#27 飛行機
南くんと沖縄に行くことになってからは、ドタバタだった。いきなりバイトを何日もドタキャンするなんて初めてだったけど、友達の母親の見舞いだと正直に言ったら許してもらえた。父親からの着信は絶えず、常にサイレントマナーモードにしていても無駄に電池を消耗するのでやっぱり電源は切った。父親からだけじゃなく、吉澤 晴貴からも電話が来るようになったことには頭を抱えたけど、無視する相手が一人増えただけのことだ。
翌日の昼、空港集合。ヘトヘトになってやっと辿り着いた待ち合わせ場所には、リゾートにでも行くかのような格好の南くんが立っていた。空色の半袖シャツに、デニムの短パン。シャツの襟口にはサングラスなんかが引っかけてある。
そして、
「早川さん、日焼け止め持った? 良いのがあるんだよ、買っといたから」
なんて言って、金のパッケージのいかにも強そうな日焼け止めを私に渡した。私はと言えば、ジーパンにTシャツ、薄手のカーディガン。そんな格好でも、さすがに夏真っ盛りは暑い。そこまで考えて、気がついた。
「……もしかして、沖縄ってすごい暑い?」
「勿論、めっちゃ暑い」
沖縄なんて行ったことがない。南くんが異常に浮かれているというわけではなく、私の方が変だったのだ。これからの数日間を考えると、苦笑いしか出てこない。
飛行機に頻繁に乗る方ではない。帰省は新幹線と電車でできるし、家族での遠出ももう最近になっては全くしていない。個人的には、修学旅行で北海道に行ったっきりだ。それに、初めての沖縄だ。全国的にも人気のある観光地に行くのに、全く心が躍らないわけがなかった。けれど、隣にいるのは南くんで、不思議な気持ちにもなった。
「ねえ、なんで急に沖縄に?」
「うん、いや、早い方がいいかなって」
何が、と聞こうとしたら、隣に座った南くんは目を閉じていた。座席に背中を委ね、少し斜め上を指した顎のラインがとても綺麗だ。見とれていたら、彼の目はぱちっと開いた。
当然目が合う。南くんは少し照れたように笑う。
「俺、飛行機苦手なんだ」
あぁ、忘れていた。南くんは意外の塊なのだ。もう大の大人と呼べる歳なのに、海外に住んでいたのに、母親が沖縄に住んでいるのに、飛行機が苦手だなんて。
再び瞼を落とした南くんは、しかし、話し続けた。安全についての案内を聞き流しながら、徐々にうるさくなるエンジン音につられて、声も大きくなった。
「早川さん。俺、ズルいことした。保留にしたこと、帰るまでに決めてもらわなきゃいけない」
南くんの横顔は、いつでも眠りに落ちることができるくらい脱力していた。表情筋が緩んでも、頬のラインも鼻筋も、唇の形すらもしっかり美しい。だから、何も答えられなかった。




