#82 善い人たち
「ありがとう。けいも、南も。……涼子も、わざわざ来てくれて」
今日は、やけに爽やかな日だ。一番暑い時間に差し掛かろうというのに、カラッと晴れて、空気がじっとりとしていない。わざわざそんなことを感じるのは、こうしてすっきりとした結末を四人で迎えることができたからかもしれない。
「私からも本当にありがとう」
なんと返していいかわからない。恥しそうにはにかむ二人の表情が、あんまり見たことがない煌めきを放っているので、とにかく良かった、としか思えないのだ。南くんも終始静かにしていたけれど、満足そうにしていた。
「けいちゃんの話も、今度聞かせてね。すっごくかっこいい彼氏、どうやって捕まえたのかなって」
「え! えっと、はい」
咄嗟に後ろから両肩に手を置かれる。見上げると、南くんは気持ち悪いくらい嬉しそうに笑んでいた。
「勘違いしないでよ、けいはずっと俺の大事な人だから」
「な、何を」
「心配なんかさせない」
晴貴くんは南くんを睨んで、そして、二人共笑い出した。間に挟まれた私の気持ちも考えて欲しい。こんな男性と一緒にいるというだけで目立つのに。
「ね、けいさんも言ってやろうよ」
「え?」
耳元で囁く南くんは、今までで一番意地悪な顔をしていたけれど、その目の端には子供っぽい感情が漏れ出ていた。
俺たちで、幸せになろう。
「わ、私は、南くんと……」
言葉に詰まる。こんな辱めを受ける必要なんてないはずなのに。私はまだ、南くんにそういう約束は、していないのに。
「ねえ、どうするって?」
晴貴くんも、意地悪く首を傾ける。大きく開いたシャツの胸元が、妙に大人っぽく見える。
「南くんを、幸せにしてあげたい!」
言って、すぐに南くんの手を乱暴に掴んだ。もうだめだ。間違えた。帰りたい。
最初に、くす、と涼子さんが笑い出した。続いて、晴貴くんが。南くんは、私の手を握り直した。
「うん、俺は幸せです」
なんで甘いんだ。この人は、ここぞという時にここぞという台詞を言えてしまう。それが、南くんを『南くん』たらしめている。王子様の風格は、伊達じゃない。
「よかった、晴ちゃんよりずっとけいちゃんにお似合い」
「なんだよ、それ」
「だって、晴ちゃんじゃこんなにかわいいけいちゃんを引き出せないわ」
本当に、性根の善い人たちなのだ。だから、お互いのことを考えて、慮って、感情より現実を見て動いてしまった。私ももっと早く向き合うべきだった。そうしていれば、彼らとこんな関係になれることもなかったかもしれないけれど。
「それじゃあ、また」
お父さんには話しに行かないといけない。けれど、それはまた今度でいい気がしている。その今度は、南くんをきちんと紹介してあげられる時だ。




