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第一章 雨夜の鬼 第十六話「黄泉の果て」

第十六話 黄泉の果て

夜明け前。


崩壊した森には、白い煙が漂っていた。


倒れた木々。


砕けた岩。


焼け焦げた地面。


その中心で――。


トウマとレイカは向かい合っていた。


黒い霧はなおも溢れ続けている。


トウマの右半身には、亡者の紋様が浮かび上がっていた。


「……はぁ……はぁ……」


レイカは肩で息をする。


封呪札は、ほとんど燃え尽きていた。


それでも彼女は立っている。


「まだ……終わってない……!」


だが。


トウマは苦しそうに首を振った。


「もう無理だ……」


彼の背後で。


巨大亡者がさらに膨れ上がる。


無数の腕が森を削り。


無数の目がレイカを睨む。


空そのものが黒く染まり始めていた。


「黄泉の門が……開く……」


トウマの声は震えていた。


「このままじゃ、村が消える……!」


レイカは歯を食いしばる。


「だったら!」


彼女は最後の封呪札を取り出した。


血で描かれた特級封印術式。


禁術だった。


「命を削る気か……!」


「貴方を助けるためなら!」


レイカが叫ぶ。


その瞬間。


巨大亡者が咆哮を上げた。


「ガァァァァァァァァァ!!」


無数の黒腕が襲い掛かる。


レイカは術式を展開。


白い結界が森を包む。


激突。


轟音。


しかし――。


ピシッ。


結界に亀裂が走った。


「っ……!」


力が足りない。


黄泉の力が強過ぎる。


トウマが絶望した、その時だった。


――カラン。


鈴の音が響く。


風が止まる。


黒い霧が揺れた。


そして。


森の奥から、一人の少女が現れる。


白い着物。


長い黒髪。


淡く透ける身体。


トウマの瞳が揺れた。


「……ユズハ……?」


死んだはずの妹。


その霊だった。


レイカが息を呑む。


ユズハは静かに笑う。


「お兄ちゃん」


優しい声だった。


「まだ、生きて」


トウマの身体が震える。


「俺は……お前を守れなかった……」


「ううん」


ユズハは首を振った。


「ずっと守ってくれてた」


その瞬間。


トウマの脳裏に記憶が流れ込む。


幼い日。


笑い合った時間。


交わした約束。


――お兄ちゃんは、優しいね。


涙が零れた。


黒い霧が揺らぐ。


巨大亡者が苦しそうに咆哮した。


ユズハがトウマへ手を伸ばす。


「帰ってきて」


その声と同時に。


レイカが術式を発動した。


「封呪術――魂縛鎮魂陣!!」


白い光が天へ昇る。


巨大亡者を包み込む。


亡者達の叫びが響いた。


黒い霧が激しく暴れる。


だが。


トウマは叫んだ。


「消えろォォォォ!!」


赤い瞳に、再び人間の光が戻る。


剣を地面へ突き立てる。


黒い霧が身体から噴き出した。


巨大亡者が絶叫する。


そして――。


光の中で崩壊した。


轟音。


衝撃。


森を包んでいた黒が消えていく。


静寂。


朝日が差し込んだ。


トウマはその場に崩れ落ちる。


レイカが駆け寄った。


「トウマ!」


彼は微かに笑った。


「……生きてる……のか……俺……」


「当たり前でしょ!」


レイカは涙を流しながら怒鳴る。


トウマは静かに空を見る。


そこにはもう。


黄泉の気配は無かった。


そして。


朝日の中で。


ユズハの霊が、最後に微笑む。


「お兄ちゃん」


その姿は、光となって消えていった。


トウマは静かに目を閉じる。


だがその時――。


彼の胸の紋様が、再び微かに赤く光った。


誰にも気づかれないほど、小さく。


まるで。


何かが、まだ眠っているかのように。


――第一章 完。

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