#37 手を繋いで行こう
「だから、恵さんに謝らないと」
「……え?」
「私、梗介くんのお嫁さんじゃないもの」
恵さんが私にあんなことを言ったのは、決して私を見抜いたからではなく、私が南くんとそういう関係だと思っていたからだ。さっきの一言で私と南くんの仲が確かに進展したとしても、恵さんを騙していることには違いがない。
「…………」
南くんは、複雑そうな表情で唇を噛み締めていた。わからないだろう、きっと。彼は、無意識のうちにこうやってやってきたのだから。
「ねえ早川さん。俺の言ったこと、本気にしてくれてない?」
「本気にしてるよ」
南くんの手をひょい、とすくった。汗ばんだ手のひらに、私のそれがぴったりとくっつく。
「梗介くんのずるいやり方は、全部なかったことにしよう」
私が南くんや恵さんに同情してイエスと言ったようでは意味がない。それじゃあ、南くんが望む形にもならないだろう。
「怒ってるの。順番が違うでしょ?」
結婚がダメなら付き合って。南くんの不器用がそんな風に言わせたことはわかっているけれど。私たちの異様な関係を丸く納めるためには、もっとちゃんと向き合わなきゃいけない。
南くんの唖然とした表情は、その手が私の手を握り締めるのと同時に微笑みになった。
そして、耳まで真っ赤にして、こう言った。
「俺、ホントに早川さんに会えてよかった」
いつも少し恥ずかしいことを平気で言うくせに、いざ気持ちを伝えようとすると、とてもじゃないけど回りくどい言い方しかできない。そんな南くんがなんだか面白くて笑ってしまった。
「ねえ、このままコンビニまで行っていいの?」
「……うん」
そんなことをわざわざ聞かれるのも、あまりにも恥ずかしくて。
でも、南くんがそうやって子供みたいにはしゃいでしまう理由も、少しだけわかってしまうから。恵さんが涙まで流した南くんの今までを、幸せに塗り替えられるとしたら。
私も現実を見なくちゃいけない。そう、強く思った。




