#45 笑ってくれたら
「俺、どれもけいさんが着て笑顔を向けてくれたら、多分鼻血出して倒れると思う」
そういう冗談は上手く受け流せないからやめてくれって、言えない私もどうかと思う。
知らない。初めてだ。どんな顔をしたらいいかもわからないし、今どんな顔をしているかもわからない。
「次、こっちね」
押し付けられたオレンジ色の柔らかい布地を突き返せるはずもなく、すぐにカーテンを閉めた南くんには困った表情で伝えられるわけもない。
観光客とそれを迎え入れる店員とで賑わう商店街は、南国らしく派手でビビッドな色に溢れていて、ギラギラと照りつける太陽の光に反射してあまりにも眩しい。南くんの襟ぐりに引っかかって揺れるサングラスは、この土地でなら必需品なのかもしれない。都会の暗さに慣れた目は、すぐにでも焼け付いてしまいそうだ。
急にウキウキし始めた南くんは私の意見を問うこともなく先を歩いて行って、一通りキョロキョロした後、一軒のお店に入った。どう見ても、レディースファッションのお店に。
そして今の今まで、恐るべき速さで服を手に取っては試着室に閉じ込められた私に着せて、感想を言うでもなく次々と服を持ってくる。どこから突っ込めばいいのかわからない私に何も言わせる暇も与えず、真剣な表情でたくさんの服を選んでくる。
ノースリーブのワンピースを着た自分が、鏡に映っている。こんな服、普段は絶対に着ない。自分に自信がないからでも、女の子らしいのが嫌いだからでもないけれど、似合わないと思うから。ベルトで絞ったって凹凸のない体型には苦笑しか出てこないし、そもそも、サンダルとかパンプスとか、そういう靴が苦手だ。
「けいさん?」
「ご、ごめん」
声をかけられて慌ててカーテンを開く。三枚ほどの洋服を片腕にのせて、南くんは首を傾げて顎に手をやるという、探偵さながらの格好でうーん、と息をつく。
「可愛いのになんか微妙だなって思ったらさ」
「……うん」
私には似合わないって言いたいのかな。スカートの裾を無意識に握る。普段着ている服にはないような、さらさらの手触りの生地。綺麗な明るい色の、女の子らしい服。
「ううん、やっぱいいや。それで、けいさんはどれが気に入った?」
少しニヤリ、と笑って、何だったのかは言ってくれなかった。気になるままだけど、聞けない。そりゃあ、思ったよりも微妙だったかもしれないけれど、そうだとしても直接は聞きたくない。
「どれも可愛いけど、着れないよ」
「え、なんで」
「なんでって……」
南くんが私を真剣な瞳でじっと見つめるから、言葉が出てこなかった。偏屈になっていることなんて、言えない。と思っていたら、すぐに心底幸せそうな笑顔を浮かべる。それは、胡散臭いほどに。




