第四十五話 画期的な図面と、進化する城壁
お読みいただきありがとうございます。つむ教授です!
第44話『深まる信頼と、動き出す子爵領の未来』では、家庭教師の先生方による容赦のない英才教育を難なく吸収し、さらなる成長を遂げたアルカ。夕方にはシェラやルークが集まり、冬の薪ビジネスで得た莫大な資金を元手にした、残り六割の開拓計画が動き出しました。
今回の第45話では、春からの本格的な開拓に伴う「新しい城壁の建設」にスポットが当たります。
できるところから着々と進められていた城壁建設ですが、現場を預かる職人のロイたちからはある構造上の懸念が持ち上がっていました。それを聞いたアルカは、前世の知識を総動員してさらさらとある驚きの図面を描き始めます。領地の防衛力を劇的に引き上げるための、アルカならではの画期的な内政のアイデアをどうぞお楽しみください!
ルートハーバー子爵邸の会議室。
夕方の穏やかな光が差し込む部屋で、私はシェラやルーク、探して領地の開発を支える職人たちと机を囲んでいた。
冬の薪ビジネスで得た莫大な資金を元手に、領地の残り六割の開拓がいよいよ始まったのだ。
「アルカ様、これが現在、南門と北門の側から並行して建設を進めている新しい外郭城壁の進捗状況です」
物資管理を担うルークが、机の上に現在開発中の領地地図と簡易的な図面を広げた。
そこへ、『燻銀の工房』の棟梁、ロイ・ベーカーが日に焼けた太い腕を組みながら、うーん、と唸り声を上げた。
「アルカ様、俺たち職人も石工の人たちに頼んで寝る間を惜しんで石を切り出してもらい、全力で壁を組んじゃいるんだが……ちょっとした懸念があるんだ」
「懸念、ですか? ロイさん」
私が小首を傾げて尋ねると、ロイは図面の一点を指差した。
「ああ。一般的な城壁ってのは、石やレンガを交互にガッチリと組み上げて作られている。互い違いに組むことで、横からの圧力や風雨には滅法強い頑丈な壁になるんだ。だが、ここは海を隔てて魔王大陸を見据える土地だろ?」
ロイの言葉に、木こりの親方であるジャックも深刻そうな顔で頷く。
「そうだ。もしも大型の魔獣や魔王軍の軍勢が、力任せに正面から何度も突撃してきた場合、交互に組んだだけの壁だと、最初の衝撃で入った小さな亀裂が全体に広がっちまう。そうなると、どれだけ厚く石を積んでいても、ある瞬間にガラガラと一気に瓦解しちまうリスクがあるんだ」
「なるほど……。正面からの強烈な単一の衝撃を、交互に組んだ壁だけで受け止めるのには限界がある、ということですね」
私はロイたちの言葉を聞きながら、前世の地球で学んだ建築工学や歴史の知識を脳内で検索した。
確かに、どれだけ硬い素材を交互に密着させて組んでも、強い衝撃が一点に加われば、その振動は壁全体へと伝わって破壊を引き起こしてしまう。
(素材の硬さだけで受けるんじゃなくて、構造で衝撃を『逃がす』仕組みがあればいいのよね。……うん、それなら、前世の地球でも使われていたあの強固な構造がぴったりだわ)
「ロイさん、ルーク、紙とペンを貸していただけますか?」
「お? ああ、構わねえが……」
ロイが不思議そうな顔をしながら差し出してくれた羊皮紙の上に、私はペンを走らせた。
まだペンに慣れていない、小さな五歳児の手だ。だが、私の頭脳は元大学教授。書かれる線は、極めて正確で迷いがない。
さらさらと、羊皮紙の上に二本の平行な線と、それらを繋ぐ細かな仕切りの図面が描かれてしていく。
「嬢ちゃん、これはいったい……?」
ロイが身を乗り出して図面を覗き込んできた。
「これは、城壁を『二重構造』にするための図面です」
「二重構造……壁を二枚並べるってことですか?」
ルークが不思議そうに尋ねる。私はコクンと頷き、図面を小さな指でトントンと叩いた。
「はい。今までの交互に組む城壁だと、外側が破られたらおしまいです。でも、この図面のように、外壁と内壁の間にあえて数メートルの『中空きの空間』を設けるんです」
外壁だけで衝撃を吸収し、間の空間で力を逃がす仕組みについて解説をすると、それを聞いたルークが顎に手を当てて目を輝かせた。
「なるほど。だったらアルカ様、その中空きの空間に『堀』を作ったらどうでしょうか? 水を張るか、深い溝にしておけば、万が一外壁を突き破ってきた魔獣の足止めができます。上からの迎撃もさらにやりやすくなるはずです」
「ルーク、それは素晴らしいアイデアです! ぜひそうしましょう!」
お勉強を頑張っているルークが、私の意図を汲んでさらに防衛力を高める提案をしてくれた。
「これなら、もしも、万が一外側の壁が破られて、魔獣や敵が中に侵入してきたとしても、彼らはその堀に足を取られて閉じ込められることになります。内壁の上から、閉じ込めた敵を弓や魔法で一方的に安全に迎撃できるんです。つまり、ただの防御壁ではなく、敵をハメ殺すための『罠』としても機能します」
私がほんわかと最高の笑顔を浮かべながら迎撃理論を説明すると、会議室の中が一瞬で静まり返った。
五歳の幼女が書いた、あまりにも緻密で機能的な「二重構造」の図面と、ルークの的確な補強案。
放置されたまま交互に組むだけでは防ぎきれない衝撃を構造で逃がし、さらに防衛線としても機能するという完璧な合理性。
「……信じられません。」
ルーク自身も自分の提案とアルカの図面の噛み合い方に驚き、シェラもまた、感動に瞳を揺らしていた。
「素晴らしいです、アルカ様. 外壁を少し薄くして二枚に分けるだけなら、消費する石材や木材の量は、単に分厚い壁を交互に組むのとさほど変わりません。つまり、同じコストで、倍以上の強度と圧倒的な迎撃性能を手に入れられるということです……!」
「交互に組むだけじゃ防げねえ衝撃を、空間で逃がすってのか……!? なんだこの図面は……おいおい、天才なんてレベルじゃねえぞ!」
建築のプロであるロイは、図面を凝視したままガタガタと腕を震わせ、今度は大興奮で顔を紅潮させた。
「嬢ちゃん! いや、アルカ様! この図面、俺に預けさせてくれ! 職人全員を集めて、今すぐこの二重構造の城壁に設計を切り替える! これなら魔王軍が何万頭の魔獣を連れて突撃してきても、一歩も通さねえ無敵の砦ができるぞ!」
「はい、ぜひお願いします、ロイさん!」
私がほんわか笑って頷くと、ロイとジャックは図面を宝物のように抱え、弾かれたように会議室を飛び出していった。
「これほど精緻な図面を瞬時に引かれるとは、アルカ様の知見にはいつも驚かされるばかりです」
ルークが感慨深げに手元の白紙を見つめると、シェラも誇らしげに頷いた。
「ええ、この設計なら領民の誰もが安心して暮らせる街になります。アルカ様の描く未来は、本当に無駄がありませんね」
「二人ともありがとうございます。みんなが安全に美味しくご飯を食べられるのが一番ですから!」
私はそう言って胸を張った。家庭教師の先生方から学ぶ日々、そして領地を豊かにするための開拓。私たちのルートハーバー領は、今日また一歩、確実な進化をした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
残り六割の開拓が本格化する中、今回はアルカちゃんの構造工学の知識が光る素晴らしい城壁の補強回でしたね。
一般的な交互に組み上げる城壁の弱点を見抜き、外壁と内壁の間に空間を設ける「二重構造」をその場で提案したアルカちゃん。さらにそこへ、お勉強を頑張っているルークが「堀」を組み合わせるという見事な連携を見せてくれました。ただ防ぐだけでなく、敵を安全にハメ殺す罠としても機能する合理的な設計図に、職人のロイさんが大興奮して現場へ飛び出していく姿は最高に爽快でした。
ルークやシェラとの信頼関係もさらに深まり、みんなが安全に美味しいご飯を食べられる環境が着々と整えられていく様子に胸が熱くなりますね!
「二重構造にルークの堀のアイデアが加わる連携が素晴らしい!」「職人のロイさんが図面を見て大興奮するシーンが気持ちいい!」と思ってくださった方は、ぜひ作品ページから【ブックマーク登録】や【評価の☆☆☆☆☆】をポチッと押して応援していただけると、つむ教授の執筆エネルギーがさらに無限(∞)になります!
次回もどうぞお楽しみに!




