#55 親であって親でない
幼い頃から、父親にすごく似ていた。きっと自分にも似ているのだろうけれど、あの人――壮介さんに似ている部分の方が、自分にはよく目についた。私をピアノの下に寝かせて、ポロンポロンと音を弾いたので母親を愛していると伝えてくれた。絵本の世界じゃあるまいに、木に登って二階の私に話しかけに来た彼と同じだった。
最後に壮介さんの言葉を聞いたのは、三年前に梗介が訪れて来た時だ。
父さんにも言われた。恵ちゃんもきっと呆れるよって。星の数ほどもいる女にフラれたからって泣くなって。この私が愛しているんだから自信持ちなさいって、きっと言うはずだって。
すごく久しぶりに、大きな声を出して笑った。次の日に筋肉痛になったお腹をさすりながら、悲しくなると同時に嬉しくなった。家族と暮らさないとは、そういうこと。自分の言葉で励ませない弱虫の夫の代わりに、息子を励ます存在になれること。だから勿論、笑い飛ばしてやった。そんなに良い男なのにウジウジするなって。貴方のお父さんは、何回木から落ちても登っていたよって。
梗介がけいちゃんをどんな目で見ているのかはまだわからない。彼女にとって、梗介のような存在はイレギュラーだろうとは思う。けれど、大事なところで弱虫な梗介のお尻を、どういう形でか叩いてくれたのだろうと思う。昨日、梗介が自白する前、外から帰ってきた二人の顔を見たとき、そう確信した。
「ごめんなさい」
「何が?」
「何がって……」
明るすぎる髪の毛の色も、派手すぎるシャツも、サングラスも、本当は彼らしくて好きだ。仕様もない人。ダメなんて言っても、困ったように笑いながら止めたりなんてしない。とんだ頑固者だ。こうして、あくまで私を持ち上げてくるところだって。
「順番が逆だと思うけど、帰ってくるのがこんなに遅くなっちゃったのも、大学のことも、謝ってなかったと思って」
帰って来い、なんて言っていない。会いに来い、なんて言っていない。自分は彼にとって永遠に親でありながら、もう親ではない。それを選んだのは私だ。そうさせたのは、私の病気だとしても。
「親心子知らず」
「え?」
気がついたら、眉を垂れ下げている姿ばかり見ていた。久しぶりに会った息子に、けれどもう息子ではないその少年に、どんな言葉をかけて愛を伝えればいいのかわからなかったのかもしれない。ただ、寄りかかって欲しくなかった。一人でも生きていけるように、こうして私がここに暮らしているのだから。
「おかえり。愛しているわ」
涙を堪えることは、数年前にやめた。人間らしく生きられることの尊さを教えてくれたのは、他でもない壮介さんだ。息子のために怒ることも、笑うことも、泣くことも、限られた時間の中でしかできないことだ。今、途端に溢れ出してしまうのは、受け入れてしまったから。彼がもう一人になってしまったことと、二人で生きていこうとしていることを。
あけましておめでとうございます。
遂に年を2回もまたいでしまいましたが、優しくて笑顔になれる愛情あふれるお話を続けていきたいなと思っています。
今年も南くん共々よろしくお願いします。




