第一章 雨夜の鬼 第四話 「黄泉還り」
『神代トウマ』
『神代トウマ』
『神代トウマ』
無数の鬼が、同じ名前を繰り返す。
地下空間が震えていた。
壁。
天井。
線路。
全てが黒い怨気に侵食されていく。
「……なんだよ、これ」
トウマは息を呑む。
異常だった。
普通の鬼に、ここまでの統率はない。
まるで、一つの意思で動いているようだった。
先ほどの少女の鬼が、ゆっくり笑う。
「黄泉還りが始まる」
「黄泉還り……?」
「死んだものが、戻ってくるの」
その瞬間。
鬼たちの奥。
暗闇の中に、一人の少女が見えた。
白いワンピース。
長い黒髪。
小柄な身体。
見間違えるはずがない。
「……ユズハ?」
少女が、ゆっくり顔を上げる。
涙を浮かべた瞳。
震える唇。
『……お兄ちゃん』
トウマの思考が止まった。
本物だった。
声も。
表情も。
仕草も。
全部、記憶の中のユズハと同じだった。
「なんで……」
足が動く。
鬼だと分かっている。
罠かもしれない。
それでも。
トウマは前へ出ていた。
『助けて……』
ユズハが手を伸ばす。
細い指。
震える声。
三年前、最後に見た姿と同じだった。
「……ユズハ」
あと少し。
手が届く。
その瞬間だった。
「行くな!!」
鋭い声。
同時に、一発の銃声が地下へ響いた。
バァン!!
霊弾が飛ぶ。
ユズハの姿が、一瞬で黒い霧へ変わった。
「――ッ!?」
トウマが振り返る。
階段上。
一人の女が立っていた。
黒い戦闘コート。
銀色の短髪。
二丁の霊銃を構えた女陰陽師。
「……危なかったな」
「誰だ、お前」
女は呆れたように息を吐く。
「討魔庁・特務課」
そして銃口を鬼へ向けた。
「九条レイカだ」
次の瞬間。
鬼の群れが一斉に咆哮した。
「グギャアアアアアアアッ!!」
黒い濁流のように襲い掛かる。
レイカは即座に霊銃を連射した。
紫の光弾が鬼を撃ち抜く。
トウマも札を構える。
「退がれ!」
「言われなくても!」
二人同時に術式を展開。
雷光と銃火が地下を焼き払った。
爆音。
悲鳴。
鬼が次々と消滅していく。
だが。
減らない。
「数が多すぎる……!」
レイカが舌打ちする。
その時だった。
地下空間の奥。
巨大な“門”が現れた。
黒い鳥居。
歪み続ける空間。
そして、その向こう側から溢れ出る怨気。
レイカの顔色が変わる。
「まさか……黄泉門!?」
「知ってるのか」
「あれが開いたら終わりよ!」
鬼たちが歓喜するように叫ぶ。
『還ル』
『還ル』
『死者ガ還ル』
トウマの背筋が凍った。
門の奥。
そこに、“誰か”が立っていた。
長い黒髪。
白い服。
少女の姿。
『……お兄ちゃん』
今度こそ。
確かに、ユズハが笑った。




