#56 約束の本質
「さて。それじゃあ、改めてけいちゃんの歓迎会ね」
「おう!」
あまりに自然に南くんが合いの手を打つものだから、え? と聞き返すのに時間を要してしまう。食事の準備を手伝いながら薄々感づいてはいたが、今日も今日とてとても豪華だ。山盛りの唐揚げ。山盛りのポテトサラダ。カルパッチョのようなサラダ。およそ、普通の女性二人暮らしの食卓に上がるメニューではないだろう。
「恵がそう言うものだから、色々作ってみたんだけど……。ちょっと、多かったかな?」
「俺、こう見えて大食いなんで!」
にやり、と笑むタイミングが母子で全く同じで、仕方ないか、とつられて笑ってしまう。こうやって許してしまうのは、既に私が南くんに、彼らに染まってしまっている証拠だ。それに、南くんと恵さんはしっかり話せたんだと思う。二人の間には、今、何の遠慮も違和感もない。まるで、ずっと一緒に暮らしてきた家族のように。
恵さんは、梗介をよろしく、とは言わなかった。南くんに、恵さんは一人にしたりしない、と言ったのは、間違いではなかったという思いが強くなる。これが、この家族のやり方だ。再び一緒になる日を信じて、離婚して離れて暮らし、バラバラになることを恐れない。いつ本当の離れ離れになるかわからないという現実を突きつけられても、一人だって強く生きてみせる。それが、彼ら同士の『約束』の本質だったのだろう。
改めて私を温かく迎えてくれる恵さん達を見ていて、自分ばかりただの被害者の顔をしている訳にはいかないと思った。だから、吉澤くんのことは正直に話した。こんなことをほとんど初対面の人に話すなんて、私にとっては考えられないことだったけれども。
「だから、その、南くんとのことは、これから考えさせてください」
「勿論。この子、知れば知るほどダメなところばっかりでしょう? 適当なところで見切っちゃって、大丈夫だからね!」
「さすがにそれは酷いって!」
恵さんも、南くんも、優しさで茶化してくれる。言葉数も多くない私がこんなことを口にして、本気で考えてないなんて思わないだろう。
「でも、梗介と付き合ってくれるなら、これだけは約束してね」
この時は、このことはきっと沖縄から帰っても忘れない、と思った。けれど、次の日、朝起きて南くんの背中を見たとき、自宅に戻って一人で目を覚ましたとき、思い出すたびにその言葉は強くなった。
二人で世界で一番幸せになるのよ! と、恵さんはまるで自分の結婚式のように泣きそうな笑顔だった。




