#46 トントン
何も言い返せず無言で見つめ合った後、南くんはみるみるうちに顔を赤くした。やっぱり。そうだろうとは思ったけれど。
「ご、ごめん」
「いや、うん、えっと、反応に困るだけだから」
いきなり真に受けられるはずがない。南くんは、見てくれだけなら世界で一番キラキラしているんじゃないかってくらい魅力的で、しかもこういう時はたいていとんでもなく良い笑顔なんだから。
「けいさんの服、暑そうだから、なんかそれっぽい服買って着て歩こうよ」
「うん。今更だね」
「言いそびれてたなって」
今がそのタイミングだという風には全然思えなくて、思わず噴き出してしまう。浮かれているのかな。混乱しているのかな。いつも以上に突拍子もない南くんだけど、今ばっかりは許せてしまう。そもそも、彼のお願い事を聞いている段だから。
「うん、やっぱりそれにしよう。かわいいから」
「……鼻血は?」
「ごめん、忘れて」
仕返しのフリでもしなければ、恥ずかしくて消えてしまいたいところだった。いつの間にか入店した時よりも賑わっている店内で、派手なイケメンの南くんは派手に目立っていて、たくさんの女の子たちの視線を浴びていることに気がついたから。それでなくても、男性がいて、真剣に試着室に服を運び続けているんだから異様だった。
「よーし、プレゼントしてあげよう」
「それだけは絶対ダメ」
「え、なんで」
「気持ち悪いから。気持ち悪いって……ええと、後味が悪い? 感じ。私、貯金の使い道ないから。選んでくれてありがとう」
使って失くなるものならまだしも。有形財産はあまり迂闊に受け取りたくない気持ちがあった。南くんに、負い目を感じることになりそうで。
中途半端な表情で固まっていた南くんは、何かを考えていたのか、急にストップモーションをやめて後頭部を掻いた。唐突に残念そうな表情で、少し俯いてしまう。
「俺、けいさんに借りばっかりな気がする」
「南くんのお金で沖縄旅行してると思ったら、トントンもいいとこだよ」
その一言だけで、ご飯を見せた時の犬みたいに目に輝きを取り戻す。南くんの扱い方は、だいぶわかってきた気がする。仮面をかぶっていない南くんは、最初から表情に感情が出やすかったけれど。
店を出た時、サングラスをかけながら南くんがいけね、と呟く。
「……初デートでかわいい服着たけいさんと沖縄歩けるので、また一つ増えちゃう」
いい加減、甘ったるいことしか言えないこの人を少しだけ黙らせたいと思った瞬間だった。




