#48 手を繋いでいよう
南くんが、進歩したこと。お母さんとお父さんについて、知りたかったこと。私と出会って、こんな風な形になっていることも、含まれるのだろうか。そんなことを思いついてしまったせいで、なんだか急に異様に恥ずかしくなってしまった。
商店街から目的もなく歩いて行って、塀の向こうに海の見える道に突き当たった時、私は既に南くんのかなり後ろの方を歩いていた。
「けいさん!」
「えっ、あっ、何?」
アスファルトに色濃く落ちる自分の影の中に何か落とし物をしてしまったみたいだった。太陽に焼かれていないそこを睨みつけて、自分の足元ばかり見ていた。南くんの急な大きな声にぱっと顔を上げると、キラキラな笑顔の彼の後ろに、もっと輝く海が見えていた。
私が俯いて歩いていたことにその時気づいたと見えて、南くんは首を傾げながら手を差し伸べて戻ってくる。迎えに来られるのも恥ずかしくて、衝動のままに小走りで向かう。
「ふふ」
「?」
見上げた南くんが何だか絶妙な笑みを浮かべている。何故だろうかと三秒間考えて、慌てて手を退けた。
南くんがこっちに来る前に彼のところへ行こう、と、それだけ考えていたせいで、思わずその差し伸べられた手をとっていた。なんだか「恥ずかしい」の沸点が下がっている私にとっては、そんなことすら焦りの材料になる。
「……ダメ、かな?」
「や、ダ、ダメ……じゃ、ない」
顔の横まで挙げてしまった右の手のひらと、私の手が離れるなり寂しそうになった南くんの顔を交互に見て、なんとか口にする。いちいち恥ずかしい。どうしてだろう。今まで、男の子の手に触れるというだけが、こんなに恥ずかしいと思ったことはなかった。南くんの手に触れることも、初めてではないのに。
「ありがと」
柔らかく戻った南くんの顔に見とれてしまう。なんて幸せそうな顔をするんだ。それが自分のおかげだ、なんて思うことは、いくら彼のお願いでここに連れて来られたとしても、できない。南くんがそう言ったって、そう思えない。
温かい肌の感触と、滑らかな骨が滑っていって、二つの手のひらが重なる。これすらも、南くんは、きっと。
何も言わないで塀のところまで歩いて行く。民家の裏手の、なんでもない小さな道だ。車も通らないし、カモメが辺りで私たちを見つめている。塀を跨いで腰かけた南くんに続くと、彼は握った手に少しだけ力を込めた。
「話してほしい。けいさんのこと」
息を吸い込む。素直にならなければいけない。裸の自分で、向き合わなければいけない。
胸がドキドキする度に、少しだけチクチクした。吉澤は、父親は、私がこんなことをする度に、きっと少なからず怒ったり悲しんだりしていたはずだった。それを見ないふりできていたのは、本当は知らなかったからだ。
自分がこんなに他人に何かを求められ、他人の何かを求めるのには、自ら責任をとりたくなるものだと。




