第67話: 壊れた幻実と微睡みの現影
心地よい風が吹く。臨時休校の日、生徒会と執行会にとっては忙しい日々が続いていた。
「会長 来客です」
「こんにちは、生徒会長」
珍しく校長がそこにいた。職員室や校長室のあった校舎は半壊し、とても使用できる状態にはなかった。そこで幸いにもほぼ無傷で済んだこの校舎の3階にある空き教室で代用する事になった。
「これは校長、こんにちは。今日は何の用でしょうか」
「実は昨今のテロ紛いの事件で罷免されそうになっていてね。これを言うのはなんだけど…
「“助けてほしい”って事?」
「ハッ!」
会長に図星を突かれ、硬直する。
「そ、そう 簡単に言えばね……」
「それは生徒会の決まりである“教員は生徒会に介入してはならない”に反するのではないでしょうか」
「し、しかし今回の事件は私は関係ないでしょう?こんなの理不尽だと思わないか?」
生徒会長は微笑し、何かを取り出す。そこには数枚の書類とパソコンが机に置かれた。
「校長。私面白い物を持っているのですよ」
バッ
会長はパソコンを開くと、その画面を校長に見せる。
すると校長はひどく怯え、後ろに引き下がってしまった。
「これは何かしら?校長」
映し出された画面には、数々の校長が行った不正・悪行がつらつらと載っていた。いじめが起きたことを揉み消したり、学園にフェイズを解き放つなど考えられないような悪行が、1つや2つではなく画面いっぱいに書かれてあったのである。
「こ、こんなの嘘だ!私はそんな事をしていないぞ!」
否定するも、何を察したように副会長は机に置いてあった書類を掴む。
「校長…証拠はここに揃っています」
「ははは…つまり私を救う気は無いと…?」
「えぇ、もちろんよ」
ニコッと笑う会長。校長にとっては絶望の顔だ。今回の事件だけではなく、これまでに自分が行った不正までもが晒される。その危険性に冷や汗をダラダラと垂らす。言葉に出来ない、校長‥いや教員としてのキャリアが終わる事を示唆していたのである。
「へ、こうなったら君たちの悪行も必ず見つけてやるよ」
「校長。私たちをあまり嘗めない方がいいですよ」
空気感が全てを物語っていた。校長は反撃するも、その行為が無駄だという事はこの場の全員が分かっていたからだ。
「社会を知らないガキに頼むんじゃなかったよ」
ケッ!
バンッ!
愚痴を垂らし、勢いよくドアを閉めて去る校長。その背中にはもう校長という肩書きは消失しているように見えた。
「あんな校長が在籍していたなんてこの学園も腐敗したものね」
「会長…もう俺にはよく分かりませんよ…」
副会長はこの光景をにわかにも信じる事は出来なかった。校舎と共に壊れゆく学園これ以上見たくなかった。
「大丈夫。絶対に復興してみせるわ」
「会長がやるなら俺も全力を尽くします!」
涙を浮かべながら敬礼する副会長。それに応えるように会長も鼓舞する。
「だけど皆んなの協力が必要よ。もう一度心を一つにする時よ」
「ぼ、僕も信じてます!この学園がもっと良くなると」
「可能な事はする所存ですよ会長」
ダンマリしていた他のメンバーも会長に賛同する。再び始動する生徒会。その胸には希望で満ち溢れていた。
しかし、苦悩している組織が一つ…
「いやぁ どうしよっかな」
生徒会室と同じ校舎という事で難を逃れた執行会室。その中には重い空気が充満していた。
「どうするも何も確定情報じゃないっすよ」
「ん〜なんか本当臭いんだよなぁ〜」
ヴォルカと副執行長は相変わらず武器の手入れをしたり、何を考えているか分からない状態だが、話を聞いてはいたようだ。
「あ゛? そのジェイドって奴を返り討ちにすれば良いんだろ?簡単な事じゃねぇか」
「随分強気っすねヴォルカニキ」
「黙ってろパツキン」
「怖っ!」
ヴォルカはやる気満々なのかいつもに増して手入れに力を入れていた。
「それで〜もし執行長がジェイド君にやられちゃったらどうするの?」
「えっ!?」
シェミカの爆弾発言に驚きを隠せない執行長。ペンを回す手を止め、固まってしまった。
「もしかして辞任とか?」
すぅーーーーーー
「まぁ大丈夫だよ、相手は優秀だとはいえ1年生だぞ。そうだろ?」
「私は執行長が変わっても気にしませんから!」
「おい!」
執行長の気の利いた言い草はメンバーには通じなかったようだ。
その頃、険しき顔をした生徒が一人校舎を睨む。臨時休校中の学校からは虫と鳥の声しか聞こえない。ひび割れた建物は静寂を伝えてくれる。その生徒は数秒の間隙を抜け、裏口から入って行く。覚悟の目と排斥の心は、片隅にあった景色を歪ませた。
「思いに狂いはない」
黝く、黒く染まった。残影を置いて校舎へと吸い込まれて行った。
2階
タッ タッ タッ タッ
「!!」
「どうしましたか?会長」
「いえ、なんでもないわ」
………本気のようね………
3階
タッ タッ タッ タッ
「うっ!」
「大丈夫ですか?アズ先生」
「急に寒気がしまして…でも大丈夫です。この数日で色々ありましたから疲れているのかもしれません」
「無理はしないでくださいよ。精神的なショックで来られない先生方もいらっしゃいますから…」
「無理はしませんが、ただでさえ人が少ないのですから、こちらが頑張らないとこの学校回りませんからね。もう一踏ん張りですよ」
…………何だこの強い気配は………
肆階
タッ
タッ
タッ
タッ
コン
コン
コン
「………」
「大体誰か分かってるよ。入りなさい」
ガチャン
「………」
「で、何か言うことでも?」
執行長は机に腰を掛け、腕組みをしてながらジェイドを見る。突然の事だったからか恐怖からなのか、他のメンバーは1歩も動けなくなっていた。
「何故……事前にあの組織を潰さなかったんですか……」
「あぁ、ちゃんと会話してくれて助かったよ。それには理由があるんだ」
執行長はホログラムを使い、グラフを映し出した。
「これは、去年…不良グループと前執行長が決闘してからの月毎の事案の数だ」
「見ろ、段々と不良グループ関係の事案は減っている。最近は少し増えたがな」
淡々と説明するも、まるで筋が通っていないように見える。執行会は風紀を正す組織だ。その筈だが、この言い訳は不良グループを諦めているとも言える。
「何故…あなた達はそんな淡白に話すんだ…ケガを負った生徒・教員にそんな事が言えるのですか…?」
「ジェイド君、君はとんだ勘違いをしている。自分達は探偵ではない、起きてしまった事に対して対処するだけだ」
空気は逆流を開始する。張り詰めた空間は、今にも崩壊しかけていた。
「後、この不良グループが他の不良の行為を抑制していた面もあったんだ。無理に解散させると、かえって治安が悪化する。普通はそんなモノではないか?」
悪はもしかしたらもっと身近にあったのかも知れない。両者はじっと睨む、今にも火事が起きそうなほどの空気は、誰も逃すまいとより濃くなる。
「もうあなた達にこの学園を守る資格はない」
「つまり交渉決裂って事か」
争いの果てに何を願う
ポイントのシステムが分かりませんが、ブックマーク感謝です。




