#52 選べない子
自分の人生を選択するというのは、一体どういうことなのだろう。海辺で南くんが言った言葉は、私にはまだ考え尽くすことができなかった。それだけ、彼とは違う人生を歩んできた。今まで、この二十年間、ずっとそうだったのだ。彼の言葉で言えば、「そういう責任から逃れてきた」。利己的にならないために、選択を他人に委ねようとした。
この問題から逃げていることも、父親や晴貴くんに自分のことを決められまいとしているのではないのかもしれない。反抗しないのはおかしい、と思う。反抗さえすれば、その後どのように丸め込まれたとしても格好はつく。まるで義務みたいに、深く考えることもなく、ただ彼らに不理解を示していただけなのかもしれない。そうすれば、自分の選択が間違っていたかどうかなんて、考える必要はないのだから。
「けいさんが本当に、一生選択しないままなら、それに文句は言えないのかもしれない」
南くんだって、利用しようとした。それが動機の100%ではなかったにせよ、こうして私を恵さんの元へ連れてきた。だから、私の意見も聞かずに、なんて憤る権利はないのだと思う。だから、ほんの少し怖かった。今まで私と付き合ってきて、一応合意はしたものの強引にこんな形になった彼と、晴貴くん両方を肯定する言葉を、ちゃんと責任をとろうとする南くん本人ですら言えないのではないか、と。
「俺からも一回、逃げようとしたよね」
嘘をついた、とまでは言えない。私は南くんのかぶった仮面を、最初から知っていた。そのせいで、弱いところを隠して、ニコニコ笑っていなきゃいけないんだと思った。私みたいに、勘違いだけする女の子を増やすのが南くんのしたいことじゃないってわかっていたから、自分が泥に足をとられる前に彼にそんなことをやめさせようと思った。「私だけが知っているありのままの南くん」を奪われることになると気づいて、もやもやした気持ちを抱いていることに驚いていた。驚いたまま、どうしたらいいかわからなかった。本来の通りクラスメイトと仲良くなる南くんに、自分が遠くなることが悲しかったからといって、どうすることもできないならば、その苦しみから逃げることしかできなかった。
「けいさんはさ……。自分で選べない子だ、って、俺も思った。その晴貴って人がどんな人かは俺はわからないけど、そんなけいさんを自分の役に立たせて、それで幸せにしてやればいい、って、すごく責任感があるなら、本気で思うのかもしれない」
私が南くんの人生を左右したとしても。彼の、それが自分の選んだことだから、という言葉で全て上書きされてしまう。飲みに誘ったことも、指輪を奪ったことも、南くんのことを知る大きなきっかけにはなったけれど、いつだって語り始めるのは南くんの方だった。




