第一章 雨夜の鬼 第九話「黄泉返り」
夜の葛籠村に、冷たい風が吹き抜ける。
村の広場では、トウマとレイカが結界の準備を進めていた。
大量の御札が地面へ並べられ、淡い白光を放っている。
「この村、完全に黄泉の気配に侵食されてる……」
レイカが険しい表情で呟く。
昼間の調査によって、村の地下から巨大な祭壇跡が発見された。
そこには古い文献が残されていた。
数十年前。
葛籠村は大飢饉に襲われていた。
食料は尽き、多くの村人が餓死寸前まで追い込まれていたという。
そこで村人達は禁忌へ手を染めた。
“黄泉門”を開き、生贄を捧げることで、生存を願ったのだ。
その代償として、多くの命が闇へ消えた。
「ふざけた話だ……」
トウマが低く吐き捨てる。
その時だった。
カラン……。
村の奥で鈴の音が鳴った。
直後。
闇の中から、人影が現れる。
ボロボロの着物。
青白い肌。
濁った瞳。
死者達だった。
「来るぞ!」
トウマが叫ぶ。
死者達はゆっくりと村へ歩き始める。
レイカは二丁拳銃を抜き、霊弾を連射した。
銃声と共に死者の身体が吹き飛ぶ。
しかし――。
倒れたはずの死者が、再び立ち上がった。
「再生してる!?」
レイカが舌打ちする。
トウマは剣へ呪力を流し込む。
青白い霊光が刀身を包み込んだ。
「下がれ!」
一閃。
霊力を帯びた斬撃が死者達をまとめて薙ぎ払う。
だが、数が多すぎた。
村中から死者が現れ始める。
老人。
女。
子供。
全員が虚ろな瞳で歩いてくる。
その姿は、生きている者への怨念そのものだった。
突然。
村の中央で轟音が響く。
地面が激しく揺れ始めた。
「……まさか!」
トウマ達が視線を向ける。
そこには村長が立っていた。
その手には、血で染まった古い鍵が握られている。
「これで……これで、また村は救われる……!」
狂気に満ちた目で、村長は叫んだ。
次の瞬間。
地面に巨大な亀裂が走る。
黒い霧が噴き出し、空気が凍りついた。
地下深くから、巨大な門が姿を現す。
無数の呪符に覆われた異形の門。
黄泉門だった。
門の隙間から、無数の亡者の手が伸び始める。
そして。
ゆっくりと門が開いた。




