#44 初デート
恵さんは食卓には現れなかった。具合があまり良くなさそうだったから、と表情を曇らせるあきさんに申し訳なくて、三人で俯いて朝食を食べた。
やはり、無理させてしまったのだろうか。そんなことを考えたって仕方がないのだけれど。私が、ちゃんと早い段階で口を突っ込んでいればよかったのだろうか、とか、考えてしまう。
「気にしないで。普段運動もしないんだから、少し張り切ったら疲れちゃうものよ」
沈み込む私たちを見て、フォローするようにあきさんは笑ったけれど、やはりその表情は気にしていない風では全然なかった。
「それより、二人でどこか遊びに行って来なさいって。昨日の夜、恵と話していたのよ。梗介くんも前は高校生とかだったから、あんまり沖縄では遊んでいないでしょう?」
私と南くんは顔を見合わせ、そのことが面白いのもあって、同じタイミングで笑う。意外なことを切り出すのは、やっぱり恵さんなんだ。
「私、沖縄初めてなんです」
「俺も確かに、あんまり遊んだことない」
すぐに、あきさんが笑顔になった。彼女が箸を置く音で、暗い雰囲気だった朝食は終わりを告げたみたいだった。
「じゃあ決まりね。駅まで車出してあげるから、思う存分遊んで来なさい。大学生なんだから、好きなように、ね」
結局、恵さんとは顔を合わせないまま、出かけてきてしまった。あきさんはそのまま仕事に行くらしく、昨日よりも更にしっかりした綺麗な格好で私たちを乗せて行ってくれた。
「大変そう、だね」
「うん。ホントは、母さんの両親とあきさんで住んでたんだけど、祖父母が亡くなって。あきさんは元々ヘルパーやってたし、ああいう具合で仲は良いからさ。不安なアメリカの土地で、知らない人に世話されるよりはって、沖縄に来たんだ」
あきさんの運転する赤い車が去っていくのを見つめながら、南くんはすらすらと語ってくれた。もう、嘘も隠し事もする間柄じゃない。知ってほしいことも、知りたいことも、どんどん知っていって当然なのだ。
降り立った道路の脇にはヤシの木が立っているし、駅の感じも自分が知っているのとは全然違う。ハイシーズンの観光地ということもあって、アロハシャツみたいな派手な服装の人もたくさんいる。遠くに来てしまったという実感が、ようやく湧いてくる。
「ね、俺、良いこと思いついちゃったから行こ。初デートが沖縄っていうの、全然悪くないよね」
振り向いた南くんは、いつもの百倍くらい人懐っこい笑顔で、あまりにも甘ったるい雰囲気を振り撒いているから、きっと私は物凄く変な顔をしていたと思う。返事をした声がすごく上ずってしまったのも、南くんがそんなにキラキラしてるのが悪いんだ。




