#5 諸事情
「だって早川さん、そんなに女の子っぽくないし」
……前言撤回。後ろめたさなんて、抱くだけ無駄だった。
「南くん」がもらって来たパンを分けてくれた。昼休みにコンビニに駆け込んで、廃棄の食べ物をもらっていたのだ。どうしてそんなことを、と聞く前に、「南くん」は語り出した。
「お金、ないんだよね。帰国したのも、親に色々あって住むところがなくなったから」
キラキラオーラも、どきっとするような笑顔もなかった。今日もほとんど寝ていないであろう横顔はとても白く、声は掠れていた。もう、私の中で彼は「南くん」ではない。ただの、南くんだ。
「がっかりした?」
強がりみたいに、手に持っていた仮面をはめて見せたみたいに、しっかり笑う。その目は、とても悲しそうなのに。私はゆっくりと首を横に振る。
「噂は噂だから。本物の南くんと噂の『南くん』が違ったって、そんなの気にしないよ」
軽く溜め息をつく彼は、自虐するように眉を下げて笑みを浮かべている。疲れきった風に感じるのは、実際に今疲れているからではないだろう。今まで被ってきた仮面の、代償だ。彼の色々な一面を見てしまった私には、わかってしまう。
「それの一部は俺自身が作ったって言っても、笑わない?」
「……?」
南くんは、薬指から指輪を外した。銀色に輝くそれを陽に掲げて、儚げに笑んだ。
「日本人が怖いなって思っちゃって。女の子はもともと苦手だし。色んなことあったから、素性に踏み込まれたくなくて、嘘かホントかわからないような面白いネタでもあれば、みんな釣られてくれるかなって思ったんだ」
二本指でくるくると回されながら、きらきらと光る指輪。ぎゅっと握り締めて、南くんは大事そうにそれをポケットにしまった。
ごめん、と言うべきだろうか。ここまでするほどお金がないのに奢らせたこと。薄々勘付いていたのに、女子である私がこうして話をしていること。
「私、何も知らずに踏み込んじゃって——」
「でも、バレたのが早川さんでよかったかも」
ごめんと言おうとしたのに、遮られる。南くんは、「南くん」とも違う、愉快そうな笑顔を振りまいて、言ってのけた。




