#58 好きだね
ジャージ姿の南くんは、今更恥ずかしそうにするものだから、私のほうが恥ずかしくなる。お風呂上がりだとか、すっぴんだとか、寝る前だとか、もう気にするような仲ではないけれども、そんな顔を見ると、だ。
「俺はさ、割とお節介、ホントは焼きたいタイプ」
人と関わらないようにしなければ、踏み込まれるのが怖いというくらいだ。本当はその人懐っこいえくぼの通り、人に突っかかるのも、突っかかられるのも好きなんだって、私はもう知っている。変な形であれ、私と南くんの仲は、彼から始まっているのだから。
「けいさんは……あんまりそういうとこ、見せないから。話してくれて嬉しかった」
それは、お互い様だ。『南くん』の本性を知ってしまったのは、彼が私に仕掛けたことは原因の一つかもしれないけれど、ほとんどが偶然と言って差し支えない。酔って泣き潰れたのだって、お互いわざとそうした訳ではない。
「結婚の話、絶対断った方が良い、って言えるのかなって、考えちゃった」
「それは仕方ないよ。お父さんのことも、吉澤くんのことも、知らないんだし」
何か案が欲しくて話したわけではない。事実説明の責任を果たしただけだ。こうなるってわかっていたから、他人には話せないことだった。もしこう言っているのが恥ずかしいからで、私が本当に彼と結婚したくても、他人にはわからないことだ。
頭をこれでもかというほど掻きむしりながら、南くんは足元を見つめて言葉を選ぶ。気を遣われてる、のとは違う。彼なりに、適切な表現を選ぶようなことは、今までいくつもあった。
「でも、けいさんがそれで困ってるって気は、した。だから、何か力になれるなら、どんな理由でも協力したい」
ああ、怖い。怖いくらいわかってしまう。そんな風に言うのは、私を困らせないためだ。けれど、わかってしまう。南くんは、どうしようもなく私を好いてくれている。だから、何でもいいから首を突っ込みたいと言ってくれるのだ。
「……ありがとう」
適切な言葉は、私には思い付かない。どうしたら彼に報いてあげられるのか、わからない。吉澤くんのことを解決して、それから南くんに向き合って、好きだと証明できればいいのだろうか。どうしたら、彼を不安にさせないだろうか。
「けいさん」
手が、差し伸べられる。真っ赤な顔で、南くんは、照れ隠しみたいに首を傾げた。その甘ったるい雰囲気が喉にこびりついてしまうから、何も考えずに手を取らざるを得なくなる。
ゆっくり引き寄せられて、どきりとする。優しく背中に添えられた反対の手が、いやに熱い。手のひらは大きくて、けれど細いその指が、私の背中をしっかり包んでいる。
「……嫌じゃない?」
「……うん」
それは、責任を持って言える。顔を見られるはずがない。彼の胸の中で俯くと、ジャージの襟から洗剤の匂いがする。私のとは、違う洗剤の。その青春らしすぎる驚きが、更に鼓動を速める。
「俺のこと、好きだね」
「……うん」
「……ありがと」
くす、と笑う声が、直に耳たぶにくすぐったくて、身をよじる。一度くすぐったいと感じると、いよいよ全てがくすぐったくて、この空間に二人でいることも、南くんの不思議な言動も、照れてしまって動けなくなっていることも、くしゃみが出そうなくらい恥ずかしくなってしまった。




