第68話: 執行
「どうするつもりだ?ジェイド君」
交渉は決裂した。あの日から間もない時、対立は生まれてしまった。凍りついた室内に、動いている者は二人だけ。均衡はすぐに弾け飛んだ。
「あなた達に罰を下すだけだ」
「つまり“ミイラ取りがミイラになる”そうとでも言いたいようだね」
「概ね合ってますよ。すぐにそれは達成されますけど」
お互いに強気な姿勢を崩さない。人数的な不利はどう考えてもジェイドにあった。1体5の局面。執行長は余裕の態度を取っていた。
「ここまで来てやらないのかい?風紀に立ち向かう者よ」
「勿論ここでは帰らない」
「やる気は十分か…ではこちらから仕掛けさせてもらう」
開戦はとても静かなものだった。
スッ
「やれヴォルカ」
ザッ
ナタを手に取ると、ジェイドへ接近する。
「<ゼクシオム>」
ガンッ ガンッ
激しくお互いの刃が打ち合う。火花が飛び散り、ますます熱は膨張して行く。
「フンッ!」
ガッ!
チャクラムがナタを捉えた。
「ぐっ! 動かん」
大柄なヴォルカの攻撃を止めた。
「うぉぉぉぉぉ」
ヴォルカは力の限り、ナタを引こうとするもビクともしない。
「どうしたヴォルカ。さっさと…」
スパンッ!
チャクラムによって巨大なナタが一瞬にして裂けてしまった。
「俺の武器が…」
ブンッ
「くっ」
武器を失ったと見るや、一瞬にして追撃を開始する。ヴォルカは反射的に携帯していた小刀を取り出せた事により、い致命的な一撃を免れた。
「やるな小僧」
「そう言っている暇はない」
ガガガガ ガガガガ ガガガガ
ジェイドの猛攻は、戦闘に慣れたヴォルカの技術すら超越する。連続で切りつけ、反撃の余地を与えない。ただヴォルカは小刀で攻撃を凌ぐしかなかった。それも今や時間の問題だ。
ガガガガ… ガッ!
「くっこれ以上は持たねぇ… おらっ!」
カンッ!
「ふっ、武器で何とか跳ね返したか」
「はぁ はぁ こんなにつええ相手は久しぶりだぜ はぁ はぁ」
余裕のあるジェイドとは対照的に、息が荒くなっているヴォルカ。ここまでの戦闘でジェイドはペースを一切譲らない。
「これを使うしかねぇか‥」
ジャキッ
「マジでやる気だなヴォルカ」
背中に担いでいたモノからは巨大な剣が出てくる。もはや大型の猛獣でも狩れそうな程の刃先は、執行会のメンバーすら驚きを隠せない。
「お前には、学園組織に反いた報いを受けてもらう」
冷酷な眼には、血が激っていた。暫くの暗黙の後、ジェイドに襲いかかった。
「ふんっ!」
ガンッ!!
重たい一撃が放たれた。なんとかゼクシオムで防いだものの、ミシミシと武器が悲鳴を上げていた。
「<ヘフト>」
バチッ!
「が‥…う、動けない…」
ジェイドがそう唱えると、ヴォルカが急に床に跪く。
「何をした…うっ…」
「ヘフトは相手の全身を痺れさせる魔法だ。これならどんな力があっても意味がない」
「ぐっ‥魔法一つに負けて……がはっ!」
無理に動こうとすると、全身に痛みが走る。ヴォルカはそのまま床にへばりつくしか無かった。
「ヴォルカはもう動けないか…自分達がやるしかないな」
執行長はそう呟くと、ジェイドを睨み付ける。
「腕っ節がやられたからって調子に乗るんじゃない」
すぐさま、他のメンバーも戦闘体制に入る。
「私の番だね!」
グァグ‥…グルル
小型の魔獣が地面からぞろぞろと現れる。人数不利は益々加速していった。
「部屋が広いとはいえ、やりすぎるなよ」
「分かってるよ!執行長!」
獰猛な獣はそのサイズには似合わないほどの迫力を見せる。ジェイドはその局面ながらも思考を巡らす。
「考えても無駄だ。やってしまえ」
「うん!」
カン カン カン
襲い掛かる魔獣の攻撃を華麗に避け、必要に応じて背後からの攻撃すら、ゼクシオムによって跳ね返される。
「今や!」
タッ
隙をついて、会計のエイジがジェイドへ動く、俊敏な動きだがジェイドは見逃さなかった。
「<フォース>」
ドンッ!
「い、痛え…」
威力は抑えているものの、エイジは壁に叩きつけられた。その間に出現していた魔獣を片付け。執行会は後に無い状態となる。
「こうなったら、全員でやるぞ」
遂にその時は来た。ヴォルカ以外のメンバーが怪しげな笑みを浮かべながらジェイドを見る。
「やろうかジェイド君」
執行の時だ。
「はぁぁぁ」
ダンッ ダンッ
1体4での戦闘が始まった。室内での戦闘は規模は小さくなるものの、繊細な動きが必要とされた。糸を通すように攻撃を避け、隙をついてカウンターを行う。
「いくで! <ジンド>」
強力な電気が一本の筋となって、ジェイドに放たれた。見た身とは裏腹に物凄い電力で食らえば即倒れ込むであろう魔法だ。
「<リーフェン/クラム>」
リーフェンによってジンドが無効化され、跳ね返されるとさらに多数の電気の筋となり、全体攻撃と化した。
ビリビリ ビリビリ
「ぐわ! 何で、こんな……」
「通常の魔法に”/クラム“を付加すると、対象の数を増やす事が出来る。数の多い敵には有効だな」
「く、くそ」
流石は普段から活動している事だけはあり、すぐに立ち直る。ヴォルカを拘束している時間も有限だ。早く勝負を決めないと動き出してしまう恐れがあった。その事を察したのか副執行長が動き出した
「<エンプト>」
幻惑作用がある上級魔法だ。並大抵の人ならばこの魔法はいわゆる”詰み“の魔法だ。投射される魔法でもない必中であり、その効果は軽減する事が出来ない。
「これで終わりだなジェイド君…」
執行長がそう確信すると、ジェイドは驚くべき行動に出る。
「<ジッド>」
パシュン!
………
ジェイドはこの部屋から姿を消した。
「執行長 逃げましたよやつ」
「ふーん、逃げるか… まぁ所詮血気盛んな1年生かな」
油断する執行会、直後に罰が下された。
「……
帰するべき焉の轍」
いきなり時空が歪み出す。執行会室はまるで別の世界に切り離されたかのような不自然さ、非現実感が覆う。
「な、何やこれ! 崩れる!」
「死んじゃうの!?私たち」
何も部屋の物は壊れていない。だが自身の体が崩壊するような感覚に襲われた。床に膝を付きながら前方を見る。
「言っただろ、報いを受けてもらうと」
絶望の声が再び聞こえる。居るはずもない、居てはいけない存在がそこにいた。
「ジェイド君、君は一体何をしたんだ」
「もう、魔法の説明は沢山したので十分でしょう。諦めて下さい」
一瞬にして戦況がひっくり返る。人数有利だった執行会は、もはや石像と化し抵抗力はなくなっていた。
「これで終わりにしましょう。<ショアー>」
バチンッ!!
大きな音が部屋に鳴り響くと、執行長以外のメンバーは気を失った。
「ん?どうした皆んな、冗談はよしてくれよ」
辺りを見渡し、混乱する執行長にジェイドは近付いた。
「チェックメイトですよ。執行長」
「へ、洒落た事言う割にエグいことしてくれるね」
「では、さようなら」
バンッ!!
最後は物理で決めた。ここには静寂しかない。正義感を持つ1年生と倒れ込む邪悪は、一連の流れを体現しているようであった。
「ふっ、バケモノめ…」
風紀執行編 完
投稿が遅れてすいません。時間が取れない日々が続いていますが、余裕のある日にまとめて書いてバラバラに投稿しようと思います。




