#6 南くんと一緒
「早川さんから目を離したら、口止めしないといけなくなるし」
そんな打算的なことを本気で考えるような人じゃないことくらい、もう知っているというのに。
あの日から、南くんと一緒にいることが増えた。女子たちに聞かれれば、家が近いからと言い訳をした。実際、最寄りのコンビニがあのコンビニという点で、私たちは十分にご近所さんだった。
噂の人という意味では、「南くん」はようやく興味をなくされ始めたみたいで、私とばかりつるんでいることにも、周りはだんだん口を出さなくなっていった。
仮面を被らない南くんは、とても素朴な人だった。ぼやっとしていて話しかけても返事をしてくれないことも多いし、派手で目立つことが嫌いだった。人前で喋るのなんて、もっての外。意外にも天然なところが多くて、コーヒーが飲めないといつも言っているのに、毎日のようにコーヒーを買ってくる。そして私に押し付ける代わりに、何かを得ている。
「早川さんといると楽だ」
誰も来ない、建物の裏の日陰になっている非常階段。そこに腰掛けて、南くんのもらってくる賞味期限切れのパンを一緒に食べるのがすっかり日常になっていた。
「別に、一人でご飯食べるのに」
「俺が一人じゃ嫌だもん」
タダでパンをあげる代わりに、昼飯付き合ってほしい。そう言われて始まったことだった。私も女子たちと一緒にご飯を食べるのに気が進まない時があるし、イツメンになってしまうと抜けるのが大変だから、なるべく人気の少ないところで一人で食べることが多かった。南くんにとって自然体でいられる友達が他にいないのか、それ以外の理由なのか、毎日私のところへ来た。
「まあ、いいけど。南くん、放っておいたらいつの間にか倒れそうだし」
相も変わらず顔は青白い。貧血は栄養不足と寝不足で悪化しているらしく、常に省エネを心がけているようだ。昼休みも、時間が余ると横になっている。一応友達として心配はしてあげたいが、いまいち彼の生活を改善するために具体的に行動できないでいる。
「冗談にならないから、言い返せない」
小さい声で呟く。でも、くすくすと笑い合える。南くんには色々と深い事情が絡んでいるけれど、私たちはそれを隠すのはやめても触れることはほとんどなかった。けれど、そのおかげで心地良い関係でいられるのだと思った。
「ねえ、いないよね」
「何が?」
「彼氏」
「……うん」
よかったー、と息を漏らす。まるで高校生みたいな声だった。
多忙につき更新できなかったので三話分だだだっと書きました。