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第69話: 氷の国と狂いし龍

 まだ学園は休校のままだった。事件から1週間が経った頃に、「あと二週間かかる」という事だ。早い夏休みが来たみたいで呆然と日々を過ごしていた。ジェイドはたまには旅行にでも行こうかと計画を立てている時、メルスから電話が来た。



「あ、もしもしジェイド。今いいかな?」

「あぁ、大丈夫だ」

何も前触れなくかかってきた電話に驚きながらも、暇だった日常にはありがたかった。何せ、あれから何もしていない。外に出て買い物をする以外は、家で過ごしていたのもあって人とまともに話すのは久しぶりのことだった。


「ちょっと困ったことがあって…」

「どうかしたのか?」

「今、実家に帰っているんだけど… あ!あのニュースは知ってるかしら?」

「あのニュース?」

応答しながら、ネットニュースをスライドする。

「氷の国“クリファ”のニュースだから知らないのも分かるわ」

ジェイドは、全国ニュースへと欄を移すと、大きく “記録的大寒波 初夏にして氷点下” と書かれていた。

「これ本当なのか?」

「えぇ…二週間も休みと聞いて実家に戻ったんだけど、いきなりこんな状況になるなんて…」

「それは大変だな。風邪を引かないように気を…

「実は問題なのは、寒さじゃないの」

メルスは深刻な声へとトーンダウンした。ため息が電話越しに聞こえるほどで、見えないものの表情が容易に想像できた。

「うちの守護龍の事なんだけど」

「守護龍?」

「あ、その事を話していなかったわね…」

メルスは語る。



グァァァァァァァ!!



フェイズが、極北の国クリファを襲った。大群ではないが、巨大かつ獰猛な個体が揃っている。個体の種類はドラゴンで統一されており、空は恐怖で覆われていた。軍事力は世界的に見ても低い方だ。到底撃退できるほどの抵抗力はなかった。そんな時、一人の男がある場所へ向かった。


「ふぅ~ 寒いな 温度計は…凍っていて分からないか」

ここは永久凍土の地、誰も近付きたがらないような場所だ。そんな所を男はただ一つの神話を頼りに進む。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

不毛の地にて龍は出でり、力求る者に多大な代償とともに契約する。

龍の祠には血毒の杯を

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


神話の端っこに書かれた言葉だ。学者でも知らないような伝承は、この男以外に信じる者はいなかった。故郷を守ろうと戦うも、自分の無力さを知った彼は自分をもう一度信じることにしたのである。


「ゲホッ…  体に毒を入れて、その血を求めるとか鬼畜な龍だな… もう俺は長くはないだろう前に進まなければ」


毒に体を蝕まれながらも、雪道を進む。景色はもう何日も変わらない。知っているのは方角のみ、もう神話を疑う体力も残されてはいなかったのだ。

そんな時、転機が訪れる。


「な、なんだあれは!」

男が指差した先には、巨大な洞窟が見えた。何度も休憩し、夜を過ごした洞窟とはひと回りもふた回りも大きな洞窟。不思議な感情と同時に期待感がふと湧き出た。残された少ない体力を使って、洞窟へと力強く進んだ。


「こ、これは!」


不気味な模様が壁に現れた。はっきりとした龍の絵が男の何倍の大きさで睨む。男は神話は本当だったんだと喜びの感情の反面、その圧倒感に恐怖を感じていた。そのまま洞窟の内部へ入る。中は光る鉱物の影響なのか、ランプがなくとも進むことができた。中には魔物もおらずホッとしながら深淵へと誘われる。


「くっ 随分と深い洞窟だな」


いつの間にか数十分は歩いていた。少ない体力、洞窟の中といえども疲れは癒えない。朧げな表情を浮かべながら進むと遂にその時は来た。

ある時、光に包まれるような感覚に陥った。



???「我を呼び起こしたのは誰だ」


重厚な声が反響する。霞んでいた視界は次第に巨大な物体が目に映った。


「龍が……本当だったんだ!! 俺は…正しかったんだ!!」

一人でその事実に興奮するも、龍は冷静に言った。


「お主、なぜここに来た」


興奮のあまり、目的を失う所だった。呼吸を整えると、叫ぶように言う。

「俺の…故郷を救って欲しいんだ! 力を貸してくれないか!?」


「落ち着け、若き者よ。話を聞こう」


「国がフェイズの襲撃で滅びかけているんだ!でも…俺には到底抵抗できなくて…」


龍は視線を合わせながら、しっかりと頷く。

「貴様の熱意は十分に伝わった。我と契約すれば力をやろう」


「ほ、本当ですか!ありがとうございます!」


「ここに来たのならば知っているだろう?この契約を」


「“多大な代償” 」

男は、神話を朗読するように、その一部を話す。


「力を与える代償として、その願いが叶いし時、貴様は苦しみの中死ぬ」

龍は、中々に酷な条件を言い渡す。しかし、腹はもう決まっていた。


「覚悟はしている。故郷の死は俺の死だ」


「見どころのある者だ。死ぬには勿体無いが契約は絶対だ」

龍は輝く糸を取り出した。

「これを切れば、契約は成立だ。どうする若き者」


迷いはない



ピッ



「契約は成立だ。存分に使うがいい 我の力を」


虹色のリングが男を囲う。すると強大な魔力が注がれた。何でもできそうな気分になるが目的は一つであると理解していた。

「ありがとうございます。俺…必ず故郷を救います!」


「いや、戦うのは貴様じゃないぞ」


「え!?」


「戦うのは我だ。派手な演出があったが貴様の強さは変わってない」


「あ、はい」

拍子抜けしたが、契約は交わされた。龍は少しの間を置いて、立ち上がった。


「では、始めるとするか」

バサ!と大きな音が聞こえると、すでに龍は外に飛んでいた。


「これで良かったのか…?」


:

:

:


「って感じよ」

「思ったより中身がなくてビックリした」

「はっ! 結構キツイこと言うのねジェイド…」

「それでその守護龍がどうかしたのか?」

「あ、そうなんだけど何か暴走してしまったみたいで…今は鎖で縛り付けてあるわ」

「大変だな そういえば“クリファ”だったよな」

「えぇ、それがどうかしたの?」


「明日からそっちに旅行しようと思っていたのだが」


「え!!」

驚きのあまり、電話越しに聞こえる声が遠ざかっていく。ガシャンと大きな音がすると、気持ちを取り戻したのか嬉しそうな声で電話を切った。

ただの観光の予定だったのだが、またもや面倒ごとに巻き込まれそうな気がする。嫌な予感は何故かいつも当たってしまうものだ。そんな事すら信じたくない。ふと考え事をしていると、明日出発なのに、荷物が全くまとまっていない事に気がついた。避暑地として行くはずだったのだが、氷点下にまで落ち込んでいることから、防寒着をかき集めカバンに入れた。



ガシャ!

ガシャ!

「愚かな人間ども必ず報いを」

暗い部屋には鎖の音が鳴り響いていた。



「この世の悪を確認   虚(・)偽(・)  略(・)奪(・) そして   人(・)類(・)至(・)上(・)主(・)義(・)  」






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