#59 心配かけない
また必ず来ます。そう言えたことは、私にとってはすごく大きな一歩だっただろう。南くんや恵さんには、何もかも先回りされてしまう。先回りされてしまうから、彼らもきっと無意識の内に予防線を張ったり、外堀を埋めたりするような形で物事を為すことが多いだろうと思った。だから、私から拳を突き出したかった。ずっと考えていたわけではなかった。けれど、咄嗟にその言葉が出てきた。
そんなことでも、自分が報われたような気分になる。ああ、きっと責任が持てている。どんな風に言ってもふわふわしていて形のないこの気持ちを、私はしっかり自分の中に持っている。そう思えることが、とても清々しかった。まるで、ここに来る前の私とは違う人間になったようだった。
昨日の買い物でも垣間見えていたけれどセレブらしい買い物が好きらしい南くんは、飛行機は夕方だというのに朝一番で空港に着いて、店という店を片っ端から覗き、土産という土産を片っ端から吟味していた。付き合っていたらキリがないということに途中で気づいたので、それからはなるべくベンチで暇を潰した。
「すごい待たせてごめん、お腹空いたでしょ」
「……前から気になってたけど、南くんってお金ないわけではないの?」
大きめの土産袋を二つ持って現れた南くんは、頬をつやつやさせてすっかりご満悦だったけれど、私の素朴な疑問を聞くなり、首を赤くして頭を掻いた。
「いや、まあ……。ここに来るためにも、貯金、しなくちゃいけなかったから」
「貯金……ねえ」
改めてその姿を頭の先から足の先まで見てしまう。うん、これは絶対外見には私よりもお金を使っている。それで普段は廃棄のパンを食べて、貧血でたまに倒れたりするのは、あまりにも――。
ダサい、と言いかけて、口をつぐむ。どれだけお金持ちだったかは知らないけれど、一人暮らしも始めてそれほど時間が経っていないはずだ。身の回りのことをバランスよくできなくても当然なのかもしれない。それで周りに迷惑は、――そんなには――かけていないわけだし。
「俺、ちゃんとするよ」
なんと声をかけたらいいかわからなかった。私だって、気が向いたら簡単な自炊をするくらいで、どうにかしてあげられるほど生活が整っているわけではない。夏休みになって元気な彼を見ていて忘れていたけれど、彼は平日はいつもものすごく消耗していたのだった。
「ホントに倒れちゃったりしたら、私だって責任感じるから」
茶化そうとして、困った声色になってしまったことに更に困る。けれど、南くんは真剣な眼差しだった。
「ちゃんと、けいさんに心配かけない」
何故だかそのセリフは、どんな甘い言葉よりも、ずっと胸の欲しかった場所に突き刺さったような気がした。




