第73話: 蒼き国
戦闘で幾分か体力が奪われている状態で、クリファへと向かう。ジェイドの人並外れた体力を持ってしても、厳しい移動であることは変わらない。本来ならば馬車とトロッコ用のトンネルがあるのだが、ここ数日の異常気象により、完全にストップしてしまっている。そのため山の向こうに行くには、この薄暗いトンネルを潜ることに加えて、整備されていない箇所は、山道を歩いていかなければならない。
もうどれだけの時間が経っただろうか…
そろそろ時計を見るのがバカらしくなってきた…中にあるのは、申し訳程度の薄暗い照明だけ。単純な道のりが体感時間を狂わせていく。そして、遂に照明ではない明かりがジェイドの前に、差しかかった。
出口だ……
間違いない。長い、長い直線を通り抜けた先には、真っ白な光景が広がっていた。前まで見ていた外とは全く違う色をしており、ただ呆然と眺めていた。
しかし、本当の地獄はこれからであった、この足場の悪い雪道を通らなければならない。夏だというのに雪山を歩くというのは、少し新鮮な気分だが、油断すれば死すらあり得るため、そうも言ってられない。
少ししたトラブルはあったものの、無事に山を下ると、大きな建物が見えてきた。
あれが氷の国“クリファ”か
このような辺境にありながら、ビルのような高層の建物が遠くから見ても、たくさん建っているのが分かる。栄えている様子が容易に想像できる、これは氷の国というより氷の都市と言っても良いのかもしれない。ジェイドは建物が見えると、急足で向かった。
クリファ 現在気温 -2.4℃
寒いというのは分かってはいたが、改めて氷点下という気温の暴力を知ることになった。幸いにも天気は安定しており、風も強くないため、体感気温としてはまだマシなレベルである。
「美味しいものいっぱいあるよ〜」
町へ入ると、すぐに市場がお出迎えしてくれた。寒さに慣れているのか、たくさんの人が買い物に来ていた。露店などもあり、寒さを吹き飛ばすような活気だ。早速、温かい飲み物欲しさに一つの店へと足を運んだ。
「いらっしゃいませ!何に致します?」
「ココアを一つ頼む」
「はい、少しお待ちくださいね〜」
注文をし、カウンターの席へ座ると、テーブル席にいるおじさん達の会話が聞こえて来た。
「また夏場の最低気温更新だってよ」
「いやぁ~…本当にやめて欲しいものだねぇ…」
「あまりに寒いもんだから、冬場用の服を押し入れから引っ張り出して来てよぉ、うちの女房も洗濯できないって悲鳴を上げてたよ」
地元の人たちとはいえ、寒いものは寒い。避暑地として来たつもりだが、また適度な暑さが恋しくなってきた。だとは言え観光は…… あ、そうだ
何かを思い出し、携帯を取り出した。
「もしもし、聞こえるか?」
「えぇ聞こえるわジェイド」
「クリファに無事に着いた。メルスの方はどうだ?」
「え?もしかしてあの雪山を歩いて来たの!?」
「あぁ、なんとかな」
「化け物すぎるでしょあんた…」
メルスは困惑していたが、ジェイドと合流することになった。
集合場所は……この大きなお城の前か……?
何やら凄い所を集合場所にしたものだ。氷の城といった所だろうか、薄青色の透き通った壁は、太陽の光が反射するとより美しく見えた。すると、遠くから手を振って叫んでいる人が、こちらに向かって走って来た。
「ジェイド〜 こっちよ〜」
タッタッタッ
「ジェイド待った?」
「今来たところだ、元気にしていたか?」
「モ、モチロン スゴクゲンキニシテタシ」
この動揺は相変わらずである。
メルスはフードを被り、暖かそうな格好だ。そして合流すると、目の前のお城について教えてくれた。
「この城は“クリファノール城”よ。この国の名前にも使われているから、分かりやすいわね」
そう言い、とりあえず城下町を散歩することになった。
「着いたばかりだけど、大丈夫なのジェイド?」
「少し休んだから大丈夫だ。それよりも龍の件はどうだ?」
「その事に進展があったんだけど…悪い方で…」
昨晩
「じゃあ交代な、それにしてもこの守護龍はどうしちまったものか」
「変な事を言いながら暴れてからと言うもの、一応警備はしているが、こんなの長時間聞いていたら頭がおかしくなりそうだ」
「 目の前から失せろ!! この劣等かつ醜悪なる生命!!」
「はぁ……また言ってる…」
「じゃあ頑張れよ〜」
ガシャン
警備員が交代すると異変が起きた。
「おい、そこの クズ!!」
「はぁ…先輩に無視しろって言われたから無視しよ…」
「 言葉を発せない人類など生きている価値はない!! 死ね!!」
「え、何? う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
龍の持つ強力な呪術魔法により、若き警備員は殺されてしまったのである……
「悲しい事件だが、なんかやかましい龍だな」
「それは完全に同感よ…私もどうしたらいいものやら…」
こうして話している間に、街の中心へとたどり着いた。高層の建物が両脇にそびえ立ち、除雪作業がしっかりしているのだろうか、殆ど雪は残されていなかった。こうして見るとビジネス街のようにも見えた。
「この先にあるのが、1番の観光名所“ノルカムタワー”よ」
メルスが指を指した先には、巨大な塔があった。周辺のビルとは比較にならないほど高く、大きな影がこちらに差していた。一応その塔へ登り、街を一望する。
「キレイな街並みだな。透き通った青色でいっぱいだ」
「ここら辺の建物はお城と同じ素材が使われているのよ」
「珍しい素材だな」
その後ジェイドとメルスは、早速クリファノール城へと向かうことになった。
「それで、守護龍はどこにいるんだ?」
「城の地下に保護されているわ」
守護龍が保護されているという、意味がわからない状態だが、酷い状態には変わりない。




