第十二話 領地データの可視化と、幸運の風土加護
お読みいただきありがとうございます、つむ教授です!
第11話『神級の勘違いと、孤独を癒やす温きスープ』では、ママの温かい手作りスープと家族の無条件の愛に触れ、前世の孤独な心がじんわりと救われたアルカ。
第12話の舞台は、お腹いっぱい朝食を食べ終えた直後です。
可愛い相棒スノウを連れて、城館の美しい庭園へとトコトコお散歩に出たアルカは、いよいよのんびり快適な領地経営を始めるための「現状把握」に動き出します!
通常スキル『統治統計』がもたらす完璧なステータス画面。
そこで開発経済学のプロであるアルカが発見した、領地の致命的な「最初の課題」とは――!?
ママの作ってくれた温かい手作りスープと、町のパン屋さんで今朝買ったばかりの焼き立てパン。
それらをお腹いっぱい食べた私は、最高の満足感に包まれていた。
前世の一ノ瀬教授時代は、深夜の研究室で冷え切ったコンビニのサンドイッチを、生きるための燃料としてただ胃に流し込むだけの味気ない毎日だった。
それに比べたら、温かい食事を大切な家族と笑顔で囲む今の日常が、どれほど愛おしく幸せなことか。
私はその余韻に浸りながら、自室のベッドから私の膝の上へとやってきたスノウを連れて、城館の美しい庭園へとトコトコとお散歩に出た。
(……ふぅ。さて、美味しいごはんを食べて元気も出たことだし、ここからが本番ね)
私は庭園の芝生の上で足を止め、真っ白でふわふわなスノウを優しく撫でながら、前世の頭で冷静にこれからのタイムラインを計算する。
学園を卒業した後は、のんびり暮らすのに邪魔になる魔王を爆速で倒しに行く予定だけれど、学園に入学する七歳まではあと二年。
この二年間を誰にも邪魔されずに徹底的にのんびりと過ごすためには、まずはこのルートハーバー男爵領の環境を、より豊かで快適なものに整えなければならない。
(美味しいものを安定して食べて、のんびり暮らすためにも、まずはこの領地の現状把握が必要不可欠だわ。開発経済学の基本中の基本ね)
私は小さく息を吸い込み、頭の中で静かに念じて、あの通常スキルを発動させた。
(――統治統計――)
スキルを唱えた瞬間、私の意志や出力の調整とは一切関係なく、スキルが自動的にちょうどいい量の魔力を、ルートハーバー男爵領の全土へとぶわっと均一に広げていく。
昨夜、部屋の照明魔導具に魔力を流したときは加減が分からずに爆光を放って焦った私だが、この神から授かったスキルは、私の持つ【魔力無限】の膨大なエネルギーを完璧に制御してくれた。
領地全体に染み渡った私の魔力が、リアルタイムで現地の生情報をダイレクトに吸い上げていく。
すると、私の目の前の空間に、まるで自身の能力を確認するときのような半透明のステータス画面が浮かび上がった。
人口、財政、流通ルート、および土地の状況――。
領地全体のあらゆる情報が、グラフや数値となって寸分の狂いもなく完全に可視化されていくそのあまりにも洗練された仕組みに、元教授としての私の学者脳が静かに、視線の先の大画面を見つめながら激しい感動に打ち震えた。
(凄い……! まさに完璧な統治のためのステータス画面だわ。前世の地球にあったどんな統計データよりも、圧倒的に正確でリアルタイムな生の情報が一目で分かるなんて!)
私は興奮を抑えながら、目の前に表示された膨大な領内のデータを、開発経済学のプロの目で一つずつ冷静に分析していった。
だが、その詳細を深く読み解いていくにつれて、私の眉が自然とひそめられていく。
(……なるほど。のんびり快適なスローライフを送るには、思った以上に前途多難のようね。明確なボトルネックを発見してしまったわ)
ルートハーバー男爵領のステータスは、一見すると平和でのどかに見えたが、農業の項目に致命的な問題が隠されていたのだ。
(土壌の栄養不足による、農作物の収穫量の伸び悩み……。これが、この領地が抱える最初の、および最大の課題ね)
ステータス画面が示す現実は深刻だった。
ここの土地はもともと土壌に含まれる大地の栄養が著しく不足しており、どれだけ領民たちが汗水垂らして農作業に励んでも、作物がこれ以上大きく育たない限界を迎えていたのだ。
食糧生産の伸び悩みは、経済の発展を根底から妨げる最大の障害だ。どんなに豊かなインフラを構想したところで、胃袋を満たす基盤が脆弱では、のんびり快適な暮らしなど夢のまた夢。
(理論が分かっても、五歳児の私には土の成分を劇的に変える物理的な手段がないのよね)
筋力不足の幼児の肉体では、開墾すら満足にできない。
私がそんな致命的な肉体のボトルネックに少しだけ頭を抱えた、その時だった。
私の膝の上から、トコトコと歩いて私の小さな肩へと飛び移ってきた真っ白な影があった。
「……きゅい!」
スノウが、私の頬にふわふわな体をすりすりと寄せながら、励ますように可愛らしく鳴いたのだ。
その小さな黒豆のような瞳と視線が交わった瞬間、私の脳内に、この子の持つあの規格外なステータスが蘇った。
(――個体能力:【風土加護】――)
(――スキル:【天候操作】――)
スノウがそばにいるだけで、周囲の農作物の品質が勝手に跳ね上がるという、とんでもない内政チート能力。
(あぁ、そうだったわ。私には、私の無限の魔力完璧に制御して生まれてくれた、この可愛い相棒がいたのよね)
私は肩の上のスノウをそっと抱き上げると、その真っ白な頭を優しく撫でながら、不敵な笑みを浮かべた。
私の持つ、領地全体の成長率を底上げする常時発動スキル『風土豊盛』。
自由自在に、スノウの持つ『風土加護』と『天候操作』。
(この二つのバグ能力を、開発経済学の理論に基づいて完璧に連動させれば……この土壌の栄養不足なんて、一瞬でひっくり返せるはずだわ)
最初の内政改革の展望が、私の頭の中で完璧に組み上がった。
私はワクワクする胸の高鳴りを抑えながら、目の前に広がる男爵領の豊かな大地を見つめ、静かに最初の一歩を踏み出すのだった。
第12話をお読みいただき、ありがとうございました!
お腹いっぱいの満足感に浸りながら、いよいよ本格的な領地経営の第一歩へと動き出したアルカ。
通常スキル『統治統計』を唱えただけで、無限の魔力が領地全体へと完璧に広がり、あらゆるデータがステータス画面として一目で可視化される仕組みは本当にチート級ですね。
しかし、開発経済学の目で分析した結果、「土壌の栄養不足による収穫量の伸び悩み」という、深刻なボトルネックが見つかってしまいました。
幼児のフィジカルでは開墾すらできませんが、アルカには【魔力無限】を極限まで吸い上げて生まれた可愛い相棒スノウがいます!
学園卒業後は「のんびり暮らす邪魔になるから」という超合理的な理由で爆速での魔王討伐を宣言しているアルカですが、入学までのこの二年間、自身の『風土豊盛』とスノウの持つ【風土加護】という2つのバグ能力をプロの経済学の理論で連動させたとき、一体どんな奇跡の内政改革が起きるのか――!?
次回、第13話。
アルカとスノウが最初に行う、規格外の「土壌大改革イベント」がいよいよ幕を開けます!
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次回もどうぞお楽しみに!




