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#68 もう一回

「涼子は、関係……」


 晴貴くんの表情が、初めて揺らいだ。不自然なところで言葉を切って、目を伏せて首を振った。


「……ごめん、考える時間をくれ」


 顔を背けて立ち上がった晴貴くんを目で追うけれど、途中で止めてしまった。人を揺さぶるのは、その目的の善悪に関わらず、こんなにもやきもきするものなのか。涼子さんの張っていた予防線を越えて、晴貴くんの絶壁の意志を叩き壊して、そこまでして私は自分の目的を果たそうとしている。本当にこれで、良かったのかな。


 けい、と振り向いた晴貴くんをゆっくり見やる。少しだけ弱々しくなった彼の瞳は、それでも綺麗に光を湛える。


「買い物行こう。夕飯、美味しいもの食べよう」



 先にスーパーの外に出て晴貴くんを待っている間、久しぶりにスマホを開くと、南くんから大量のラインが届いていた。沖縄でも慌て尽くした通り、南くん的には私の家に晴貴くんが泊まるのはやっぱり嫌みたいだ。……正直私も、一緒に泊まるなんて、こんなことをしてしまった手前、当然気まずい。けれど、


「けいさんが嫌じゃなかったら迎えに行くから連絡して」


 というメッセージを打つ南くんの顔を想像したら、あまりにも必死すぎるから一人で笑みが溢れてしまった。


「おまたせ。……けい?」


 そんなタイミングで晴貴くんがやって来てしまうものだから、今度は私は慌てふためく。

 私の様子を見た晴貴くんは少しだけ鼻から息を吐いて、画面を覗き込む。


「今くらい俺のこと考えてくれてもいーじゃん」


 反射的にスマホを引っ込めると、彼は全て見透かしていたかのように朗らかに笑った。


「南 梗介ってイケメンなんでしょ」


「え、う、えっと」


 何故だか彼は満足げだ。そして、見下ろすかのように挑戦的な視線を私に一つくれる。首を傾げる前に、私の右手を掬ってしまう。



「けいのこと、もう一回惚れさせてみせる」


 こちらを見ずに言った。その声色は、噛みしめるようにしっかりしていたけれど、ほんの少しだけ、弱々しくもあった。


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