#7 献血リベンジ
「ありがとう、早川さん!」
ぎゅっと握られた手に、突然思い出してしまう。そういえば、アイスティーをこぼした時の「南くん」の動揺は、なんだったんだろう。
昼休み、やけに外が騒がしい。食堂も購買も教室からそのまま行けるから、普段はそれほど外に出ている人は多くない。南くんを待つ間、日なたに出て様子を見ていると、理由がわかった。
赤と白の献血車だ。人がたくさん集まっているのは、きっと複数人で行くと何かもらえるからだろう。
「そういえばあの日、献血しないで帰っちゃったね」
「そういえば」
完全に忘れていた。献血をしに行って、ぶっ倒れている「南くん」と会ってしまってついついそのまま帰ってしまった。
「まあ俺も、献血できなかったんだけどね」
「え?」
血を抜かれて倒れたわけじゃないってこと? 広げられたビニール袋を漁っていた顔を上げると、南くんは面白そうに笑っている。
「もしかして、注射すら苦手とか?」
「うん」
血の気はないくせに、色素も薄い頬が少しだけ赤らんでいる。たまごサンドを片手に微笑む南くんが、だんだん女の子みたいに思えてくる。今のところ男らしいと思ったのは、自転車を漕ぐ速度くらいだ。
「多分、二人で行くと食べ物とかもらえるけど」
「ホント?」
食い気味で食らいついてくる。私も献血しておこうかな、こないだは逃しちゃったし。
「今度は倒れない?」
「昨日、バイトなかったから平気」
じゃあ、四限終わったら。そう言って、南くんは階段に寝転がる。枯れ葉なんかが溜まっているし汚れるというのに、全然気にする様子もない。……着てる服、結構高そうなんだけどな。今は貧困学生を演じているけど、南くんはやっぱり以前はお金持ちだったんだろう。有名ブランドのスニーカーとリュックは、それほど年季が入っているとも考えられないくらい、まだくたびれていないのだ。
まぶたを閉じている彼の横顔を少し眺めて、溜め息をつく。まあ、いいんだ。本人が望まないことを聞くことほど野暮なことはないだろうから。
南くんは異様なくらいににこにこして私のもとへやってきた。
「……お疲れ?」
「なんかウキウキしちゃって」
そんなに興奮すると、かえって貧血を起こしそうだけど。「南くん」くらいのイケメンが実に楽しそうに歩いていると、道行く人の視線をもらい放題だ。看護士さんも顔を赤くしていた。
南くんは、最初の採血で倒れることはなかったみたいだ。初めてのおつかいから帰ってきたみたいな顔で、私のところへ駆け寄ってきた。
どっさり書き溜めたので、明日からしばらく0:00予約投稿です。




