#34 台風の目
恵さんが出掛ける準備をするから、と私と南くんは客間で待機することになった。南くんはなんだか目をぱちくりさせていて、らしくなくてちょっと面白い。
「早川さん、母さんと話したの?」
「うん、ちょっとだけ。やっぱり、梗介くんに似てるね。すごく優しい人だった」
キャラメル色も半袖短パンも、母親の前で困り果てるただの少年みたいな南くんにはとても不似合いに思える。バナナを投げつけられ、写真立てを投げつけられ、思いきり怒鳴られる南くんなんて他じゃ見られなかっただろう。
「優しい……かな」
苦笑いして見せる南くんは、そうか、怒られてしかいなかったから、不思議なんだ。
「梗介くんのこと、ちょっと聞いたよ」
大事なことは、聞けずじまいだったけれど。キラキラの王子様としか思ってなかったのに、たくさんの悲惨を抱える南くんのことを、また少しだけわかった気がしたんだ。
「母さん、愚痴ってたでしょ」
「うん、まあね」
恵さんが、南くんを心配するあまり涙を流すほどだなんて、彼女のためには本人に言えない。女二人だけの秘密にしておかないと、と思った。
「梗介くん、ええと、早川さん?」
呼びに来てくれたあきさんは、ようやく私と目を合わせてくれた。
「あ、はい。南くんの大学の友達の早川 けいです。よろしくお願いします」
「あら。梗介の伯母の上原 あきです」
あきさんはほっとしたような笑顔になる。彼女からしたら、きっと普段から恵さんの心配もして、振り回されて、それに南くんも加わって気が気でなかったろう。私がどんな人であれ、ある意味味方だと思ってくれた気がした。
「すみません、ご迷惑おかけします」
「いいのよ。どうせ、梗介くんに無理矢理連れて来られたんでしょ?」
「ええと、その……」
「恵があんなだから慣れっこよ。気にしないで」
さすが、と言うべきなのだろう。南くんの破天荒の血の源との付き合いの長いあきさんは、さすがに疲れただろうと思ったのに、むしろ嬉しそうに笑った。
「恵があんなに元気なのは、二人のお陰だもの」
「あきー! 早く行くわよ!」
ああもう、と言ってあきさんは階段を駆け降りていく。その横顔が、笑っていた。
「病人の癖に、一番元気じゃん」
南くんも心の底から幸せそうに見えた。
家族を繋いでいたかった南くんと恵さんはやっぱり親子だ。周りの人を振り回しながらも、そうやってみんなで幸せになろうとする。
私がそれに少しでも加われることが、今はとても嬉しいと思った。
更新滞っていてすみません。
しばらくほぼ毎日更新はなかなか難しそうです。




