第一章 雨夜の鬼 第十五話「暴走」
夜。
村外れの森。
トウマは一人で立っていた。
身体から漏れ出す黒い霧が、周囲の木々を枯らしていく。
呼吸するだけで、亡者達の声が聞こえる。
眠ることも出来ない。
目を閉じれば。
黄泉が見える。
「……くそっ……」
拳を握る。
その時だった。
ザッ――。
背後で足音が止まる。
「こんな所にいたんだ」
レイカだった。
彼女は静かに近づいてくる。
「来るな」
トウマが低く言う。
だがレイカは止まらない。
「一人にしたら、本当に消えちゃいそうだから」
トウマは苦しそうに顔を歪めた。
「俺の中に……まだいるんだよ……」
黒い霧が溢れる。
「亡者達が……黄泉が……!」
その瞬間。
彼の背後に巨大な黒い影が現れる。
森が揺れた。
無数の腕。
無数の目。
巨大亡者が咆哮を上げる。
レイカが息を呑む。
「もう……ここまで侵食が……」
トウマは歯を食いしばる。
「俺を……殺せ」
レイカの瞳が揺れた。
「今なら、まだ間に合う」
「嫌」
即答だった。
トウマが目を見開く。
レイカは震えながらも笑う。
「絶対助ける」
その瞬間。
トウマの中で何かが切れた。
ドクン。
赤い瞳が完全に染まる。
黒い霧が爆発した。
巨大亡者が実体化する。
「ガァァァァァァァァ!!」
森が崩壊する。
トウマがレイカへ襲い掛かった。
剣撃。
衝撃。
レイカは必死に防ぐ。
「トウマ!!」
だが彼は止まらない。
黄泉に呑まれていた。
涙を流しながら。
「……逃げろ……レイカ……!」
理性は残っている。
だからこそ苦しかった。
レイカは封呪札を握る。
「絶対に戻す!」
白い光が放たれる。
封呪術と黄泉の力が激突した。
轟音。
森が白と黒に染まる。
その中心で。
トウマの脳裏に、ユズハの声が響く。
「お兄ちゃんは、まだ終わってない」
赤い瞳が揺れる。
理性と黄泉。
二つの力が激しく衝突していた。
――続く。




