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バロック!!  作者: 羊蔵
二章 ファイティングビーバー
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15/39

8 まんのうスペシャル


 ◎


 目覚めると、談話室のソファに寝かされていた。

 気を失っている間に運ばれたらしい。

 隣にある食堂の方から皆の騒がしい声が聞こえる。

 どうやら夕食時まで睡っていたらしい。体は治療済みで、どこも痛くなかった。


 猫の鳴き声。サバトラとブチが隣に丸まっていた。

「あ。起きた」食堂からロッカさんが様子を見に来た。「もうご飯だよ」

「シゲさんカレーできたぞー。パリパリサラダもなー」

 サラダを持った一番霊場も顔を覗かせる。

「やったあ」

 ロッカさんがソファの上で跳ねた。かわいい。

 賑やかな食事が始まった。

 まんのう町や、僕が話したことのない寮生もいる。

「おらー。野菜も食えよ。今から姉ちゃんが『まんのうパウダー』かけて行く」

「まんのうパウダーだ!」

「うおおおっブロッコリーにかけてくれえ!」

「最高のパウダーだぜ。おにぎりにかけても最高だしな!」

 何か判らないけれど盛り上がっている。

 僕は厭な予感がした。ロッカさんを見る。

「うん。そうだよ。あれがおにぎりに使った秘密のパウダー。ここの生徒はみんなまんのう町くん特製の『まんのうパウダー』が大好きなんだよ」

 僕が感動したロッカさんの手作り料理の秘密がこれらしい。そうなんだ。いいけど、別に。手作りには違いないし。

「ウルタールは怪我人だから私が食べさせてあげるね。それともパウダー嫌い?」

「パウダー。好き。怪我、痛い」

 カタコトで答えている僕のおでこを、ロッカさんが撫でて来た。

「眉間の皺、消えたね」彼女はそう言って頬笑んだ。「ここに来たばっかりの子ってみんなそうだから」

 僕は自分の眉間をさわり、それからみんなを見渡した。霧の中で何かを失い。歪みを得た子供たち。彼女らも、なくしたものの白昼夢を見て眠れなかったのだろうか。

「みんなで故郷を取り戻そうね」

 ロッカさんが言った。

 食べ終えると、僕はまたソファへ横になった。

「寝るんならシャワー浴びて自分の部屋で寝ろよー」

 一番霊場のお姉さんぶる声が聞こえる。

 思えば、僕の人生で、こんな夕食のやりとりはかつてなかった。

 服の中に猫たちがもぐりこんでくる。

 新しい猫。キンモクセイとは違う猫。でも今はとりあえずこの温もりを享受しようと思う。

 食事も、睡るのも、ほんとは独りがいい。キンモクセイがいないから。でも今日は疲れすぎている。それに、ここにいる子供達も、みんな孤独な子供達だから。


 ◎


 翌日のことだ。

 まんのう町と僕は学長から呼び出しを受けた。

 指定された場所。元滑走路だった所の果ての岸壁へ向かった。

「テストに合格したしな。お前さんに必要な情報はあたえとかねえとな」

 ジウス学長は岸壁から、はるか足の下の水面へ釣り糸を垂れていた。

 風が強い。周囲に建物はなく、正面はもちろん海。誰にも話を聞かれる心配のない場所だった。

「まず、どこから話すか……。まあ、お前さんが最初に知りたいのはニャンさんの事だろうな」

 ジウス学長はこう切り出した。

「ニャンさんを攫ったやつらのことは大まかだかが目星はつく。おそらく〈深淵派〉だろうよ」

 と彼は言った。「〈深淵の獣〉を信奉する異端どもさ」

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