#71 会いたい
「じゃあまた明日、駅でいいよね」
「え? う、うん」
長旅の疲れがじんわりと漏れ出してきてうとうとしながらシャワー浴びなきゃな、なんて考えていると、晴貴くんはボストンバッグを抱えて玄関に立っていた。
おやすみ、と背を向けて扉を開けたところで、ようやくそのおかしさに気がついた。
「晴貴くん! どこに」
「俺は駅前のホテルに泊まるよ。南がいる手前、ここに泊まるわけにはいかないから」
「でも……」
「けいだって迷惑でしょ。元々、修さんが話つけてくれたみたいなこと言ってたけど、そうじゃなかったみたいだし」
それじゃ、と言い返せないまま去っていってしまった。確かに、彼の言うことは間違っていない。南くんも私がいなくても泊まるのはダメだって言っていたし、お父さんから聞いたときは、有り得ないと憤っていたのは自分なのだ。
振り回されまくりだ。むしろ振り回されてるのは自分だと、彼は思っているかもしれないけれど。クッションに顔を埋めて息を吐くと、全身から力が抜けてしまった。
どうしよう。どうしよう、と考えていると、無意識にメッセージにどうしようと打ち込んでいる。バイト先の駐車場で、肩を落としたり、急に顔を上げたり、落ち着くことができない。
けいさんと別れて自室に戻っても、じっとしていられなくて家事をしたり、無意味に部屋の片付けをした。でも、やっぱり落ち着いていられなかった。どんな男なのかは知らないけれど、別れる間際、けいさんは不安そうな顔をしていた。大丈夫って言っていたけれど、心配だった。
けいさんが嫌じゃなければ迎えに行くから。その返事は、返って来ていなかった。けいさんの家に彼が泊まるのが嫌だと、それだけ伝えても困らせるだけだと思ったから、そう言ったのに。
「晴貴くん、うちには泊まらないって。
だから安心して」
ブレーキランプの赤に照らされた手の中で、どうしようと打ち込んだその画面に、現れた。どういうことかわからないけれど、けいさんの優しさに触れた気がして、急に嬉しくなる。
よくわからないけど、ホテルとってたんだって。ちゃんと説明してくれる彼女は、ちゃんと俺のことをわかってくれている。伝えはしたけれど、ちゃんと心配な気持ちが募って、家も知らないけれど、こうしてけいさんの家が近いであろう外に出てきてしまっているのだから。
「けいさん……会いたい」
口に出してみると、どうしてか母親の姿が脳裏に過る。いつでも少女のようだった彼女が、母親らしい表情を見せた。それだけで俺は一つ、母さんに貢献できた気がする。彼女を、母親にすることができたと。




