第一章 雨夜の鬼 第八話「穢れの村」
山道を走る古びたバスの窓から、レイカは外を見つめていた。
空は重く曇り、遠くの山々は霧に覆われている。
「嫌な気配ね……」
隣に座るトウマは腕を組んだまま目を閉じていた。
二人が向かっているのは、山奥に存在する小さな寒村――葛籠村。
数日前から奇妙な怪異が相次いでいるという。
夜になると、誰もいないはずの山道から子供の笑い声が聞こえる。
井戸から白い腕が伸びる。
家畜が消える。
そして昨日、村人が一人、忽然と姿を消した。
陰陽庁からの正式依頼を受け、トウマ達は調査に向かっていた。
村へ到着すると、異様な静けさが二人を包み込む。
人の気配はある。
だが、誰も目を合わせようとしない。
村人達は怯えた顔で戸を閉め、まるで“余計なことを聞くな”と言わんばかりだった。
「……変だな」
トウマが呟く。
その時だった。
遠くから、かすかに子供の歌声が聞こえた。
レイカが銃に手をかける。
「来るわよ」
二人が声の方へ向かうと、古びた井戸が現れた。
井戸の周囲には大量の御札が貼られている。
しかし、そのほとんどが破れていた。
トウマは地面に膝をつき、札を拾い上げる。
「かなり古い術式だ……しかも、これは封印術」
突然。
ギシ……ギシ……。
井戸の奥から、何かが這い上がる音が響いた。
次の瞬間。
真っ白な腕が、井戸の縁へゆっくりと伸びる。
レイカが即座に発砲。
霊弾が炸裂し、白い腕は闇の中へ落下した。
だが、井戸の底からは無数の声が響き始める。
『カエシテ……』
『カエシテ……』
『オロシテ……』
村全体を包む空気が一変した。
トウマは静かに剣へ手をかける。
「……封印が、内側から破られてる」
その言葉と同時に。
井戸の底から、無数の白い手が一斉に這い上がった。




