#28 自分で選んだこと
沖縄まで3時間。南くんは、睫毛を伏せたままじっとしていた。天気は悪くなかったから、機内はとても静かだった。時間を潰す手段を持ち合わせていないことに気付き、荷物入れのパンフレットをぺらぺらとめくる。
結局、吉澤 晴貴は無視してしまった。私の部屋に泊まるつもりで来て、今頃途方に暮れているんだろうか。でも、あの人は多分大丈夫だ。私が帰ってくるまで待っているだろう。逃げている間に、一度は話をしないと帰ってくれないかもしれない。
吉澤 晴貴は、中学校の同級生だった。いたって普通の、少しだけ変わった男の子だった。そのはずだったのに、気が付いたら顔も合わせたくない相手になっていた。彼のことが嫌いなわけじゃない。むしろ今でも好きだし、尊敬もしている。好きだからこそ、もう関わるわけにはいかない。
それもこれも、全て父のせいなのだ。彼の考え方は、私にとっては明らかにおかしい。確かにそれに乗っている吉澤 晴貴もおかしいけれど、あの人にも事情がある。誰も幸せにならないことを推し進めようとするなんて、頭がおかしい。
「……何の話?」
「え」
気が付くと、南くんは顔を上げてこちらを見ていた。パンフレットを開いたまま読むこともなく睨んでいただけの私は、気まずくなって慌ててそれを荷物入れに戻す。南くんの目は真剣そうだった。もしかして、何か口に出ていただろうか。
「み……梗介くん、大丈夫なの」
「落ち着いてきた。心配してくれてありがと」
南くんの顔色は淡い。気分が良くはないんだろう。だからなのか、声色はあまりにも柔らかい。目を細めただけなのに、儚くて綺麗な雰囲気が溢れた。
「なんで会っちゃいけないんだっけ?」
「え?」
「早川さんのとこに泊まりに来る人」
「……彼の人生を左右するから」
そんなことをいつの間にか委ねられている時点で、勘弁してほしい。知らずにそうなっていることは勿論ないわけではないのだろうけれど、私の意思と関わりのないところでそれはいつの間にか成立していた。私は、反対しているというのに。
「俺、早川さんに左右されてるけどな」
「…………」
それは、南くん自身が選んだことだ。友達になったのも、友達をやめようとしていることも。
そこまで考えて、はっと気づいた。吉澤 晴貴を憎んでいないにしても、彼と最初に接触したのは私なのだ。この状況は、私自身が選んだ結果ではないと、言い切れるだろうか。
「……ごめん」
「やりたくてやってるから」
そう言ってくれると思った。南くんは不器用にも伝えようとしてくれたのかもしれない。人のせいにするだけじゃなくて、自分の責任だと認めなくてはいけないことがたくさんあるって。だけど、私を責めたいわけでもないと。
無責任に一緒にいると言った相手からプロポーズを受けた現実から逃げているとしても。




