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#66 それでもいい

「ずっと、本当に晴貴くんのためなのかなって思ってた」


 夢のため。けれど、その夢は本来、一体どこから生まれたものだったのか。彼にも目を逸らしている現実がないと言えるのだろうか。


「……それはけいが決めること?」


 彼の表情は終始穏やかだった。いつもぱっちり二重の目を見開いて、口元は優しく緩んでいる。そんな吉澤 晴貴が崩れることは、コンマ一秒たりともなかった。


「……でも」


 彼の幸せを私が定義するものではないなら、私の幸せも彼に定義されるものではない。彼に与えてもらうものでも、ない。


「私が晴貴くんにとって都合が良いだけだったとしたら、それでいいって思い続けてていいのかなって、思うし」


 彼の威圧の前には強く居続けることができない。目を、逸らしてしまう。私は言えないのだ。私は貴方にとって都合が良いというだけで利用されるのは嫌だと。私という人間の価値を、信じきれていないから。


「確かにそれはよくない。俺は都合が良いだけでけいを選んだんじゃないし」


 晴貴くんは、正しい言葉を言う。その軽妙さに、どうしてか納得させられてしまいそうになるけれど、どうしてか信じられないとも思う。そのどちらにも理由を与えないのが彼なのだ。多くを私に教えてはくれない。

 結局、私と南くんだって利害関係だった。南くんは、自分から踏み込もうとしてこなかった私に自ら踏み込んできて、踏み込ませて、それが自分の選んだことだなんて言った。晴貴くんだって――。


「私、都合が良いだけでもいいと思ったんだ」


 南くんの、約束を果たすための女の子。優しい嘘のための人質。重たい事情を知って、自分の利害のためにこの部屋を出る代わりに、体を借りられただけの人。

 今、わかった。私はそれでも南くんと友達だと言い張れるし、今まで彼と過ごした全部が嘘だとか、気持ちのこもっていないものだとは思わない。けれど、晴貴くんにはそういう風に言えない。これでいいのか、とずっと悩んできた。


 何も答えないまま、晴貴くんの顔から表情が消える。彼はきっと怒らない。考えているのだ。正しい言葉を。私が絆されてしまう前に、言わなければいけない。



「涼子さんの本当の気持ちも、聞いてあげて」

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