#78 委ねたい
吉澤さんの顔や言動を見てすぐに、性善説で人を判断した上で深く関わらないようにしているけいさんのような人では、理解の及ばない行動をしそうな人だとわかった。そして、彼の幼馴染である涼子さんもけいさんと同じタイプだ。彼らの話には更に、けいさんの父親が関わってくるからややこしい。
カフェの外に半ば引きずり出すように連れ出した吉澤さんは、頭が切れると見えるのに、完全に思考が混乱しているような顔をしている。焦点の定まっていない顔で、足元を見、俺の顔を見た。
「君が悪い」
「……はあ」
偉そうなことを言えた口ではないというか、俺自身は部外者だけど、第三者目線で涼子さんに対してとんでもない態度をとっているのだということはわかった。彼女は間違っていないだろう。一部、彼を信じすぎていた点以外に関しては。
「言いたいことはわかったよ。でもそれが本人たちに伝わっていないんだから、君はけいさんも涼子さんも騙している」
「どういうこと?」
「好きな人とは結婚するものだとは思っていないんだろう? 彼女の幸せのためにはそれが最善でなくなったから、勝手に許嫁を断った」
俺の母さんも、父さんも似たようなところがあるからわかる。全てを捨てて一緒に暮らすことだってできた。なのにそうしなかったのは、ロマンチストだからだ。それと同時に、現実の中に溶け込む新しい幸福の概念を信じていたからだ。
「俺一人のせいで、一番大事な人の一番大切な物を台無しにするわけにはいかないから」
消極的に許嫁を続けて涼子さんの幸せを害すること、それを恐れた結果、積極的にけいさんを結婚相手として大切にする、責任を持つと行動して、けいさん自身がそれを拒んだ今、けいさんからは奪っている物がある。
「好きな人と結婚するべきかどうかは人によるだろうけど、結婚も恋愛も、一人で勝手にするもんじゃない。……俺は、けいさんからそれを諭された」
「でも、涼子は」
俺に、甘えている。そう呟いた。いやに濃い空の青が、爽やかさを通り越して鬱陶しい。沖縄で初めてけいさんの話を聞いた場面を思い出す。そして、飛行機の中で話したこと。ずっと、考えていた。
「好きだから、委ねたいと思ってくれているんだよ。自分がどうでもいいんじゃない。好きな人のためでありたいって思ってくれているんだよ」
自分で言っていて頬が熱くなる。けいさんが俺の都合に付き合ってくれたこと。「選べない子」だと思っていた彼女が、俺に責任を持ちたいと言ってくれたこと。彼女も、そうなんだ。嫌なことを嫌だと言えないわけではない。従うことを含めて、それがお互いのためになるかもしれないと考えて、そんな風にしているだけだったのだ。




