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バロック!!  作者: 羊蔵
五章 君は愛のチェリー
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29/39

1 やきう

 ◎


「起きろウの字! ポルター……ポルター何とかだー!」

 尋常じゃない揺れと悪魔みたいな爆笑で目が覚めた。

 〈メモリアルパークよしふみ〉が僕のベッドをガタガタ揺すぶっていた。たぶん、ポルターガイストって言いたいんだと思う。

「きさま……どうやって部屋へ入った……」

「オバケに鍵なんて通じるわけないだろ。ほら早く早く、お前は朝のうちに風呂掃除だってよ。それと、まん太郎にパウダー持って来させろ。イチ姉におにぎり作ってもらうからな!」

「ロッカさんのおにぎりがいい……」

 時刻はまだ朝の六時半時だ。しかも本来なら休日のはずなのに。だが今日だけはサボるわけにはいかなかった。

「うおー忙しい! まん太郎ー! ドアをあっけろー! ドアを――もう開けんでいい!」

 よしふみは飛び出して行くと、まんのう町のドアをガチャガチャやった後、エクトプラズムで偽の鍵を作った。ああやって僕の所へ侵入したのか。ちなみにまん太郎はまんのう町のことでイチ姉は一番霊場のことだ。

「うおおおおっ何だお前!」

「起きろぉ! 今日は忙しいだろうが!」

「うるせえ!」

 よしふみが張り切るのには理由がある。

 僕らは今日、あの聖体回収作戦以来の大きな節目を迎えようとしている。

「野球だーッ!」

 そう、球技大会である。

 よしふみは、この日のために買った縞柄のユニフォームを着て、グラウンドへ飛び出して行った。


「当てろー! 三年をぶっ殺せー!」

「いつも威張り散らしやがってよォー!」

「腋が臭ーんだよカレー粉にまみれて寝てんのかあ!」

「今言ったヤツら顔おぼえたからな一年!」

 球技大会はいたって和やかに進行した。

「オバケの魂……充電完了!」

 よしふみは張りきって魔球でバットを粉砕したり、透明ランナー制とかいう独自ルールを提案してなぜか脱ぎだしたりとやりたい放題だ。

「よしふみぃいいいい!」

 そのたび自認姉の一番霊場がフォローに駆け回っていた。

 行事は和気あいあいと進んでいるかに見えた。


 試合のない時間は自由に行動できる。

 二年のまんのう町は別チームだが、僕らは一緒に行動していた。

 試合を横目に、僕の意識は教員たちへ向いている。

 グラウンドの隅で語らう御輿みこしとロッカさんを発見してしまった。

 ロッカさんはつま先立って、背の高い御輿の肩へよじ登るみたいにして、何ごとかを耳打ちしている。もう一方の手は先生の脇腹へ添えられていた。

 御輿は多分、くすぐったいよ、みたいなことをキザな感じで言い、悪戯したロッカさんは含み笑いをする。

「ああいうのはどういうんですかねえ!」

 思わず声を上げた。

「そりゃデキてんだろ」

 通りすがりの一番霊場が気の狂ったことを言う。前から思ってたがこの人はどうかしてるんじゃないかな? 正常な判断が出来ていない。

「いや、それがあんた。こないだの作戦の時、ほら。二人だけで遠征したじゃん。絶対あんときだろうと私は思うんだよね」

「いいの⁉」

 一番霊場が狂っているので、僕はまんのう町へも訊ねる。

「ロッカも自分なりに考えてるだろ。何かあったとしても責任は大人の方にある。どうなっても御輿の自業自得だ」

「だめだ……お前も頭がどうかしてるんだ」

「何だとこの野郎」

「だいたい……ほらあ? 責任とか以前の話じゃないか!」

「ロッカもあれでプライド高いし、考えた末のことだと思うよ? 尊重してやろうや、あいつはもう子供じゃないんだ」

 と一番霊場。

「子供じゃないってどういう意味⁉」

「声がでけえなあ」

 僕はちょっと前、まんのう町から聞いたロッカさんに関する、謎めいた忠告を思い出す。

 ロッカはやめとけ。それに特記事項がどうとか。

 特記事項について知っているのは、学長とまんのう町だけなのだとか。

 僕にはやめとけとか言ったのに御輿ならいいのか?

 まんのう町を厳しく問いただしたかったが、特記事項がどうとかだし、一番のいるところでは話してくれないだろう。

 というより、やっぱりそういう話ではなくないか? という気持ちの方が強かった。

「いやダメじゃないか? 普通に考えて? 教師がさあ! だめだよ⁉」

「落ち着きなよ~今日はそんなことではしゃぐ日じゃないだろ」

 一番霊場が話を打ち切る。そうして彼女は真剣な目をした。

 見るとまんのう町も表情を引き締めていた。

 もちろん、僕だってわかってる。

 僕らは水筒のコーヒーを飲んだ。

 朝、管理人のシゲさんに淹れてもらった本格コーヒーだ。

 シゲさんは、今日球技大会の裏で何が起こるのか知らないはずである。教員たちもそうだ。

 今日、これまでにない極秘作戦が敢行される。

 その作戦の内容を知っているのは学長と生徒たちだけなのだ。


 ◎


 あの時。エクトプラズムの胸像を見ると、学長は裏切者への方針をその場で決定した。

「裏切りモンとは俺が接触する。お前らはこのことを誰にも話すな。裏切者ユダは一人じゃねえからだ」

 僕とまんのう町は黙って聞いた。

「先の作戦――〈ルーシーの欠片〉奪取ではいくつかの部隊が空振りに終わった。俺らの作戦を先回りしたやつがいるってことだ。それも複数な」

「そもそも誤報だった場合もあるだろ」

 とまんのう町。

「いや。作戦の日を境に怪異報告が途絶えている。何者かが〈欠片〉を持ち去ったから怪異が解消されたってことだ」

「……あの作戦を知ってたのはシコク支部の人間だけのはずだろ。俺たちの中にスパイがいるってことになる。だとしたら学園内に十体もの人獣が――」

「いいや。十体全員がスパイで構成されてるってワケは無ぇ。たぶん……人獣のうち半分以下……せいぜい四人までじゃねえかな。スパイなんてやらされてるのは」

「根拠は?」

「そりゃお前、スパイっつうのは雇い主からも信頼されないもんだぜ。人獣には貴重な〈ルーシーの欠片〉を使うんだ。スパイばっかで構成しねえだろ」

「もし四人より多かったらどうする」

「数が多いぶん見つけやすくなるな」

 当たり前のようにそう言い放った。

「とはいえおそらく、ユダ――スパイはそんなにはいねえ。それも十人の人獣のなかじゃ下っ端な方だろうな。幹部とかならむしろ良かったんだがな」

 奇妙に悲しそうな顔を、彼はした。

 まんのう町が纏める。

「つまり学園内にスパイが最大四人いるという理解でいいんだな?」

「ああ。まあ、アリバイ工作もいるだろうし、役割分担は必要だ。何より二人じゃ共謀して裏切る事がある。お互い監視させる意味でも三人以上、人獣っていう不安定な存在であることを考慮して、四人かな。それはそれで管理する側も大変そうだが」

「しかし、首謀者はそもそもどうやってユダを勧誘したんだ? 何をエサに裏切らせた? あんたの話が正しければ四人もの教会関係者を転ばせた事になる」

「そこんとこまでは分からんさ。たぶん、裏切りの動機に関わる部分だろうしな」

「直接訊いてみるしかないってことか」

 僕らはユダの胸像を眺めた。なぜ僕らを裏切った? そして残る三人の仲間は誰なのか。

 学長は最初の言葉を繰り返した。

「ユダとは俺が話す。説得できりゃあ御の字だ」

「説得だと」

 まんのう町が声に怒りを滲ませた。

「説得だ。それも早いうちにな。首謀者じゃないってことは『口封じ』される危険もあるってことだ。そうなる前に保護する必要があるからな」

「保護だと?」まんのう町の声がさらに尖る。「それは敵組織の情報を尋問するためか? それともただの甘ったれた慈悲か? すでに部外者が一人殺されてるんだぜ。いやウルタールの学校のヤツらを含めて五人だ」

「――おい、俺の慈悲にな『甘ったれた慈悲』なんてもんは存在しねえんだよ。常に命を張る覚悟だ」

 学長はまんのう町の視線を真っ直ぐに受けとめた。

 しばらく睨み合いが続いた。

「仲間に何かあったら俺はユダを殺すぜ」

 まんのう町は条件付きで学長の作戦を受け入れた。そして拳を振り下ろしユダの胸像を粉々に砕いた。


 そのユダとの接触作戦が、球技大会の今日なのだった。

 僕らはスパイの存在に気づいた。その事実を悟られてはいけない。

 球技大会のあいだは自由に行動できる。

 学長が裏でユダと接触するあいだ、僕らは学校行事を装いつつ警戒態勢を敷いておく。そういう作戦だ。残り三人の裏切者が動くかもしれないからだ。

 もし、交渉が失敗して戦いになっても、生徒には被害が出ないよう準備していた。

 そういうわけで僕らは大人たちの動きに注意して球技大会を進める。

 ユダは教員の中にいる、というのが学長の推測だった。


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