#43 仲睦まじい
目を覚ました時、あまりにも暑くて、首にまとわりつく髪をかき上げようとしたところで、私にくっついて寝息を立てるその人に気が付いた。南くんが私を抱き締めた体勢のまま眠ってしまったのだと悟り、急に恥ずかしくなる。その腕を引き剥がそうとすると、それを拒むようにさらに力がこもる。
「み、南くん! 起きて!」
人を起こすのはあまり好きではない。だから控えめに声をかけると、んー、と声を漏らしてもぞもぞと動く。スッキリと起きようとしない南くんの鼻が、私のうなじを探る。
「ひゃっ」
くすぐったくて声が出る。なんとかして逃れようと身をよじっていると、目を開いた南くんと至近距離で目が合う。もう、唇もすぐそこってくらいに。
ぱちり。音がするくらいゆっくりと瞬きを繰り返して、南くんの目の色がだんだんはっきりとする。そして、こっちもビックリするくらい勢いよく私から離れた。
「ご、ごめん!? 待って待って、どういうこと」
キャラメル色がくしゃくしゃになるのも気にせず、南くんは頭をかき回す。唇を引き締めて眉を寄せて、赤い顔で私を見つめる。
「ん、んーと……」
つまり、そういうことだ。昨晩、勝手に近づいてきた南くんと私はそのまま眠ってしまったのだ。頭ではわかっているものの、混乱している様子の南くんに説明するのは少し恥ずかしい。
寝起きの顔でまじまじと見つめ合うのも気まずいし、黙って朝の支度をすることにする。半ば南くんを無視するように階下に降りると、ちょうどエプロン姿のあきさんと対面する。
「あら、おはよう。今起こしに行こうと思ってたの。梗介くんも起きてる?」
「おはようございます。はい、起きてます」
「そう。早川さん、手伝ってもらっていいかしら?」
「はい。あの、顔洗ってきます」
思いの外、あきさんの表情はすっきりしている。昨晩、恵さんがあれだけ怒って、確かにその後に彼女らと顔を合わせたときは、私に対して変に怒ったりするようなことはなかったけれど、それでもお互いにもやもやを抱えていたことは確かだ。なのに、あきさんの様子は、むしろ安心して眠れたように、晴れ晴れとしていた。
「私も恵ほどではないけど、少し心配してたの。でも、二人、仲良さそうでよかった」
「……はい?」
キッチンであきさんの隣に立つ。彼女は鼻歌混じりでお鍋をかき混ぜて、私を見て羨ましそうに目を細めた。
「だって、抱き合って眠っているんですもの。あれよね? 梗介くんの説明が足りてなかっただけで、二人は、ちゃんとそういう仲なんだよね?」
思わず、手に持っていた大皿をぶちまけそうになった。
「え、ええっと」
つまり、あきさんに見られていたということだ。私たちも気づかず二人くっついて眠っていたところを。
「梗介くんも恥ずかしがらないでしっかりくっついててくれれば、恵ももう少しわかってくれたかもしれないのにね」
開いた口が塞がらない。妙に嬉しそうなあきさんと顔を合わせるのも恥ずかしく、ただただ差し出された料理を食卓に並べていく。
「私、恵を呼んでくるから。早川さんは梗介くんお願い」
それなのにそんなことを頼まれてしまって、変に緊張する。朝ご飯の準備ができた、だなんて、まるで新婚みたいじゃないか。
「なに、何。けいさん、熱でもあるの? 大丈夫?」
赤い顔のまま客間に現れた私を見るなり、南くんは駆け寄ってきて火照る頬を冷たい手で包み込み、額に手をやって、自分の頬にその手を添えてみたりなんかして、大げさだ。そんなことよりも、そうやっている彼の顔が、当たり前のように、あんまり近くて、私はぶっ倒れそうになる。
「……南くんのバカ」
「何? 聞こえなかった」
首を傾げてとぼける姿もカッコ悪いわけがない。一発殴ってやりたいくらい恥ずかしかったけれど、円満に見せておかないとますます恵さんに悪い。南くんの代わりに襖を睨み付けて、ドタドタと階段を降りた。




