まさに強者そのもの。
だが、そんなヴァルデマール国王は、私たちの前に広げられた教皇からの報告書を見つめながら、目に見えて顔を引きつらせていた。
「よくぞ戻った、ルートハーバー男爵。……そして、そこの小さな少女が、アルカ・ルートハーバーだな」「はっ、我が娘アルカにございます、国王陛下……!」
パパのクラウスが緊張で直立不動になる中、ヴァルデマール国王は手元の報告書に目を落とす。そこには、アルカの宿すスキルの本質が、教皇の手によって克明に記されていた。
『ヴァルデマール国王よ、早まるな。アルカ・ルートハーバーのスキルは、領内のあらゆる情報をステータス化し可視化する『統治統計』、農作物を豊作にする『風土豊盛』、配置しただけで竜のブレスですら割れない頑丈な結界を張る『守護結界』じゃ。これほどの圧倒的な内政・防衛の資質を持ち、魔力無限で『召喚術』を操る神童じゃ。もし、最初から国家が無理な戦いを押し付けて彼女に嫌われてしまえば、本来得られるはずだった世界最強の力を、この世界は永遠に失うことになるぞ』
この世界には7つの大陸があり、そのうちの6つの大陸で人類の『六大陸同盟』を結んでいる。
しかし現在、海を隔てた最北の大陸は恐るべき魔王が支配しており、王国もその脅威に頭を抱えていた。 同盟の決まりでは、一つの国に2つ以上の学園を作る義務があり、身分に関係なく誰もが学園に通うのが当たり前となっている。
そして、高い素質を持つ者には『素質の義務』という「学園卒業後に5年間、戦場で戦う義務」が課されている。
教皇からの強烈な念押し報告を読み、ヴァルデマール国王は
「無理に命令してこの神童に嫌われるわけにはいかない」
と、完全にアルカの扱いに戦々恐々としていた。
どう切り出すべきか、王冠の位置を何度も直しながら、国王はおずおずと口を開く。
「アルカ・ルートハーバーよ。お前もいずれは、我が国の学園へと通うことになる。……そこで、だ。学園を卒業した後の『素質の義務』についてだが、お前のその規格外の力を前に、無理に前線へ行けとは言わぬ。もし嫌なら、その……」
国王がへりくだるように言葉を濁した、その時だった。
5歳の幼児である私は、前世の頭で、瞬時に冷徹な「リスク計算」を完了させていた。
(ちょっと待って。領地経営をするうえで一番邪魔なものって、間違いなく『外部からの武力脅威』よね? どんなに私が内政を頑張って豊かなインフラを作ったところで、後から魔王軍に攻め込まれてぶち壊されたら、これまでの投資や努力がすべて水の泡じゃない。だったら――)
私はトコトコと一歩前へ出ると、ヴァルデマール国王をまっすぐに見つめた。ここで5歳児らしからぬ難しい言葉を使えば、一発で周囲に怪しまれてしまう。私は精一杯、幼児の可愛い声を意識して、たどたどしく首を傾げてみせた。
「あのね、へーか。アルカ、がっこーをおわったら、その『ぎむ?』にいきます。さいしょに、わるい魔王さまをめっ!ってやっつければ、あとからだれにもじゃまされないで、のんびりおうちで遊べますよね?」
「……は?」
玉座の間が、静まり返った。
パパもママも、兄レオンも姉ソフィアも、あまりにも物騒でスケールの大きすぎる5歳児のおねだりに顎を外して固まっている。
一番驚愕していたのは、ヴァルデマール国王だった。
教皇の報告書から「怒らせたら大変なことになる」と警戒していた神童が、まさかの自分から「のんびり暮らすために、邪魔な魔王を先に排除する」という、人類の歴史上最も合理的で恐ろしい参戦表明を、無邪気な笑顔でしてきたのだ。
「お,お前……、本気か……? 本当に、本当に我々とともに戦ってくれるのか……っ!?」
圧倒的な覇王であるはずのヴァルデマール国王が、ガタガタと震えながら、縋るような目で私を見つめてくる。
「うん! じゃまなひとを先にめっ!ってするのが、いちばん楽ちんです!」
私が幼児の愛らしい笑顔で無邪気に頷くと、国王は感激と恐怖が入り混じった複雑な顔で、深々と玉座に沈み込むのだった。
領地経営のために、まずは世界の大問題の魔王の排除を爆速で計画する5歳の元教授と、その圧倒的な無邪気(?)を前に「味方で良かった」と戦々恐々しながら震えが止まらない国王。
すれ違いまくりの心の歯車が、いま強烈に回り始めた。
第8話をお読みいただき、ありがとうございました!
教皇セルディウス様からの魔導通信による報告書を受け取り、完全に戦々恐々としていたインヴェルズ王国のヴァルデマール国王。
無理強いをして最強の神童に嫌われることだけは避けたいと胃を痛めていましたが、そんな大人の心配を余所に、5歳のアルカが前世の頭で弾き出したのは「のんびり暮らすために、先に邪魔な魔王をめっ!して排除する」という、あまりにも恐ろしくて合理的な幼児おねだりでした(笑)。
ヴァルデマール国王の「味方で良かった……!」というガタガタ震える感激っぷり、最高にすれ違っていて楽しいですね。
次回、第9話。無さに国王との謁見を終え、ようやく自分たちの家であるルートハーバー男爵領へと帰ってきたアルカ一行。美味しいものを食べてのんびり暮らしたいアルカの、新しい日常が始まります。
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次回もどうぞお楽しみに!




