第71話:酒場の禍い
「裸でこの町を出てもらうぞ」
あまりに突然の事だった。息を殺すようにこちらを見つめる客たち、食べるのに夢中で空気が変わっていることに気付かなかった。4、5人の集団がジェイドの席を囲っていたのである。
「これはどういう事ですか?」
「察しの悪りぃガキだな。身に付けてる物全部出しな、そしたら命はくれてやるよ」
「さっさと金目のもんを出すんだなぁ」
さっきまで爆食いしていたおっさんは、この事態に気付かないほど爆睡している。この状況をジェイド一人で対処しなければならない。
ジェイドは冷静に周囲を見る。リーダー格だと思われる人と、ガタイの良い者が数人。それ加えて後方にはナタを構えた者が立っている。
「さっさと出せねぇと痛い目見るぜ」
「悪党にやる物は何もない」
「あ゛!? てめぇ何言ってんのか分かってんのか?」
「俺たちに歯向かったら命はねぇぞぉ?」
顔を近づけ、威圧は最高潮に達する。極限の場面、一触即発の空気が辺りを制圧する。
風船を割ったのは相手だった。
「へっ こんなクソガキには痛い目見てもらわねぇとなぁ」
ガッ!
ジェイドの後ろからナタが降りかかる
ドンッ!!
…………
「そんな真似するんですね」
「う、嘘だろ……あの攻撃を反応すんのかよ……」
驚く集団の側には、振られたナタを掴む少年。刹那にその少年から発せられるオーラに気付く。“ただ者ではない”そう目ではなく脳で理解したのだ。
「面白えじゃねぇか! ハハハ!!」
バシッ
ズン!
ガタン!!
「い、いてぇ……」
「見た目で判断すると後悔しますよ」
咄嗟に殴りかかるも、ジェイドには無駄だ。あらゆる方向から発せられる攻撃は全て跳ね返される。狼狽える集団は、その事実が受け入れられず無理な攻撃を続けるが、同然結果はまた返ってくる。
「舐めやがってよぉ!! もういい、とっておきの見せてやるよ」
そう言い、詠唱を始めた。
「<ジンド>!」
狭い空間に、強力な電撃が放たれる。“ジンド”は雷属性の中級魔法、ジェイドだけではなく、周囲の人にまで被害が及びかねない規模の魔法だ。
「リーフェン/ナフ」
ズガガガガガ!!
「「「「「うわぁぁぁぁ!!!」」」」」
リーフェンによって跳ね返された一筋の電撃は、複数の電撃へと変化し、集団全員に襲いかかった。
「ぎっ……どういう事だ……俺たちはこんなガキ相手に……」
「イタイ、イタイよリーダー…」
大男たちでも耐え切ることは出来なかった。地面に平伏す光景は、酒場にいた客たちも驚嘆した。
「本当にあの少年が一人でやったの?」
「ありえねぇ…」
ボロボロになりながらも、立ちあがろうとするリーダーが叫ぶようにジェイドへ問う。
「どんな手を使いやがった!こんなのおかしいだろ!!」
「先に魔法を放ったのはあなたでしょう?それをただ跳ね返しただけですが」
「“/ナフ”はコマンド魔法の中でも消費魔力が膨大ってのに、それを中級魔法に付加するなんてありえねぇんだよ!並の魔術師ならぜってぇ使った後干からびるくらいの消費量なのに、何故ただのガキがピンピンしてんだよ!」
「あなたの言う“ただのガキ”ではないって事でしょうね」
「調子のりやがっ……て………」 バタン!
その場に倒れ込む。いかなる状況でもジェイドを崩すことは出来ない、不思議なのはこんなに激しい攻防が繰り広げられているにも関わらず、ぐっすりと眠っているデザおじさんの存在だ。
そこに髭が特徴的なおじいさんがやってきた。
「君がやったのかいコレは」
「はい、そうですが」
「わしはこの酒場のマスターじゃよ。君みたいな勇敢な少年を見たのは開店以来初めてじゃ。支払いはタダでいいよ!」
「え、本当ですか?」
「あの集団は、長年この酒場を荒らしている最悪な奴らだったんじゃ。わしくらいの年齢になると注意しかできなくての…でも君が反撃しているところを見てスッキリしたわい」
いつも間にか酒場は拍手に包まれていた。微妙な反応を示す少年、そして爆睡しているおじさんに向けて…
「宿に戻りますよ!」
「ん〜……」
何度か叫んでやっと反応した。
「はっ 寝てしまっていたか!早くチェックインしないと…えっと支払いは…」
「タダじゃよ」
「え?」
「そこの少年を頼むよデザ君」
「は、はぁ…」
え?何かあったの?
一番察しの悪いのは、この人なのかもしれない。
宿にて………
「遅い!!!」
「すいません支配人」
予定よりずっと遅い宿への到着に、支配人はカンカンに怒っていた。
「これには事情があるんだよ…」
「なんだよ事情って」
こそこそ
「ジェイド君、いい言い訳ない?」
「ありますよ任せてください」
サッ
「宿で悪党と戦っていました」
「は、はぁ?! もっと良い嘘ってもんがあるだろうが!」
「ジェイド君それは無茶だって」
おじさんが小声で話しかけると、宿の扉がドンと開いた。
「は! いらっしゃい〜…ってマスターじゃないか、酒場はどうしたんだい?」
「そこの少年が泊まるって聞いての。少し顔を見にきたんじゃよ」
「ん?それは珍しいですね」
「なんせこの風貌で悪党を懲らしめたからのぉ」
「へ?」
「そうじゃよ 何か特別な力を感じたんじゃ」
「って事はさっきの話は……
「「本当のこと!?」」
何も知らないデザおじさんまで驚いた。
「ははは…よく分からないけど今日はじっくり休みなさい…ほら部屋の鍵ね」
放心したように渡す支配人。酒場のマスターはニコニコしながら部屋に向かう少年をただ見ていた。
「こんな事もあるのか…デザおじさん」
「いや、俺にも分からん。寝ている間に、少年と悪党が乱闘騒ぎなんて想像つかねぇよ」
デザおじさんはあまりの爆睡に、その夜眠れなかったのはまた別の話である。




