#33 青春時代
「見てもいいですか?」
涙と交代するかのように美しい微笑みを湛えるようになった恵さんは、抱擁を交わしたせいか、本当の母親とも違う、聖母みたいな人に見えた。暖かさと、美しさと、心の内側から安心できる何かが溢れているように見えた。
「うん。あの子が小学校に入る時に、日本で撮ったのよ」
手に取った写真立てもその中の写真もとても綺麗で、大切にされていることがよくわかる。そして、アメリカ育ちの南くんが、こうして私にも違和感のない形で、いわば昔ながらの写真屋さんに撮ってもらったような写真に写っている。
「私、英語全然喋れなかったから、日本人が多いところに住んでたのよ。梗介は、周りの友達はバイリンガルばかりで英語も日本語も覚えたけど」
そうか、だから南くんはどこか日本離れしているのに日本人と普通に話せるし、英語を呟いたりもするんだ。
「あの、いつから……」
「あの子が中学に上がる時。だから、もう10年近いかな」
恵さんは、美しい女性だけれど儚さを感じさせない。ベッドに座っている様子は病人らしいのに、年齢よりも一回りは若く見える。彼女の表情も口調も声色も、少女のように素朴で、まだたくさんのことに興味津々で、そしてたくさんのことを愛しているような。
「私、あの子の青春時代をあんまり知らない。でも、前に来てくれた時、すごく落ち込んでて。母さんに相談したかったから来た、ってまで言って。あの子の周りにはね、父親の会社が目当てで来る子か、会社なんて自分の親が持ってるか、特に日本人はそんな子ばっかりで。あの子の父親は一代で成り上がっただけだし、普通の恋愛をさせてあげたかったのに、なかなかそうもいかなかった」
「恵、入っても大丈夫?」
「ああ、うん。けいちゃん、また二人でゆっくり話しましょうね」
南くんのことは、やっぱり知り合って数ヶ月の私よりもずっと多くを知っている。彼の経歴は噂ほどではなかったにしても物語にあるような壮絶なもので、本人に傷を残している。そのことが、彼の本当の経験を知ることでいよいよ具体性を増していく。それは、私が彼とちゃんと関わるためには良いことだけれど、少し心苦しいとも思う。
「あき、梗介、買い物行くわよ。けいちゃんもね」
扉を開けて入ってきた気まずそうな表情の二人が、一気に驚いた顔に変わる。やっぱり恵さんは南くんよりも、ずっと台風の中心にいるような人だ。私は二人とはちぐはぐに、思わず、笑顔になった。




