第一章 雨夜の鬼 第十話「白い少女」
黄泉門が開いた瞬間、村全体の空気が変わった。
冷気。
死臭。
そして、圧倒的な怨気。
レイカは思わず顔をしかめる。
「最悪ね……」
門の奥は、真っ黒な闇だった。
しかし、その暗闇の中から、ゆっくりと一人の少女が姿を現す。
白いワンピース。
長い黒髪。
感情の消えた瞳。
少女は静かに地面へ降り立つ。
その瞬間。
周囲の亡者達が、一斉に跪いた。
まるで王を迎えるように。
「……おかえりなさい」
少女が小さく呟く。
その声を聞いた瞬間、トウマの表情が凍りついた。
「……ユズハ?」
それは、幼い頃に失った妹の姿だった。
幼少期の記憶。
病室。
小さな手。
涙。
封じ込めていた記憶が脳裏に蘇る。
トウマは剣を下ろしたまま動けなくなる。
しかしレイカは即座に銃を向けた。
「あれは違う!」
レイカの声が響く。
「惑わされるな、トウマ!」
少女の周囲で、空間が歪み始める。
黒い霧が渦を巻き、無数の霊体が浮かび上がった。
亡者達が苦しむように呻き声を上げる。
少女はゆっくりと首を傾げた。
「どうして……また、置いていくの?」
その言葉に、トウマの呼吸が止まる。
次の瞬間。
地面が爆発した。
巨大な肉塊が地中から出現する。
無数の腕。
大量の人間の顔。
歪に脈打つ赤い心臓。
巨大怨霊だった。
「ガガガガッ!!」
怪物の咆哮が村を揺らす。
レイカが即座に発砲。
霊弾が炸裂するが、怪物は止まらない。
巨大な腕が振り下ろされ、家屋が吹き飛ぶ。
「トウマ!!」
レイカが叫ぶ。
しかしトウマは、白い少女から目を離せなかった。
少女は静かに微笑む。
そして呟いた。




