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猿芝居

わしの名はムトウジロウ90才じゃ。

頭も体もしっかりしておる。

死刑囚として50年も独房に閉じ込められておるがバリバリ元気じゃ。

女だってまだまだ抱けるわい。

一家6人を皆殺しにした凶悪犯としてわしは捕まった。

裁判で証拠がないのに死刑にされてしまったんじゃ。

拷問がきつすぎてついつい自白してしもうたが裁判では一貫して無実を訴えた。

わしを支援してくれる団体もおる。

冤罪救援支援センターじゃ。

ありがたいことにいろんな差し入れもしてくれる。

法務大臣も冤罪の可能性のある死刑囚を死刑にはできん。

わしは自由こそないが悠々自適に刑務所で暮らしていた。

運動できるし食事も医療も無料じゃ。

規則正しい生活で健康も保てる。働く必要もない。

漫画も映画も観れるしお菓子の差し入れも食べられる。

刑務官も冤罪の老いぼれた死刑囚にはやさちい。

まあほんとはやっとるんじゃがな。

わしは金欲しさに勤めていた印刷会社社長の豪邸に乗り込み一家6人を殺した。

元力士のわしはすもうで体を鍛えておったから素人などひとひねりよ。

妻は美人で小学生の姉妹は美少女じゃったからレイプしてやった。興奮したのぉ。

犯行に使ったナイフと返り血を浴びた服は川に捨てて金は豪邸の裏山に埋めて隠した。

木の頂上にバツの目印をつけておる。

木登りはサル並みに得意じゃ。

事件後すぐに大金持っておったら怪しいからの。

事件が迷宮入りしてほとぼりが覚めてからちょっとずつ隠した金を使おうと考えておった。

事件の1週間後に金に困っていたわしが怪しいと疑われて捕まる。

証拠がないからすぐ釈放されると思ったがこのザマじゃ。

疑わしきは罰せずじゃろ。ばかちんが。

冤罪を信じてくれておる者には悪いが、わしは骨の髄まで悪人じゃ。

まったく反省しておらんし、枕元に毎晩、被害者たちが立ってもへっちゃらじゃ。

殺人犯の中には被害者の霊に悩まされて隠していた殺人を自供したり自殺するものもおるようじゃがわしはそんなことはせん。

殺しもレイプも愉快痛快アドベンチャーで気持ちえがった。

もし捕まっておらんかったらわしゃ快楽殺人鬼になっておったじゃろうなぁ。

6人殺したあとは便意をもよおして犯行現場の土間にうんこしてしまう。

あれがもし片付けられず保存されとったら現代の技術ではDNA鑑定されて一発アウトじゃったな。

運が良かったわい。うんこだけに。がはは。

精液もあの時代はDNA鑑定技術がなく冷凍保存しておらん。これもラッキーじゃ。

わしはほんとにツイておる。悪魔が味方しておるな。

純心で誠実な弁護士によると再審公判で冤罪判決になり一年以内に釈放される可能性も高まってきておる。

まさか生きておる間にふたたびシャバの土を踏めるとはのぉ。

金を掘り起こしてやわ肌の女も毎晩抱けるかもしれんし楽しみじゃ。

うっしっしっ。

きょうも気持ちよく目覚めた。

朝食を食べて毎日の日課である「わしは犯人じゃない!」という作文を文字ぎっしりで1枚作成する。こういう積み重ねもだいじじゃ。信じるバカもおるからの。

作文を書き終わり独房で差し入れのエロ本を読んでちんこをいじっておると刑務官に声をかけられる。

「ムトウさん面会ですよ」

「はて?弁護士さんかの」

面会の予定は聞いてなかった。じゃがまあいい。

たまには他人と世間話せんと頭が鈍るわい。

鼻歌を歌いながら長い廊下を歩く。

ほかの独房の死刑囚は死の恐怖で毎晩、寝小便する臆病もんもおるそうじゃ。

ぜったいに死刑執行されないわしはぐっすりじゃがな。

悪夢を見て叫ぶ死刑囚の悲鳴に起こされることもあるが笑って許してやる。

他人の不幸は蜜の味じゃ。

他人の死刑執行を聞いた時は食欲が止まらん。

そいつが味わった恐怖はいかほどのものじゃったろうか。

あーこわいこわい。

後日、刑務官が教えてくれた最後の様子がこれまたけっさくじゃ。

失禁したり暴れたり悪あがきしてみっともない。

わしら死刑囚は神父や和尚が勤める教誨師きょうかいしのありがたい話を教誨堂に集まって聞くことがある。

教誨師の前ではあんなに紳士で立派じゃったのに死刑直前でビビって暴れるとか笑いが止まらんわい。

この世で最高の笑いじゃ。

教誨堂で話した時は勇敢な態度じゃった死刑囚がいざ死刑執行になると腰を抜かして刑務官に両脇を抱えられて運ばれ廊下にしょんべんのあとがついておった話なんざ腹が引きちぎれるほど笑った。

しょんべんのじゅうたんじゃ。まじでウケるわい。

同じ死刑囚でも安全が保障されておるわしはほかの死刑囚に対する優越感を毎日味わえる。

死刑は最高のエンタメなんよなぁ。

刑務官がドアを開けてくれる。

面会室には探偵姿の美少女が座っておった。むひょー。

生身の美少女など50年ぶりじゃ。むしゃぶりつきたい!

膨らみかけた胸がたまらぬ。

おもわずガチガチにぼっきしてしまった。

この場でシコりたいががまんがまん。

部屋に戻ったら速攻じゃ。

美少女の痴態を想像して鼻の下が伸びる。鼻血が出そうじゃ。

となりにはむさくるしい大柄なデカが座っておる。

ゴリラそっくりじゃ。バナナが好物にちがいない。

こいつはわしが殺した社長一家の親戚らしくしつこく面会に来る。

「おいムトウ。きさまほんとはやったんだろ?」

腕組みしたデカが野太い声で問うてくる。

100万回聞いた質問じゃ。

皆殺しにした社長一家、凶器の証拠隠滅、裏山に埋めた大金、木に彫った目印、いまでもすべて鮮明に蘇る。

「天地神明に誓ってやっとらん。わしは死刑なんぞ怖くないがわしの妻や子や孫が死刑囚の身内じゃと世間からののしられるのがたまらなく悔しい。わしは命ある限り冤罪を訴え続けるつもりじゃ」

わしは美少女の目をまっすぐ見つめて答えた。

ちょっとカッコつけすぎたかの。わしに惚れたかえ?

「このひとやってます」

美少女はかわいい声でつぶやく。

ん?いまなんと?

「了解だ。ご協力感謝する」

「どういたしまして」

美少女はデカになにか耳打ちして部屋を出て行った。

デカはすばやくスマホを操作してだれかに連絡しておる。

わしは目に焼き付けた美少女の小さく引き締まった尻を思い返した。

ガラス越しでもしっかり色気を感じたのぉ。

あの年頃が1番フェロモンがでるな。むわっとしておる。

感慨にふけっておると邪魔が入る。

「ロリコンじじい。きさまはもうすぐ13階段を登る。心の準備をしておけ」

なにをいうとるんじゃこのくそがきゃぁ血迷うたか。

「良心的な法務大臣は証拠もないのに死刑執行命令書の判を押せん」

「いや、きさまはやってる。それが証明された」

「いつ証明されたんじゃ?」

「ついさっきだ。あの子はひとの心が読める」

「ばかじゃなぁ。そんな力などありゃーせん」

「彼女は世界中を飛び回り難事件や迷宮入り事件を解決している。警察は彼女の言うことを盲目的に信じたわけじゃない。ちゃんと裏付けをとって彼女のいうことが真実だと判明してから犯人を捕まえている。彼女の力が本物であることはすでに100%完璧に証明されているんだよ。法務大臣も安心してきさまの死刑執行命令書にサインするだろう」

「ふん。そんなわけなかろう」

このデカはわしを怖がらせて眠れなくするためにハッタリをいうておるんじゃ。

そうにちがいない。

ストレスで寿命を縮めるつもりか?その手にはのらんぞ。

面会室に刑務官が入ってくる。

「ムトウ。部屋に戻るぞ」

「はいな」

わしは立ち上がり面会室を出る。

胸さわぎを覚えた。刑務官はいつも親しみを込めて「ムトウさん」とわしのことを呼ぶ。

それがさっき呼び捨てじゃった。

違和感はほかにもある。

部屋にもどるのに来た道とちがう道を歩いておる。

「遠回りじゃな」

「・・・・・・・」

沈黙を聞いてわしは悟った。もう永遠にもといた部屋には戻れぬと。

背筋が凍りつき唇が震え奥歯がカチカチと鳴る。

腰を抜かしてしょんべんをもらしてしもうた。

「いやじゃいやじゃ死刑はいやじゃ!こんな老人をころすんかー!」

暴れておると曲がり角に隠れておった大勢の刑務官が駆けつけてくる。

すごい力で押さえつけてくるから非力な老人の力ではとても太刀打ちできん。

あれよあれよというまにわしは目隠しされて後ろ手を縛られむりやり13階段をのぼらされる。

テーブルや椅子をぶん投げて大暴れして柱にしがみついて抵抗したせいで最後の晩餐も教誨師との会話も遺言も祈りもぜんぶすっ飛ばされてしもうた。

暗闇の中で首に縄をかけられるのがわかる。

「わしは無実じゃー!証拠をだせーーー!おぬしらぜんいん呪い殺してやるぞーー!」

刑務官がため息をつく。

「ヤマオカ刑事より手紙だ。執行直前に読めと」

「なんじゃー!ゆっくりよめー!」

少しでも時間を稼いで1秒でも長く生きねば。

1秒後に死刑執行取りやめの知らせが法務省から届くかもしれん。

希望を捨てるわけにはいかん!

刑務官は手紙を読む。

「全国の警察官を総動員してきさまが裏山に埋めた金はかならず見つける。

木に刻んだ目印があればたやすいことだ。

紙幣からきさまの指紋が出るだろう。それがきさまの望む証拠だ。

50年にも渡る猿芝居ご苦労さん。

6人も殺しておいて自分が死ぬのは怖いのか?

きさまのぶざまな様子はあとで聞いてたっぷりと笑わせてもらう。

やさしかった社長夫婦と幼い姉妹を強姦して殺したきさまを一瞬の苦しみで殺すのはほんとうに残念だ。もし冤罪で釈放されたらオレが壮絶な苦痛を長時間味わせて殺すはずだった。拷問より絞首刑のほうがはるかにマシだぞ。よかったなジロー。地獄でたっぷり苦しめよ」

手紙の内容に衝撃を受け言葉を失う。

なぜじゃ?

なぜわしが裏山に金を埋めたことを知っておる?

目印のことまで ・・・

だれにも話しておらん秘密じゃ。

心を読みでもせん限りわかるはずがない。

あの美少女が伝えたのか。あの時、なにか耳打ちしておった。

今朝はあんなに楽しかったのに一瞬で天国から地獄じゃ。

あの美少女は死神じゃったんじゃな。

大金を手にして浮かれて素手で触ったのは人生最大の失敗じゃった。

指紋のついた紙幣は動かぬ証拠じゃ。

わしの冤罪を心の底から信じておった世界中の支持者から総スカンを喰らう未来が視える。

数年に一度、手紙をくれる妻子もガッカリするじゃろう。

悔しく恥ずかしく情けない。真相は墓場まで持って行きたかったのぉ。

絶望にくるまれた瞬間、足元が消えた。


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