#53 情の音感
「隠し事するの、珍しいよね」
「……え?」
「なんとなくね。けいって、別に俺に話すようなこともないじゃん、いつも」
狙い澄ましたかのようにかかってきた電話は、晴貴くんからだった。彼は私が出たのを確認すると、一息ついて、まず最初にそんなことを言った。
「ちゃんと話してくれるよね」
溜め息みたいだった。今まで、彼がどんな風に思って私と接してきたのかなんて、考えてこなかったのかもしれない。今ここに来ているのは、紛れもない逃げだ。いきなり私の家に来る強引さもあるけれど、彼は私のために、今までずっと責任はとってくれていたのではないか。
「……うん」
約束は、できない気がしてしまった。けれど、あんな風に晴貴くんのことも認めようとした南くんの手前、ちゃんとしなきゃいけないことはわかっている。逃げ続ける方法ではなく、私が責任を持って彼のためにも行動しなければいけない。
「晴貴くん、その、ご飯とか、ちゃんと食べてる?」
「何それ。勝手に来て、勝手に困ったりしないよ。心配しないで」
急に気を遣おうとしたら、当たり前のようにとってつけたみたいになる。けれど、やっぱりそうだ。いつでも彼は完璧だ。抜け目なんてあったら、自分の決意に意味がなくなる。他人に迷惑なんてかけたら、その選択の説得力が弱くなる。
「うん、ごめん……。お土産、買っていくね」
「なんか元気ないね。美味しいもの、何か作るから一緒に食べよう」
完敗だ。南くんとはまた全然違うけれど、彼には勝てる気がしない。ちゃんと婚約者みたいじゃないか。手先が器用で料理が得意なのも知っている。何回か、ウチでご飯を作ってもらったことがある。私は隠し事をして、知らなかったにせよ、南くんと結婚するみたいなていでこんなところまで来てしまったのに。
「ありがとう」
ふふ、と笑う声が聞こえる。珍しい、と思ってしまう。大学に進学してからは一年に一回くらいしか会っていないけれど、それより以前でも、彼が笑ったところはあんまりイメージができない。そのくらい、いつも何を考えているかわからないし、表情に出さない。
「やっぱり隠し事してるんだなぁ。けいらしくないや」
返す言葉が見つからない。私らしいとは何なのか、曲がりなりにももう何年もの付き合いだから、彼は知ってくれているのだ。私は、何も知らないのに。
「ところで、南 梗介って誰?」




